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追憶の日/07

<ウェポンと>

戦うべく剣を背中から引き抜いた時、名前の握るロングソードに、黒い炎のようなものがゴウ、と包み込むかのように現れた。炎があれば便利なのかもしれない、と考えた途端に現れたこの黒い何かに流石の名前も驚きの声をあげる。

「炎か…うんうん、いいと思うよ」

それを見て、驚くことも無くむしろ何故か満足げに微笑む男は、名前の出したそれを指さしながら、さも当然かのように言葉を続ける。

「これで普通の剣で戦うよりかは戦いやすくなったんじゃない」
「この剣、こんな機能あったっけ…」

よくわからないが、これで戦いやすくはなったのだろう。ロングソードから立ち込める炎を左手で触れるが、熱は感じない。本当にこれで神様となんか戦えるのだろうか。むしろ、神様の皮膚に傷すらつけられる自信がない。

「黒い炎か…面白い」
「炎なんすかね?なんか…煙のようにも感じるけど…」
「熱くないの」
「うん…」
「へえ、本当だ」

敵意を向けた相手だけが燃えたりして。と人差し指を氷神へ向け、男はクツクツと笑う。

「そうなんすかね…だとしたらすんごい便利だなあ」
「ほら、早く戦いなよ、何ならこっちに呼んであげようか?」
「いや、結構です、遠くから隙を狙いますから」

気が付けば、周りは死屍累々たるありさまとなっていた。無傷なのはここに居る我々だけだ。名前は氷神の荒れ狂う最前線へと足を踏み入れる。死屍累々たるありさまではあるが、一部、生存者は確認できた。白い軍服の少年は、黒い炎を纏わせ現れた名前に、一歩後ずさる。敵と勘違いされているんだろうか、少年の瞳からはうっすらと殺意のようなものを感じ取った。

「敵じゃないっすよ」
「―――何者だ」
「士官生っす、ボルプ地方にある士官学校の……で、君は?」
「貴様に名乗る名などない」

うわ、そう思っていたとしてもそれを口に出しちゃうなんて、なんて素直な人なんだろう。こいつ、わたしと絶対気が合わない。名前は態度の大きい失礼な少年に対して内心あかんべーをしながら、黒い炎を纏わせたロングソードを振う。氷神の怒りの矛先は、どうやらこちらに向かったようだ。
赤い炎に包まれ、悲鳴を上げる氷神は次々に周りの魔導アーマーを破壊し、魔導兵たちを凍らせ、砕いていく。黒い炎は氷神の攻撃を受け止め、何度もはじき返してはくれたが今のところ氷神にダメージを与えるまでは至っていない。

「うっそ、もう、これいつ終わるのさ…」

前線で生き残っているのは、全身不思議な金属に包まれた男と、名前の向こう側で戦っている先ほどの少年だけ。戦っている最中、ある事に気が付いた。それは、ずっといたはずの、あの男の気配を感じないことだ。そして、遥か遠くから、氷神とは異なる異様な気配を微かに感じ取る。どうやら気配に敏感なのは名前だけではない様子で、向こう側にいる少年は名前と同じ方角を眺めていた。

「ねえ君、君も何か感じた?」
「―――貴様もか」
「わたし、貴様って名前じゃないんだけど、名前っていう名前が」
「やあ君たち、そろそろここを離れたほうがいいよ」

突如、通信機からあの男の声が聞こえてきた。

「どういう事だ」
「ウエポンがそちらに向かっている」
「ウエポン…?」
「君たちは感じただろう、空の向こう側…俺たちが今運んでいる存在の気配を」

通信機の向こう側からクツクツと笑う男の声に、まるで汚らわしい物でも見るかのような表情を浮かべる少年の横顔を名前は凝視する。ああ、この少年はあの男が嫌いなのか、となんとなく察した。

「名前、作戦変更……氷神の足を切り落とせ」
「え?何、作戦なんて元々聞いてないんですけど?」

神様の足を切り落とすなんて、そんな事できるはずが無い。名前は無理です、と答える間もなく低く、鋭い声で男は命令を下す。

「身体が吹き飛んだら拾ってやる、だから、揚陸艇の姿が見えたら、何が何でも、氷人の足を切り落とせ―――いいな、片足だけでも構わない」

今から10分ぐらいで到着するから、よろしくね。と優しいような、どこか狂気を孕んだかのような声色で囁かれ、名前は思い切り顔を顰めた。こいつ、優しいんだか優しくないんだかよくわからない奴だ。この男が何を考えているかはわからないが、こちらに向かっている嫌な気配を発している者がここで大暴れすることは間違いないだろう。

「…もうやだこの人」
「氷神に、貴様如きが立ち向かえるとあの男は思っているようだな」
「ほんと、ほんと、もっと言ってやって!」

此方を睨みつけてくる少年に、名前は大げさに肩を竦める。

「―――貴様は、人間か」
「わからないよそんなの、もうどうでもいいよ、人間だろうと化け物だろうと…ああ、わたしは新刊の続きが読みたい……早く仕事終わらせようッはい、切り替え完了!」

すると、名前の持つロングソードから発せられていた黒い炎は次第に全身を覆い、全身鎧のようなものに変化する。それからの戦いは、苛烈を極めた。氷神に切り込んでいく名前を眺めながら、少年、レイヴスは彼女から只ならぬ何かを感じれずにはいられなかった。吹き飛ばされ様とも、凍り付こうが、どうなろうとも神に立ち向かうその姿に恐怖すら感じる。
全ての生命が死に絶えそうな凍てついた空気の中、黒い炎に身を包み、彼女は神に立ち向かった。

 

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Published in追憶の日