<圧迫面接>
将軍は小さく唸り、よしならば、と声を上げる。
「私に勝ってみろ、そうすれば認めてやる」
「…それは」
「3人でかかってこい」
うわぁ、まじですか、すごい自信ですね…いや、正直3人でかかっても負ける気がするんだが、2人の熱意に胸を打たれたおれは、2人の為にもおれ自身の為にも頑張らなくちゃいけないんだな、そんな気にさせられた。子供の頃は勇者になりたいとかそんな幻想を抱いていたけれども、それに似た何かを感じた。
「えっとすいません、作戦会議してもいいですか」
「構わん」
「ありがとうございます…えっと2人とも、作戦どうする?」
「馬鹿、大声で言ってどうする」
「…どうする?」
中学生みたいなヘマをしたおれだが、間違った事は言っていない。作戦も無しでかかれば負けるだけ。それだけおれたちには実力が無い。2人も戦場経験はないし、まぁ、おれ以上に修行はしていたみたいだけれども。
「ロウェル、お前は俺よりも素早い動きができる、切り込み隊長に決定だな」
「わかった、承ろう」
「…問題は名前だ、こいつ、体力もなければ根性もないどうしようもない奴だ、そうだな…俺がロウェルに続く、お前は後ろで黙って見ていればいい」
俺達の実力、お前に見せつけてやるぜ、どやっ。おいおい、いくらおれが雑魚でもこんなところでどやどやする余裕なんてないぞ。だが、足手まといになることは確実。とりあえず2人が苦戦していたら加わろう、そんなことを考えながら試験は始まった。
2人は自慢していた程、それなりに強くて正直あの上官たちよりも強いんじゃないかと思わせる程。その2人相手のセリス将軍も汗1つ流さず流石だ。他の班の面倒も見ていたと言うのに、この余裕。おれなんてこの人に比べたら体力は10分の1程しかないんだろうな。
「アデルバート、お前は加わらないのか」
「えっと…はい、足手まといになるんで…」
「そうか、見下げた根性だ」
すっごい見下された、今すっごく見下された。いや、そうなんだけどさ、実際。2人を相手しつつ雑談する程の余裕。試験が始まり30分が経過した頃、セリス将軍にも汗が滲み始めた。戦っている2人は10分くらいから汗を流しているが、この差は歴然としている。少し押し始めているようで、2人の動きもいい感じになってきた……ような気がする。
「腰が甘いぞ、クルセル!」
「っぐ…!」
「手元が揺れているぞ、ハート、それでは敵を倒せないぞ!」
「はいっ!」
あぁ、なんだろうこのアウェー感。おれってここにいる意味ある?存在理由ある?今さらなんだけど、すごい場違いだよな、やっぱりおれ、ここ止めるべきだ。一生懸命な2人に対しておれの存在は非常に失礼極まりない。
それから15分後、痛恨の一撃をくらい2人は吹っ飛ばされた。腕に深い傷を負い、もう戦える状態ではなかった。この人新人相手に容赦ないな…って、それどころじゃないか。
「大丈夫か?」
「…っぐ…大丈夫に…見えたら…お前はとんだ馬鹿だ」
「…はぁ…勝てない…強い…強すぎる…!」
当たり前だろ、相手は常勝将軍だぜ。
「…もう負けを認めるか、私に勝たない以上、お前達がここにいることは認められない」
「まだ、諦めません、勝つまでは…!」
「くそ…やってやるぞ…!」
おお…ほんと、すごいな2人…おれ、素直に尊敬するわ、今までちょっと馬鹿にしててごめん。血まみれになりながらも戦う2人をみて、おれはあることに気がついた。おい、そろそろ出血多量で死ぬんじゃないか、と。
「おい…それ以上血流したら死ぬって…」
「だが、諦められない…お前が諦めるようなところで、諦めてたまるか…!」
「だけどさ、命は大切にしろって言われたろ?」
「だったらお前も加われ!戦う気があるならな!」
それはごもっともですよロウェルさん。この2人、なんだかちょっと好きになってきたし、ここで負ければ2人の夢は崩れ去ってしまう。2人の夢をかなえさせてやるためにも、おれもひと肌脱ぎますか。おれは視界を良くするためにメットを脱いだ。これ、重たいし動きづらいし、臭いし汗かくしで嫌なんだよな。だけど、これが無いと頭が守れないのも確か。流石に将軍でも頭は狙ってこないだろう。おれは両親の形見でもある剣を左手でさやから抜き、倒れる2人を守るようにして立つ。
「…ほう、中身は木偶の坊だが、立派な剣を持っているな」
木偶の坊は余計ですよ、事実だけど。
「両親の形見ってやつですかね、誰かの為にっていうのは今までしたことがないんですけど、まあ戦ってみます…お手柔らかに」
「…来い」
ちょっと、話聞いてました?お手柔らかにって頼んだんですけどすごい剣幕ですよ。2人のおかげで体力はそぎ落とされているためか、力がすこし弱くなっているような気がする。が、おれが敵うような相手じゃないぜ、おれもどうして挑んだんだろう。
「っいてぇ…」
いや、ほんと痛いです。両親が遺してくれた優秀な防護服に感謝するしかないなこれは。さもなければ今頃2人のように血まみれでぶっ倒れていた頃だ。
2人は立ちあがる力もないのか、ただこちらを見守っている。やばい、そう感じた時あることを思い出した。そういえば…昔お遊びで使ってたアレ、ここで使えるんじゃないか?だけどなぁ、アレで遊んでたらおとんとおかんに叱られちまったから、子供の時以来やったことないんだけど、成功するだろうか。
突然空気の変わったおれに気がついたのか、距離を取る将軍。
2人もそれに気がついたようだ。
「…お前」
「すんません、子供の頃にやったっきりで、ちょっと加減とかできないかもしれないんで…」
「―――!」
おれは持っている剣に子供の頃したように、力をそこに集中させた。火は危ないから、ここは水だな。
「―――お前、まさか…!」
一体何がはじまるんです?そんな顔をしている2人に振り向き、小さく笑いおれはそれを実行した。2人とも、勝てないかもしれないけれどもやれるだけやってみるよ。
鉄の剣は突然光り出し、何処からともなく現れた水に覆われそれを振り下ろす。すると強い勢いを保ったままそれは将軍めがけて襲いかかる。これが、おれが子供の頃遊び半分でやってたことで、人には絶対に言ってはいけない、と言われていた力だ。
「…魔法!?」
「おい、お前魔法使えたのかよ!?」
これ魔法ってやつなのか、初めて知ったぞ。
それにしても、将軍めがけて剣を振り下ろしたはずなんだけど、どういう訳だか吸収されてしまった。まさかおれ、失敗したのか?
「…魔法を使えるのは、私だけではなかったのか」
「これ、魔法なんですか?」
「なんだ…お前、気づかないで使っていたのか!?」
「えぇ…両親には人には絶対に言うなって言われてたんですけど…それ以来振りなんで、失敗しちゃいましたが…」
「―――いや、お前は失敗していない…これは私の力だ、魔封剣という力で…魔法を吸収することができるんだ…しかし、驚いた…」
戦う気がそがれてしまったのか、剣をしまってしまった将軍。それをぽかんと見つめるおれ。2人は未だに先ほど起こった出来事が信じられないようでおれをじっと見つめている。
「…2人の力は認める、力も根性も申し分ない、だが…アデルバート、お前は別だ…私についてこい」
「えっと…その、2人は合格って…ことっすよね?」
「無論だ―――」
その事実に胸をなでおろす2人。ちょっと待ってよ、おれ、何処に連れて行かれちゃうの?何も言わない将軍に結局ついて行ったおれは、とんでもない人物と会うこととなった。いや、はじめまして?
「…一体どうした、ん?その者は?」
「名前・アデルバート…新人だ」
「君が連れてくる、ということは何かあったのか?」
この、独特な髪形と風格の男はレオ将軍、おれのようなペーペーが会えるような人物ではないことは確かだ。
「彼は魔法を使った…」
「何、それは本当か!?」
「あぁ、この目で確かに見た、この者は、子供のころから使えたと言っていた…魔導の実験を受けていないにも関わらず、だ」
「…それは興味深いな…アデルバート、君はいつからその力に気がついた?」
突然話を振られてびくっとするおれ。情けないよな。でも仕方ないんだって、レオ将軍、すんごく強そうだし、怖そうなんだもん…
「えっと…多分、3歳くらいの頃からですかね、両親が行商人をしてたんで、商売道具を振り回してたら出来るようになってたというか…」
商売道具を勝手に振り回して怒られてたと思ったんだけど、まさかこの力の事だとは思わなかったよ。