<噂の新人>
「セリス、皇帝がお呼びですよ」
突如部屋に現れた男、こいつが噂のケフカだ。この人物の噂でまともなうわさを聞いたことが無い。なんでも、とんでもなく理不尽なんだとか。昼間の上司たちの話をふと思いだした。
「…ケフカ、タイミングよく現れたな」
「ヒッヒッヒ、一体なんです?」
「…この者が、魔法を使ったそうだ」
「それは何の冗談ですか?それが嘘ならばただじゃおきませんよ」
このピエロメイク、何時間かかってるんだろ。そんなことを思っていると何を考えているのか分からないその視線をかちあい、おれは硬直する。じろじろと見定められ、おれは動けずその場に立ち尽くした。助けてくれ2人とも、おれ、何されるんだろ。
「…ふうん、どれ、その力とやらを見せてみなさい」
「ということだ、先ほどのを見せろ」
「…わかりやした…」
さっきは水だったよな、攻撃しなくてもいいんなら、あれを使おう。
剣が先ほどのように光を放ち、そしてそれはびりびりと地面を揺らす。ばちばちと雷光を鳴らすそれを見て、ケフカとレオ将軍は目を丸くさせた。
「先ほどのとは違うが、お前はいくつかの魔法が使えるのか?」
「えっと…炎、水、氷、雷は使えます…他は、試した事はないです…」
「ふうん…面白い、これは面白い奴を見つけましたねセリス!お前の使う魔封剣とは違うものだ…剣を使わなくとも、魔法は使えるんですか?」
何度か剣無しで試してみたが、剣が無いとうまく力が伝達できないのだ。それを伝えると小さく唸り、何か考え事を始めたケフカ。試しにほかの3種類も見せたが、レオ将軍はありえないとばかりの表情。やっぱり、おかしいのかおれは。
「いい名前が思いつきましたよ、魔法剣、なんてどうです?」
「…あ、ありがとうございます」
「お前の所属は?」
「えっと…Eランク、第12班です…」
「ほう、お前のような逸材がそんな使い捨て班だとは…もったいないですねぇ」
使い捨て…なんだかとんでもない言われようだな。
「ケフカ、そんな言い方はよせ」
「レオ将軍、だってそうでしょう?何も知らない若い兵に、事実を教えてあげなければかわいそうでしょう…それに、この者は滅多に見つからない逸材ですよ、ホッホッホ」
ケフカという人物にえらく気に入られたようだ。おれは結局、その後セリス将軍と共に皇帝の間で謁見することになった。というか、ここの皇帝一瞬耳がたれた犬のようにも見えたが、近くで見たらそうでもなかった。こんなことを考えていたのがばれたらおれは間違いなく処刑だろうな。皇帝の命により、おれは明日からレオ将軍の直属部隊に昇格することとなった。まさかの大出世だぜ、おとん、おかん、見てる?おれまじやべーことになってるからさ。
あの2人はセリス将軍に気に入られ、セリス将軍直属部隊に昇格。うん、ハッピーエンドだなこりゃ!おれがどこに入るか色々討論されてたけど、ケフカはおれを自分の隊に組み込みたかったようだ。だが、力のバランス上、魔法を使えないレオ将軍の隊に入ることとなった。というか、レオ将軍って魔法も使えないのにこの地位ってすごいな。
おれは明日からは別の部屋に移動となるので、2人と同室なのも今夜が最後だ。部屋に帰ると誰もいなくて、まぁ…2人とも出血多量だったから入院中なんだけど。輸血中のために病室に入ることも出来ない。とりあえず、朝起きたら2人ともびっくりするだろうなぁ。
「荷物はまとめたか」
「おわっ、レオ将軍!?」
「何を驚いている」
「いや…その、まさかここに来るとは思ってもみなくて…」
「明日からはお前は直属の部下だ、部下の身を案じて当たり前だろう」
おれ、ほんとうに恵まれた上司にめぐり合えたようなきがする。今まで会ってきた上司達ってなんであんな陰湿なやつらばかりなの?馬鹿なの死ぬの?
「なんだ、持ち物が少ないな」
「はい…まぁ、あるい程度は売り払っちゃいましたから」
「武器と防具を残しておいたのは正解だったな」
「へへ…両親の形見みたいなもんすから」
「お前も両親を失ったか、ここには同じ境遇の者が多い」
中にはアンタ達が故郷を奪ったって人もいるんだろうけれどね。流石に口には出さなかったが、この人もそれなりの経験をしているに違いない。
少ない荷物だったためか、部屋を出る準備はあっという間に終わった。結局一人ぼっちで一夜を明かし、早朝おれはその部屋を後にした。さようならぺーぺーだったおれ、そしておはよう、新しいおれ!
「今日からこの者が新しく入ることになった、入隊して一カ月としては異例の昇進だが、皆仲良くしてやってほしい」
「…名前・アデルバートです、えっと、よろしくお願いします…」
うわぁ、見たことのない人達ばかりだ。それに、流石はレオ隊、いかにも強そうですっていう雰囲気に満ち溢れている。朝の自己紹介が終わり、おれは早速用意された部屋へ向かった。レオ将軍直属部下となれば部屋もそれなりに豪華で巷の宿屋くらいの広さとベッドが用意されていた。うん、昇進最高、今まで寝てたかっちんかっちんの薄っぺらいベッドとは大違いだ。あいつらもセリス将軍の部下になったんだから、それなりの部屋を用意されてるんだろうなぁ。
「今日はまず、お前に基礎体力の向上トレーニングを行う。セリスから聞いたが、お前は折角の才能をその体力の無さで無駄にしているそうではないか」
「ははは…そうみたいっすね」
「笑い事ではないぞアデルバート、今日から彼らと共に特訓だ」
いかつい顔の男たちに囲まれながら、汗臭いその空間でのトレーニング、いや、今さらだけどなんていうか、ほんとここって潤いが少ないよな。昇格したおかげで休日が週2日もとれるようになったので、給料が降りたら早速帝都のバーにでも女の子をひっかけに行こう。おれの下心に気がついたのかレオ将軍はおれの背中をびしっと叩き、余計な事を考えず集中しろ、と言われてしまった。はいはい、そうですね、ごもっともです。
「お前、魔法が使えるって本当か?」
「どうして入隊する時にそれを言わなかったんだ?」
ようやく訪れた昼休み。おれの体力は既に限界です。社員食堂というか、兵士専用の食堂でおれはお茶をちびちびと飲みながら先輩達に囲まれていた。前いたとことは違って全員ベテランなので、おれの立ち位置は言うまでもない。どこからそんな話を聞いたのか、先輩たちはおれの魔法剣について色々質問してきた。
「えっと…ここがそれに力を入れてるなんて知らなくて…あと、頭のおかしい奴だと思われたく無かったんで…」
「確かに魔法なんて大昔の力だからな、実験も受けず使えるなんてティナ・ブランフォードくらいだからな」
「…誰ですかそれ?」
「お前知らないのか?ここにきて小さな女の子を見たことないか、その娘がティナ・ブランフォードだよ、なんでも噂によると皇帝が連れてきた子供らしいんだが……これに関しては俺達が関わるようなことではないから、詮索することも許されていないんだ」
国家機密というやつだろうか。先輩たちの言うティナという少女は、多分この間みた少女に違いないだろう。目が死んだ魚の様で何を考えているか分からないような子だった。
「魔法剣ってのは、自分で考えた名前か?」
「えっと、ケフカ様がつけてくれたんですよ」
「―――あの男にだけは気をつけろよ、ここだけの話、あいつの部下になって長く生きた連中はいない……」
ケフカってそんなに怖い人だったのか、いや、噂は色々聞いてたけどさ。
「でも、なんかおれケフカ様の部下になるところだったみたいなんすよ…力のバランスを考えて、レオ将軍の所になったらしいです」
「お前本当にラッキーな奴だな、ケフカの野郎の部下になってたら今頃どうなってたか分からないぞ…レオ将軍は帝国で一番信頼の厚い方だ、部下思いだし、いつもは厳しいがとても優しい方だ、オレなんて家族が死んだ時、葬式にまで出てきてくれたほどだぜ」
「そうそう、レオ将軍って本当に優しい方だよな、俺、レオ将軍の部下になれて本当に良かったと思ってる、それ以外は…正直ちょっと…なぁ?」
「あぁ…あの常勝将軍もなんていうかさ、きっつい感じだし…」
レオ将軍がどれだけ部下達に愛されているかよく分かった。セリス将軍はいまいち不評のようだが、おれはそこまで悪い人には思えなかった。だってさ、あいつらの事を思っていたからこそ試験でおれらを試していた訳であって、改めて覚悟を決めさせてくれたのもあの人のおかげだ。少なくともおれはそう思っている。
「…はぁ、そうなんすか」
「だが、セリス将軍も例の実験体だって言うじゃないか…」
「魔導の力を使う奴らって、なんか近寄りがたいよなぁ」
「そうそう」
その中にも一応、おれもいるんすけど。おれの心境は言うまでもなく。
「女のくせに偉そうでよ、一度俺はセリス将軍の部下になったこともあるんだが、とんでもなくきっつい仕事ばっかりだったぜ、労わりの言葉も無しとなればさぁ…なんかやる気も起きないしさ、で、運よく人事異動があってレオ将軍の所に来たって訳」
「お前も本当にラッキーだったよな、セリス将軍なんてまだ序の口だろ、オレなんてケフカの野郎の部下だぜ…?冗談きついぜ…まぁ、その人事異動でなんとかなったんだけどさ」
結局おれは、はぁ…などと頷く事しか出来ず、食事もあまり喉を通らなかった。いや、疲れてたんだよとんでもなく。おかげで午後はぶっ倒れて病室へゴーだ。病室で横になっていると突然研究所の服を身にまとった集団が現れ、おれのベッドを囲んだ。一体何がはじまるんです?
「君が名前君か、話では聞いておるよ…魔法剣となる力を使うとか」
「えっと、はい…あなたは…」
「よいよい、そこで横になっていなさい…わしは魔導研究所の所長、シドじゃ。滅多に外には出歩かんのじゃが、ケフカの頼みでの…」
だから、一体何がはじまるんです?おれ、どうなるんです?
「まぁまぁ、悪いようにはせん、ちと、血をもらうだけじゃ」
「ち、血ぃ!?」
「注射器でちょこっと抜くだけじゃ、なにも全部絞り取ろうなんておもっとらんから安心せい」
いやいや、全部絞り取ろうとか結構怖い発言ですよそれ。おれのようなぺーぺー(今は違うがな!)では会えないような人物であることは分かった。だけど、あなたが用意した注射器、けっこうでかい気がするんですが…
「さて、これぐらいでよいじゃろう」
「…へ、へぇ…」
これくらいって、結構抜きましたね、あなたも容赦のない人だ。おれは昔から注射とかそういった類が苦手なので、半ば泣きべそをかきながら注射を打たれた。20にもなって恥ずかしいったらありゃしない。
「血を取って…どうするんすか…」
「決まっておるじゃろ、君の魔力がどこからくるものなのかを調べるのじゃよ」
「…さいですか」
「ご両親も同じ力を使えたのかね?」
「いんや…使えなかったと思います」
「そうか…君はどこ出身なんだね」
「行商人だったんで…家っていう家もなくて、ぶらぶらしてたからわかんないっす…おとん、あ親に聞いてもいつもはぶらかされてたんで」
「そうか…いや、君のような人間はとても貴重なんじゃよ、魔法を魔導の力を注入しなくとも使える事がね」
同じセリフをケフカにも言われたような気がする。魔道と魔法ってどう違うんだ?今さらだけど。
「今のところ、そういう事例はティナしかなかったからの」
「その、ティナって子なんですけど…赤ん坊の時からここにいたって言われたんですけど、彼女の両親は…?」
したらまずい質問だったのかもしれない。シド博士は苦笑し、その質問は答えてくれなかった。周りの研究員もこれ以上詮索するなと言わんばかりの視線を向けてくる。だからさ、この国一体何なの?裏事情ありすぎでしょ。
「君は貴重な人材だ、身体を壊されては困る…ゆっくり眠り、早く元気になりなさい」
「はい、ありがとうございます」
とりあえず眠ろうとしてたおれを起こしたのはあんたたちだからね?勘違いしたら困るんだからね、危うく壊されそうになったのはあんたたちのおかげなんだからね?もう注射とかやめてよね?