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剣の記憶/04

<お見舞い>

ようやく1人きりになれたその部屋で、おれは安眠の時間を得た…つもりだった。

「ホッホッホ、情けないですねぇ」

「…け、ケフカ様…」

おいおい、一体何人お見舞いに来れば気がすむんだ?おれ、寝たいんだけど。シド博士は寝たままでいいと言ったが、ケフカは怖い人間だと聞いていたのでおれは無理やり痛む身体を起こし、ケフカに挨拶をする。この人がただのお見舞いに来るはずがない。一体何が始まるんです?

「レオ将軍からは聞きましたよ、なんでも倒れたとか」

そりゃ、見ればわかるでしょうが。あんたの目は節穴ですか。

「惜しいですねぇ、折角の力が台無し」

「…す、すんません」

「まぁいいでしょう、魔法も使えない能無しどもよりはマシですし、ヒッヒッヒ」

病人の傍で高らかに笑うのは構わないんですが、今夜中ですけど。おれ以外にも入院患者はいる訳でして…薄い壁を隔てて、この話を誰かが聞いているに違いない。

「喜びなさい、1カ月後にはお前の価値を分かりもしないレオ隊から脱退できますよ」

「…へ?」

今、なんと?おれはあまりの衝撃に頭をハンマーで殴られたような感覚に陥った。

「皇帝に直談判をしましてねぇ、お前を私の部下に迎え入れたのですよ、良かったですね、これでお前も皇帝直属の部下…将軍ではないにしろ、それなりの立場は約束されたも同然ですよ」

「…それはつまり、人事異動って訳ですね…?」

「募る話そんなところです」

おとん、おかん…聞いてください、おれ、たった数カ月の間で恐ろしいほどに出世しています。なぁ、このままいけばおれ、どこに行くことになるの?皇帝直属って、帝国だとかなりの地位のような気がするんだけど…。

「そのなんていうか、おれそこまで実力もなければ…その…」

人の上に立つような性格でもないし、それを分かっていてあえてそんな鬼畜的な人事を置くつもりでいるのだろうか、ケフカという人間は。

「安心なさい、私の言うことを聞いていればそれでいいんですよ、ティナにお前、最高の駒が揃いましたね、ホワーッホッホッホ、笑いがとまらん!」

駒扱いですか、そうですか。こりゃ、レオ隊の人達が言ってた事もあながち嘘じゃないな。おれの葬式にもきてくださいね、レオ将軍。翌朝、無事退院したおれは休暇をもらい、帝都にあるとあるバーに来ていた。そこは帝国兵の行きつけのバーで、昼間だと言うのに男たちは酒を浴びるように飲んでいる。中には見知ったかつての上司もいておれの存在に気づくや否や無理やり同席させられてしまった。

「お前昇格したんだってな…入って間もないお前が…ひっく、どうしてだぁ?」

「おい、知らないのか?こいつ例の力を使えるそうだぜ」

「…ひっく、ったく、んな力に頼らなくてもいいのによぉ…陛下は何をお考えになられているやら…」

「力も持ち腐れだよ、こいつなんて」

「昨日ぶっ倒れたって聞いたけどな、レオ隊に入れたっていうのに、実力の差は歴然としてるな」

これは俗に言う、後輩いびりってやつだろうか。一応この人達よりも地位は上なんだが、酒を飲んでいる彼らにとってそれはあまり関係の無い事のようだ。ばしばしと背中を叩かれて思わず涙がにじむ。まだそこ、傷の手当てしたばかりでふさがって無いんですよね。まじ痛いっす、まじ辛いっす。

「おぉ~お、泣きべそか?やめちまえやめちまえ!」

「お前のような奴は一生ぺーぺーでよかったんだ…俺達にこき使われてりゃよかったんだ」

「おい飲み過ぎだぞ2人とも」

「なんだお前、こいつの味方か?」

「いや、だからそう言う訳ではない…」

流石に2人は泥酔しすぎだ。こりゃ、翌朝起きたら記憶の無いパターンに違いない。それよりもさっきから肩なり腰なりをばんばん叩かれてるんだが、そろそろやめていただけないだろうか。周りも全然助け舟出す気ないみたいだしさ、おれどうなるんです?傷が悪化してまた入院?

最悪の事態を想像しながらおれは後輩いびりになんとか耐え抜いた。つーかこれじゃ全然休暇になってないし、1週間ぶりなんだよ、ちゃんとした休暇が取れたのはさ。おれはどうにか先輩をまき、帝国兵のいなさそうな場所を探すために帝都を出ることにした。チョコボのレンタル料はとてつもないが、歩くよりはましだ。時間は金では買えないんでね。帝国兵は休みだろうとなんだろうと支給された鎧を着なくてはならない規則があった。帝国ですっていうのを見せびらかして他国を脅かしてるっていう意味合いもあるらしいんだが、これを着ていると大体の街で好き放題できるんだとか。おれはそこまで下衆な奴じゃないから権力横暴なんてしないけどさ。チョコボに乗るのは大好きなのだが、これに長時間乗っていると痔になるという恐れがある。相手は動物だからな、長距離を何時間も移動できるからって人間がその揺れに耐えれる身体で生まれてくる訳ではない。鍛えればなんとかなる、そんな簡単な話ではないのだ。おれは行商人を手伝っていた頃、これでおとんが痔になってしばらく入院したことを思い出した。痔は侮れない、侮ると痛い目をみる、あれが酷くなると手術をしなくてはならない程だ。

向かうはツェン、あそこも帝国領地だがおとんの知り合いが経営しているアクセサリー屋があって、両親が死んでからは会いにいってなかった。帝国兵なんかになって、と嫌な眼をされるかもしれない、だがそれも承知だ。もしかしたらおれの立場を利用してあそこで横暴を働く奴をどうにかできるかもしれない。なんたっておれは、将軍直属の部下なんだからな。

「おや…これは帝国の方でしたか…どのような品をお探しで?」

「おじさん久しぶり、メット被ってるからわかんなかっただろ?おれだよ」

「…なんと、名前君か!帝国兵になったのか!?」

「おとんの借金があったからね…住む場所も無いし、とりあえず帝国兵になったよ」

「とりあえずって…帝国兵になるんならわしの仕事を手伝えばよかっただろうに」

この店がそこまで栄えていないことを知っているおれは、さすがにそこまで図々しいことはしたくなかった。というより、この店って正直おとんの店よりも大変らしいんだよな、土地代支払わなくちゃなんないし、住民税はあるし、帝国に占領されてからそれが倍の値段になったらしく、家計は火の車だ。

「おじさんに悪いよそれじゃ…ここの帝国兵はどんな様子?」

「うーん…名前君にだから言うが、正直迷惑だねぇ」

「だろうなぁ、ここにきたとたん住人の人の目の色がかわったもん…」

おじさんが言うには、アイテムなどを金を支払わず持っていったり、意味も分からず金を徴収しに来りと大変のようだ。よし、おれはこの立場をフル活用しよう。そう思い、今問題を起こしている帝国兵の元へと向かった。男は突然現れたおれに驚いていたが、なんだ仲間か、と気を緩める。その兵にからまれていた男はおれの登場に絶望したのか、はぁ、と壁によりかかった。だいじょうぶおじさん、おれがいま助けてやるよ。

「お前、階級は?」

「オレはBクラス、第1班だ…」

「あっそう、ここに来るやつで立場が一番偉いのはお前か?」

「あぁそうだ…生意気な小僧だな、貴様、一体何の用で来た」

「まだわかんないの?おれ、こう見えてもレオ将軍の直属部隊なんだよね」

ようやくこの男は自分の立場が分かってきたようだ。顔を真っ青にさせ、土下座をするおれよりも年上なこいつ。あぁ、おれって今、とってもいいことをしたんだよな。なんかすげー優越感。

「ここでこれ以上好き放題するんなら、実力行使するぜ…?」

「…す、すみませんでした、部下たちにはきつく言っておきます、では!」

逃げるように退却していくその様は、とても滑稽だった。なんかいま、おれすげー嫌な奴だよな。

「ありがとうございました…いや、助かりました」

「いいってことさ、おれも昔、行商人の息子やってたからさ、こういうのは許せないんだよね、こっちだって汗水流した金でアイテムを発注してるんだからさ」

「そうでしたか…お名前を聞いても?」

「名前・アデルバートだよ、おれのおとんの知り合いがここにいてさ、久々に会いに来たら教えてくれたんだ」

「そうでしたか、アデルバート殿、ありがとうございます、ツェンはいつでもあなたを歓迎しましょう」

おおお、これは勇者フラグか!?おれ勇者になっちまったか!?人の為に何かをするって、こんなに気持ちの良い事だったんだな。もっと早くからすればよかった。ケフカの部下になるのはちょっと複雑だけど、立場は色々と利用できそうだ。いい方向に利用すれば、問題は無いしな。

「名前でいいよ、おじさん。また何かあったらおれを呼んでよ、飛んでいくからさ…仕事が無い日ならね」

「ありがとう名前君、さて、このまま何事もなく平和になればよいんだがねぇ」

「そうっすねぇ…あ、でも流石におれ以上の地位の人相手だときついかも」

「はっはっは、君は正直だなぁ」

「そりゃそうっすよ、こんな愚痴帝国の人以外には絶対に言えないよ」

「帝国兵も大変なんだねぇ、まぁ…こんな時代だ、頑張りなさい」

「おう、ありがとなおじさん!そうだ、ここで落ちつけるような場所を知らないか?帝都だとさ、陰険な「元上司」たちがうるさくてさ…」

元、をあえて強調しておいた。あいつら、すげー悔しがってたな、おれの昇格。いい気味だ、あれだけおれを好き放題こき使っていやがったんだから、それぐらいの痛み味あわせてやらないとおれの気が済まない。

「それならばうちに来るといい、君のおかげで静かになっただろうし、お礼に酒でもおごろう」

「いやいやそれじゃまるでおれがそのために来たみたいで嫌じゃんよ、金は払うからさ、あいつらに搾り取られてきついんだろ?」

「…そこまで知っていたんだね、いいや、もうだいじょうぶだろう、わたしの気持ちだ、受け取っておくれ」

「…じゃぁ、お言葉に甘えて」

こうして、誰かとまったり酒を飲みながら談笑するのなんて何年振りだ?この職につくまでは金がきつきつで、居酒屋に行く余裕なんて無かったからな。おれは充実した休日を取り戻し、翌朝二日酔いで痛む頭を抱えながら帝都に戻った。ったく、ついつい飲みすぎちまったぜ…

「アデルバート、休暇はどうだった?」

「レオ将軍、そりゃもう最高でした」

「どこへ行っていたんだ」

「ツェンです、あそこで帝国兵が好き放題してたみたいでちょっと灸を添えてやりましたよ」

「それはいいことをしたな、我々はあそこを占領した身だが、最低限度のモラルは守らなくてはな…しかし、ケフカの所へ移動したら、そんな好き勝手は許されないだろうな」

「…まじっすか」

「あいつはそういう人間だ、行く前によく心得ておくことだ…まぁなんだ、何かあれば俺が話を聞こう」

レオ将軍、あんたってほんと、最高の上司です!できればあなたの所にずっといたいんですが!ほんとに!

おれはその日結局二日酔いに苦しめられ、翌日の朝の演習を危うく遅刻するところだった。演習が終わり仲間たちと歩いていると帝都のバーであった陰険な元上司と出くわした。通りがかったのがおれだと分かると、ぺこぺこと頭を下げ、愛想笑いを浮かべご機嫌取りに必死になっている。そうか、あの日の事を思い出したようだな。ここで優しい態度をとればおれは舐められる、これまでにないほど舐められてしまうだろう。あえてつっけんどんな態度をとり、おれは仲間たちのやりすぎではないかという視線を受けつつも朝礼場所へと向かった。

朝礼は毎朝行われ、重要な軍事会議も兼ねている。今回の朝礼では数カ月後に行われるドマ侵攻の配備が言い渡された。レオ隊は帝都で待機、ということになり向かうのは例の少女のいる隊とセリス将軍の隊だった。なんていうか、女性に戦場を任せるのは実に不本意だったが彼女たちも軍人だ、しかもおれよりも超ベテランの。何故、軍人になろうと思ったのだろうか。

「ドマが宣戦布告をしてきたんだ、受けて立とうじゃないか」

「オレ達の底力見せてやらなくちゃな」

別の隊がすれ違い際、つぶやいていたのが耳に入った。それにくらべてうちの隊は優秀だなぁ。そのことに関しては何も言わなかった。戦争が悪であることをしっかりと理解している証拠だ。隊によってほんとに様々なんだなぁ。ドマとは長年いざこざがあったみたいだけど、正直ここといざこざのない国なんて存在しないんじゃないかと思う。なんたって帝国だもんなぁ。あのサウスフィガロも6年前に落ちちまったし。

「名前、気を引き締めろよ…セリス将軍たちの隊が上手くいかなければ、交代で俺達が向かうことになるんだ」

「…ですよねー」

「ここに来た時よりかは随分と体力も伸びたが、まだまだだな、その力をしっかりと使いこなしてないし、未だに力の持ち腐れって感じだし」

「…それは、認めます…」

否定したくても否定できない現実。あぁそうだよ、どうせおれは力の持ち腐れだよ。だけど、厭味ったらしく言われないからまだいいほうかな。レオ隊の人達ってほんといい人ばかりだよなぁ。そういや、あの2人は今回の戦争が初遠征になるんだけど、大丈夫かな…出発前くらい挨拶しに行くか。

Published in剣の記憶