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剣の記憶/05

<噂の新人、配属先に困惑する>

ハードな演習が終わり、おれはレオ隊のいるA塔からセリス隊のいるB塔へと向かった。余談だけど、やっぱりおれメットが苦手みたいでいつも脱ぐことにしたんだ。レオ隊だし、服装もある程度自由になるのでそれは勿論快諾してくれた。昔の鎧は捨て、新しい鎧に着替えた。これはおとん達が遺してくれた防具で優秀な防御力を誇る逸品だ。これぐらいの地位になると装備品もフルオーダーできるらしいのだが、おれはこれを着たかったのでそれを丁重にお断りした。子供の頃あこがれた勇者の格好、とは程遠いがペーペーの頃よりかはいくらかCOOLになったはずだ。ぶっちゃけ、こっちの格好のほうが動きやすいんだよね。

「2人ともひっさしぶり~!」

「…驚いた、名前か」

「お前、向こうで元気でやってるそうじゃないか」

「なんだよそれ嫌みかよ」

「あぁ嫌みだよ、お前体力無さ過ぎ」

「…異論は認める」

2人は顔に傷が増えてたりしていたが、おかげで随分と体格がよく見える。風格もついてきたし、セリス将軍にびしばししごかれている証拠だ。おっと、これはエロい意味ではないぞ!

「噂できいたぞ、ツェンでさぼってた奴にひと泡吹かせてやったんだってな?」

「…あはは、ご存知でした?」

「そりゃぁもう、お前は色々と昔から問題を起こしていたからな、それなりに有名だぞ」

「魔法を使えるからなおさらな。俺達でもそれ、使えたりするのかね?」

「いや…多分無理なんじゃない?魔導の力注入しないと駄目っぽいし、すんげぇきついらしいぞ」

「そこらへんの裏事情も、この地位になると入ってくるようになったな」

「確かに」

2人はおれほどでもないが、それなりに元上司たちにはいびられていたので彼らにとやかく言える立場になれたことが嬉しいようだ。以前よりも表情かスカッとしているような気もする。

「それに、ケフカの隊に入隊するんだろ?ご愁傷さま」

「何勝手に殺してるんだよ、死んでたまるかっての」

「ほんと同情するよ…」

「なぁおれ、死にたくないよ…」

「諦めるんだな、あそこに入って長らく生きた者はいないらしいから。散々こき使われて、汚れ仕事を任されて死ぬか、うつ病になるかのどっちかだ」

最近はやりのうつ病ですか。

「毎日何かと罵倒されるらしいぜ、名前、なんとか理由をつけて断れよ」

「そうだよ、お前とは短い付き合いだけど、いい仲間だと思ってる、お前の為だ、ここは潔く断れ」

「なぁ、気持ちはありがたいんだけどおれどっちにしろ死ぬ運命じゃん、あの人に逆らえると思ってるのかよ」

「いいや、思ってない」

「ジョークだ、ジョーク」

「…どこからどこまでがジョークなの…」

「ケフカに直談判しろってところだけだ」

「いい仲間ってところもだな」

「全部じゃないのさ…おれ、泣きそう」

「はっはっは、相変わらずお前は面白い奴だなぁ」

「おれら友達だろ…友達をいじめるなよ」

「誰が友達だって?あぁジョークだよジョーク、今のはマジ。泣いたふりはやめろよ気色悪い」

「おいおれの扱い酷くなってないか?」

「気のせいだ、なぁ友よ」

「うう…」

友達、言われて嫌な言葉じゃない。様々な人がいるこの狭い世界、こういう人がいるといないじゃ随分違って見えてくる。初めは嫌だったけど、ここもそんなに悪くないんだなぁとおれは思い始めていた。帝国兵だろうとなんだろうと、人間であることには変わりない。みんなそれぞれの理由があって、それぞれ守りたい者のためにここにいるんだ。おれは多分―――

久々に友人たちと長い時間話をしていたおかげで危うく遅刻しそうになった。もうイエローカードなので次はないだろう。まぁ、これで罰を受けても悪い気はしないのは確か。昨夜のおかげで随分と気が楽になったし、楽しいひと時だったし。最近人生が充実してきたような気がする。ハロワのお姉さん、おれ、やっぱりここをやめないよ。

それから一カ月後、ドマとの戦いは過激化し、負傷者が多く運ばれてくるようになった。帰ってこれたやつは幸運だ。あいつら、元気にやっているだろうか、それだけが心配だ。

「もうお別れだなんて、寂しくなるな…」

「お前のこと、忘れないぜ」

「いやいやいや、先輩達、おれ、まだ死んで無いんですけど、なんで死んだと決めつけるの」

「…なぁ、そりゃぁそうだろ?」

「あぁ…言うまでもないな…何もしてやれないが、愚痴ぐらいは聞くぞ…」

人の心配をしているどころではないのだ、今のおれは。運命の一カ月後がやって来てしまった今日、おれは再び部屋を移動することとなる。荷物はあの頃よりかは増えた為荷造りにそれなりに時間がかかってしまったが、昨日のうちにそれを終えておいて正解だったなと思う。

「気をつけろよ、アデルバート」

「ありがとうございますレオ将軍、将軍もお元気で」

「あぁ…」

セリスの隊が壊滅状態のため、レオ隊の出動要請がやってきたのだ。相手も軍備を整えていたようで流石の帝国も焦りを隠せていないようだ。しかも援軍にリターナーの者たちが加わっているため、事態はさらに悪化している。こうして戦場体験をしないまま、ケフカの隊に入るのは実に不安だ。いや、経験しないに越したことはないんだけどさ。なんでもとんでもない仕事を任されるらしいからさ、それが不安なんだよ。体力は随分ついたぞ、勿論!だが、体力があったとしても経験だけは……ねぇ?

「アデルバート、何かあればすぐに俺を頼れ」

「将軍って本当にいい人だ…ありがとうございます、まぁ、向こうでも頑張ります」

「その意気だ。ケフカには毎回言っているんだがな……魔導の研究のせいか、あいつの性格はねじ曲がってしまった、昔はあそこまで酷い人間じゃなかったんだが……話が逸れたな、ともかく、ケフカ隊の部屋はベクタ城の真ん中の階だ、陛下の部屋から近い場所を充てられている」

それだけケフカという人物が重宝されているということ。皇帝の近くかぁ…なんか、今までのように落ち着いて眠れなさそうだな、どうしよう、何か粗相したら…昔掃除したあの部屋の奴と同じ目に会うのかな……

つーか、魔導の研究って一体どんなことしてるんだよ、セリス将軍もあれか、それできっつい感じになっちゃったとか?ケフカのメイクはそれが影響してるのか?いいや、あれは単純に趣味だろうな……でも、ほんのちょっとだけ、影響される前のセリス将軍が見てみたかった、なんてね。すごいおしとやかだったら?いいや、全く想像できない。これ本人に言ったら即叩ききられそうだ。

「どうした、恐怖を感じているのか?」

「いえ、別の意味での……」

「?」

レオ将軍、流石におれの今さっきの考えはあなたにでも言えないよ。仮にも将軍仲間だし……

おれは荷物を荷台に乗せ、用意された部屋へと向かった。ここも個室でレオ隊の部屋よりも豪華で王宮の一室と言ったところだろうか。家具もシンプルながら、いい物を使ってやがるぜ。こりゃ、部屋で剣を振り回したりできないな。

さぁ、いつまでもここでゆっくりしている暇は無い……たしか、あと20分後にケフカ隊の会議だったな……

「お前が本日から配属されたアデルバートだな」

「えっと、はい」

突然入ってくるなよな、せめてノックをしてくれ。心臓が飛び出るかと思った。上司であろうその男はおれを連れ、一足早く集合場所へと向かった。そこまで人数はいなかったが帝国の中でも特殊部隊と言える兵士たちがそこには集まっていた。いかにも強いですと言わんばかりの鎧を着ている者や、帝国でも珍しいヤリを使っている兵士がいた。なんだろ、空気もレオ隊と全然違うや……おれ、ここで上手くやっていけるのかな。さっきの人は優しそうだったし、なんとかなりそうだけどほかの人はなんていうか……ならず者の集団というか、なんというか。

「後で説明するが、この者が本日から配属された者たちだ」

今日配備された兵はおれの他にも5人ほどいて、セリス隊で見たことがあるような人がそこにちらほら混ざっていた。

右から順に自己紹介し、最後であるおれの番がやってきた。

「名前・アデルバートです……主に使う武器は剣で、魔法剣を使えます」

「…ふうん、お前が例の……ねぇ、ケフカ様が気に入られる訳だ」

「なんでも魔導の力を注入していなくても使えるらしいじゃないか」

だから、その話はどうしてこんなにも広がるんです?主婦の井戸端会議でも行われてるんですか?

「我々は帝国の中でも特別な立場にある、レオ隊や、セリス隊とは訳が違う……それを肝に銘じておけ」

ケフカ様は、レオ将軍とは違いお優しくはないからな、と忠告をしてくれた先ほどの上司。重要な事を教えてくれてありがとう、あなたとは仲良くやれそうだ。

「我が隊は帝国の真の剣であり、殺戮部隊だ。別の隊が成し遂げなかったことを成し遂げる存在、我々の存在意義はそこにある」

なんか…噂通りすげー隊なんだな、ここって。レオ将軍の隊が生ぬるく感じられる程だ。

「お前たちも知っての通り、いくつか魔導アーマーがある中、我々は特殊な魔導アーマーに乗ることが許されている。この中にはその道のベテランも少なくは無い。魔導アーマーだけではない、魔物を従える部隊も我々の一部である」

一通り説明が終わるとようやくケフカが現れた…いや、ケフカ様だな。ケフカ様は今回の遠征について散々愚痴り、そしてようやく本題に入ってくれた。新たに配属されたおれを含めた6人は、具体的にどの部隊に入るのか組分けされていった。で、最後であるおれの番がやってきた訳だが……

「名前・アデルバートでしたね、お前は私の傍にいろ」

ケフカ様の言葉に周りに動揺が走った。いや、まさかの配置ですよこれ。

「…えっと、それはつまり……」

「お前は私の雑用係だ」

「……はい」

雑用係、ここに来てまさかの雑用係。魔獣隊がちょっとカッコいいなって思ってたんだけど、まさかの雑用係ですか。

Published in剣の記憶