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剣の記憶/07

<人造魔道士>

時は流れケフカ様の雑用係をして3週間が過ぎた。最近になっておれも要領のいい方法を覚えたのか、書類の山を片づけつつ机の上には録音機を常にオン状態にしている。こうしていれば、いつ、何があってもおれの手を煩わせることなくケフカ様に話を伝えることができる。おれって天才じゃね?そんなある日、おれはケフカ様に連れられある場所にやってきた。そこは此処の中でも一部の人間しか入室を許されない、いわば禁断の領域。

「魔導研究所……へぇ、ここがシド博士のいるところなんすね……」

「そうですよ、博士は忙しいから邪魔をしないように」

「……はい」

案内されたそこには不思議な魔物?が5体ほど眠らされていて、こぽこぽと泡の立つその中に入れられていた。この魔物なんてとんでもなく怖い顔をしているな、人間にちょっと似ているけど、耳がとんがってるから違うか……今にも食ってかかりそうな形相だ。

「―――それは幻獣マディン、陛下と私が連れてきた貴重な魔導の力の源ですよ」

「幻獣?」

「知らないのか、お前は見た目も馬鹿だが、頭も馬鹿だったか」

どうぞ、お好きなだけ罵倒してください。もう慣れたよね、人間ってどんな環境にも適応できるんだぜ?まさに生命の神秘だろ……

「魔導の力はここから採取している…が、お前にそれを注入すれば今まで以上の力を発揮できるだろうねぇ、なんたって、これから本格的な遠征が始まる…ドマ攻略なんて序の口なんですからねぇ、ホッホッホ」

「え、一体どれだけの国を…?」

「全世界、征服ですよ――――」

おれはとんでもなく恐ろしい話を聞いてしまったような気がする。南方大陸ならまだしも、全大陸を支配しようと言うのか。たしかにそれだけの力はあるんだろうが、だが、それはちょっとやりすぎじゃないか?全世界支配したところで、何になるんだ?恐怖政治を敷こうってのか?というかおれ、今さっきそれ以上にとんでもないことを聞いたよな、これ、注入するって言ってなかったか?

おれの目の前にちらつくそれ。おれが大嫌いなそれ。

「う、わああああ注射ですか?注射ですかあ!?」

「煩い奴ですね、注射くらいなんだっていうんです」

「あああああのその、おれ注射苦手でその」

「多少痛む程度ですよ……そうですね、初めてのお前にはこれくらいで十分でしょう」

「えっとその痛いのだけは勘弁してくださいその針見るだけで筋肉引きつるんですおねがいですからその」

「ごたごたと口答えをするな、お前は誰に物を言っているんだ?俺を怒らせない方がいい」

機嫌が悪くなると一人称が俺になるケフカ様。ほんと、この時のケフカ様って怖いんだよね。仕方なくおれは手を差し出し、なるべく針をみないようにしてそれを受けた。おれにとっては決死の判断だ。

「終わりましたよ…どうです、何か身体に異変は起きましたか?」

「えっと……すごく……痛かったです」

「男のくせにだらしがないですねぇ、あれしきのことで」

「へ……へぇ……っそんなこと仰いますが誰でもトラウマはあるでしょう…ッ!?」

「もし身体に異変が現れたら私に報告なさい」

人の話、だからちゃんと聞いてって言ってるでしょ!?

「昔の実験に比べれば、随分マシになったほうですよ……私の頃なんて大変でしたからねぇ」

「…へ?」

「言ってませんでしたか?表ではセリスが成功の第一号ですが、本当は私なのですよ…」

「……そりゃ、知りませんでした」

「ホッホッホ、でしょうねぇ……過去のことなんてどうでもいい、思い出なんぞ何の意味も持たない…そうでしょう」

「え、まぁ、そりゃごもっともです、はい」

思い出って大切だと思うんだけどな。そういや、ケフカ様の過去の話なんて直接聞いたのは初めてだ。昔はここまでじゃなかったとレオ将軍は言っていたが、これが原因なんだろうな。よかった、おれは結構後になって―――じゃなくて、これってモルモットじゃないか?おれモルモットにされてないか?ん?おかしいな、どういうことだ?さらっとモルモットにされてたぞ……

「さて、これから演習場へ向かいましょう―――最近はずっと事務仕事ばかりでしたからねぇ」

怪しい笑みを浮かべるケフカ様…うわぁ、この人とんでもないことを考えていやがる……おれの顔がひきつったのは言うまでもない。おかげで注射器の恐怖が吹っ飛んだよ、ありがとう。

「さて、いまからあれに向かって魔法剣を放ちなさい、手を抜けばあれが苦しむだけですから、さっさと終わらせてやることです」

鎖で縛られた人間をアレ呼ばわり。おいおい、まじかよ…冗談きついぜ……いつかは戦場で人を殺すことになるとは思っていたが、これはそのトレーニングってやつか?

鎖で繋がれた男たちは総勢10人はいるだろうか。

「あの…この人達は……どうして」

「聞きたいですか、聞くだけ無駄ですけどね、どうせ死んじゃうんだから」

「……」

「この者たちは帝国の裏切り者、私の大切な人形を危険に晒させた奴らですよ……」

ケフカ様の人形、つまりティナって子のことか?あの子、確かまだこん睡状態だったよな……それで処刑って訳か。正直、知らない人達でよかったよ。いや良くないけど。

「さぁ、さっさと終わらせてあげなさい」

「……まじ、っすか」

「まじです」

「……わかりやした」

殺さなければ、自分が殺される。ここは戦場ではないが、ある意味戦場ではある。ここに連れてこられるまで長い間拷問されてきたのかその目には生命力が一切感じられない。時々うめき声を上げるだけで、中には早く殺してくれとせがむ者まで。いや、ほんときっついよ、人殺したことあるかって聞かれたら、あるって答えるけど……昔盗賊に襲われてだなぁ、あっちも殺る気できたし、おとんたち守りたかったから火事場の馬鹿力で殺ったけど―――これとそれでは状況が違う。

「さぁ、さぁさぁさぁさぁさぁ!僕にそいつらの悲鳴が聞きたい!そいつらが苦しむ様をみたい!そいつらが薄汚いその手で命を乞う姿がみたい!さぁさぁさぁさぁ!僕の命令を聞くんだ名前!」

ケフカが上機嫌になると一人称が僕ちん、や僕に変わる。今がその時。足をだんだん、手をぱんぱんしながら処刑を催促するその姿はまるでおもちゃを欲しがる子供のようだった。

しかしとんでもない奴だな、ケフカ様は。おれは、こんな外道を未だかつて見たことが無い。だがこれも仕事なんだよな……おれが決めた人生だ、しっかりけじめをつけなくては。せっかくおとんとおかんが残してくれた武器を血で染めるのは申し訳なかったが、命には代えられない。

「わかりやした……では、その……やってみます」

ごめんな、でも、おれ…自分が一番大切だから。手加減すれば彼らが苦しむ。だから、せめて最後だけは一瞬で天に送り届けなければ。剣を構え、魔法剣の体制を取る。すると、今まで感じたことのない不思議な力がどくどくと溢れだしてきた。もしかして、先ほど注入した魔導の力か?こりゃやべーな……ちょっと、コントロールがうまくできねぇ……!

「ケフカ様!離れててくださいやばいっす!」

「…なに?」

「多分さっきのアレのせいです、今までコントロール出来てた力が……魔力が増えたって言うんですかね!?ともかくやばいんで城内へ!」

「っち…仕方がない……あっちで見ているからな!」

流石のケフカも身の危険を感じたのか、一目散に退散していく。ケフカが離れたと同時に空に雷鳴がとどろく。その雷鳴は紫色の閃光を走らせるそれに集まり、剣を振り下ろした瞬間恐ろしい爆音が響き渡った。サンダー剣を使ったはずなのに、これじゃサンダガ剣だ。

おれはいま、10人もの人間の命を一度に奪ったんだよな…?でも実感がわかないのは……直接切りつけていないから?それとも……

その後のケフカは今までにないほど上機嫌で、そのまま今さっきの出来事を皇帝に伝えに行った。おれはかというと、今さっきの事が信じられず呆然とその場に立ち尽くしていた。確かにそこには、人がいた。だが、今は跡形もなく……黒く地面が焦げ、人間だった黒い残りかすがあるだけ。思いのほか精神的ショックは少なかったが、なんというか、おれってとんでもない力を使ってたんだなぁと改めて実感した。これは、なるべく使いたくないな、だけど…これ以外、おれが戦える術はなくて。

翌日、食堂で出会ったセリス将軍にそれを伝えると自分もかつてはそうだったと語ってくれた。今では何の躊躇もなく相手を殺められるが、そうでもしなければ、と自分に言い聞かせるしか自己防衛の手段は無いそうだ。レオ将軍も、他の先輩たちも同じなのかな……ハロワのお姉さん、現実社会ってこんなにも厳しいものだったんですね、ようやく理解しました……なんか、少し大人になれたような気がする。

その話はあっとういまに兵士たちに伝わり、今まで普通に会話していた奴らともまともに口を聞けなくなってしまった、というか避けられていた。あの2人に避けられたら今度こそおれは泣きべそをかくだろう、そう思ったがあの2人だけはおれを受け容れてくれた。2人も同じ戦場を体験してきてなんとか生き延びた存在だ。そこらへんは割り切っているらしい。2人とも、大人だなぁ。

「仕方ないだろ、だって、あのケフカに命令されたんだから」

「そうそう、俺だってお前と同じ境遇だったら同じことをしていたさ、誰だって自分の命は惜しいだろ、それはお前が言ってたことじゃないか」

「……ありがと、なんか元気になったわ……なんかさ、避けられててさ、色んな人に。同じ隊の人達にはまぁ、それほどでもないんだけど……」

「あの人達はそう言うのを毎日見ているからな、ほんと尊敬するよ、俺だったらすぐ心が挫けるわ、お前すげぇよ」

「……うん、ありがとう…ぐすっ」

「だから泣きまねはやめろって気色悪い」

「男だって泣きたいときはあるんですー」

「ジョークを言えるまで元気になったんだ、まぁ好きなだけ泣きまねしてろよ」

「だからジョークじゃないって……」

まぁ、元気を取り戻せたのも事実だしまぁいいか。何事も結果オーライだよな、うんうん、おれって成長したな。

「名前知ってたか?人造魔導士の実験のこと…」

「あぁ知ってるよ、幻獣から搾り取るんだろ?」

「やっぱり知ってたか……あれを注入されるのは選ばれた者だけらしいんだが…」

「おれ、この間注入されたわ」

「まじかよ!?それで……道理であんなになる訳だ」

「……そうなんだよ、今はシド博士に用意してもらった機械で増幅した魔力をコントロールできるように訓練してるところ。でも正直きっついぞ……魔力は有り余ってるにしろ、精神力が持たないんだな、これが」

「魔法って精神力がすり減るものなのか?」

「魔導の力を注入される前は無意識だったからね……それほどでもなかったし、せいぜい相手を失神させるくらいだったから。お前ら想像してみろよ、サンダー剣使おうとしたらサンダガ剣になっちまうんだぜ?どうかしてるぜ」

「……俺達は魔導の力を注入されていないからそこらへんは分からないし、分かりたくもないがこれだけは言えるな」

「「ドンマイ」」

はぁ……ありがとう、慰めの言葉。

結局あれだ、割り切ることを決めたおれはその後もおんなじような事をして、ケフカ様を喜ばせてやった。今となってはおれも恐れられる対象のようで前のように陰湿ないじめに遭うこともなくなっていた。

Published in剣の記憶