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剣の記憶/08

<不落の機械城>

「名前、おっそーい!」

「すんませんケフカ様、ちょっとレオ将軍に呼び止められてたんで」

「ふん、あいつか、いい子ぶりやがって、気に食わん!」

確かにレオ将軍とケフカ様とじゃ間逆だからなぁ……としみじみ感じてしまった。そんなことを感じつつ、おれは大慌てでケフカ様の茶と茶菓子を用意した。今となってはケフカ様の好きな味を把握し、1週間同じものが重ならないように努力している。おれってまさに雑用係の鏡だと思うんだ、自分でいうのも何だけど。

「ホッホッホ、喜びなさい、明日からはドマ遠征ですよ」

「……らしいっすね」

「なんだ、嬉しくないのか、人を殺したくてうずうずしていると思ったのに」

「いや、おれそこまで人殺しは好きじゃないですよ……まぁ、言われれば殺しますけど」

おれも、冷徹な人間になったものだ。もうおじさんには顔合わせができないな。

「お前もだんだんらしくなってきたじゃないの……決めた、お前には操りの輪はつけない!」

「え、つけようとしてたんすか!?」

「まぁ何度かは……」

おいおい勘弁してくださいケフカ様、それだけはマジ勘弁。ほんと、この人はさらっと恐ろしい事を言いのけてみせるよな。

「お前に操りの輪をつけたら面白くなくなるからな、お前の馬鹿馬鹿しい反応が楽しめなくなっちまうからねぇ」

「そ、それは……褒めていただけてるんですか?」

「ホワーホッホッホ」

……でもよかった、これでティナ・ブランフォード状態にならなくて済む。そういやあの子、先日ナルシェで発見された幻獣を奪うために出動してたけど、大丈夫なんかなぁ……結構少ない人数だった気がするぞ。

そう、もうおれがここの雑用係になって2年が過ぎていた。仕事にも慣れてきたし、ケフカ様に散々罵倒されようが何をされようが元気にやっている。仕事は勿論ハードだが、何よりの救いは同じ隊の人が割り切った関係の人達だということだろうか。あの人達もけっこうエグイことしてるみたいだからな…そりゃそうなんだけど。新たにできた二つ目の書類の山に取り掛かっていた時、事件は起きた。

「大変ですケフカ様―――!セリス将軍が裏切りました!」

「…なんだと」

え、おい、この間普通にセリス将軍と会話をしてたぞ、確か将軍はティナと一緒にナルシェへ向かったはずだ……どういうことだってばよ。

「あの雌豚め……飼い主の手をかじるとは、いい覚悟をしている……」

ケフカ様の顔に青筋がぴりりと立つ。おっと、これは、その、結構やばい状態だ。このままでは伝達しにやってきた兵士が消し炭になってしまう。それを察したおれは慌てて腰にかけている剣を持ち、ケフカ様が放ったそれを剣で受け止めた。セリス将軍のように魔法を吸収することはできないが、剣にとどめることはできるようになった。だけど、どこかにぶっ放さないと爆発する恐れがあるからおれは急いでケフカ様とは反対側の窓際めがけてぶっ放す。あーあー、おかげで書類は黒こげ、一からやり直しか、トホホ。

「大丈夫っすか…」

「……った、たすかっ…っりまし……た」

あまりの恐怖で腰が立たなくなってしまった彼を立ちあがらせ、なんとか部屋に出してやった。おれがこうして兵士をかばってやるのはこれが初めてではない。その為に窓をぶち破るので陛下からはお叱りの言葉を受けるのだが、こればかりは仕方ないでしょう、命が優先ですから。

「……はぁ……」

「すっきり、しましたか?」

「ふん、おかげでな……奴はなんと言っていた」

「サウスフィガロで身柄を確保した、と」

「俺についてこい」

「……わかりやした」

セリス将軍を始末しろって言われたら、さすがのおれでもの躊躇するかもしれない。だって、今まで結構相談に乗ってくれたりいろいろしてくれてたし……最悪の事態にならなければいい、そんなことをおもいながらおれはケフカ様の後に並び、サウスフィガロへ向かった。サウスフィガロへ向かう途中、ティナ・ブランフォードが行方不明になり彼女によって同僚達が皆殺しにされたとか。一体全体どうしたっていうんだ。あの子がすごい力を持っているのは話でしか聞いたことは無かったが、まさかここまでだとは。先に到着させた隊はティナを連れ戻すためにナルシェへ向かっている。おれたちはセリス将軍のところって訳だ。海がシケていたために1日ばかり遅れてしまったが、なんとかサウスフィガロの港に到着した。セリス将軍は後回しで、先にフィガロへ行くこととなった。今回の事がリターナーと深くかかわっていたとしたら、行く先はフィガロで間違いないだろう。ケフカ様はそこにティナもいるとみて、砂漠の中数名の部下とおれを連れて向かった。

「ふぅ~ガストラさまの命令とは言え…。まったくエドガーめ! こんな場所にチンケな城を建てやがって。偵察に派遣された私の身にもなってみやがれ!」

フィガロ城は機械仕掛けの城で、未だかつて落としたことのないところでもある。あの帝国が手こずる相手だ、エドガーという人物は相当な策士なのだろう。一応同盟国なのだが、裏ではリターナーと手引きをしているという噂まで流れてきている。おれは襲いかかる魔物を魔法剣でぶっ飛ばしながらケフカ様の道を作って行く。

「名前!砂を飛ばすな!」

「それおれじゃないっすよ、魔物ですって」

「お前が倒しているんだからお前だろうが!ほれ、クツの砂!」

おれは手が空いていないので、代わりにケフカ様の両隣を歩く兵士が靴の砂を払う。

「じゃぁ傘でもさしていてください、こればかりはどうしようもできないんで」

「傘など持ってきていないわ!」

「……じゃぁ、ちょっと離れて歩きます……」

「いや、お前は離れなくていい、だが砂を飛ばさないようにしろ!」

「……承りやした」

まったく、わがまま大臣っておれがあだ名をつけた程だ。むしろ大魔王か?ともかく手慣れたおれの対応を見て2人の兵士は関心しっぱなしだった。君たちも、いずれおれの苦労がわかるだろうよ。

「ホワーッホッホッホ」

「……」

「……つまらん!」

だったらどうしてさっき笑ったんスか……ほんと、この人は意味不明だよな。まぁ、意味不明な上司と2年間もつるんでいるおれも周りからみれば意味不明なのかもな。

ようやく見えてきたフィガロ城、ここに来るのは初めてだ。おれは入り口を封鎖しているフィガロ兵の前に立ち、扉を開けさせた。

「ケフカ様、今日は一体何の御用で…」

「どけ!」

城門にいる兵士を蹴散らし、ケフカ様は俺の横を通り過ぎ城内へと入って行った。ケフカ様に片時も離れないようにするのがおれの仕事の一つ。どかどかと歩くさまはまるでどこかの王さまのようだ。砂漠の件ですごく不機嫌なご様子でまぁ……

「3つの国を滅ぼしたようだな?」

奥にはここの主、エドガー王が椅子に座っていた。王にしては少し若いような気もするが、他所ではこれが当たり前なのかもしれない。そんなことを考えながらエドガーとやり取りをするケフカ様を見守っているとおれの後ろにいた兵士がお前らの知るところではない、ときつく言い放った。おいおい、仮にも相手は同盟国の国王で、身分はおれたちよりもうんと上なんだぜ?

「同盟国を結んでいる我が国へも攻め込まんという勢いだな」

ごもっともです。

「同盟?寝ぼけるな!こんなちっぽけな国が!」

だからさ、せめてモラルは守ろうよ君達。

「ケフカ様、用件があったんじゃないっすか」

「ふん、分かってるわ!」

「ガストラ皇帝直属の魔導士ケフカがわざわざ出向くとは?」

「帝国から1人の娘が逃げ込んだって話を聞いてな」

「魔導の力を持つと言う娘のことか?」

「お前達には関係のないことだ。それより、ここにいるのか?」

おお、流石は王さま、ケフカ様が相手だろうとびくともしない。これが王族ってやつか……おれにはわかんねぇや。

「さぁ……娘は星の数ほどいるけどなぁ」

「隠しても、何もいいことはないのにねえ…」

「ケフカ様、どうするんすか?」

「っは、そんなの決まってるだろ……そうだな、名前、お前がこいつのかわいいかわいい部下を消し炭にしてやれば、少しでも口を割るかもしれん、やれ」

そうは言いますけどね、さっきのあれでおれ、MPゼロなんですわ。だってさ、おれしか戦ってないんだぜ?この大陸で、後ろの2人はただ見ているだけだし、ケフカ様なんて言うまでもないよな。

「……ケフカ様、魔力を回復する薬でもあればできるんですけど、あいにくケフカ様が急がしたんで持ってこれてないんですけど」

「もう魔力が尽きたのか!?能無しめ!」

「…すんません、能無しで」

「っけ、命拾いしたな…ま、せいぜいフィガロが潰されないように祈っているんだな!」

それって負け惜しみですか?なんて言えるはずもなく。

「ほう、君も魔導の力を使えるのか、噂では聞いていたが魔道士ケフカには優秀な右腕がいると……そうか、それが君か」

「えへへ、照れちゃいますって」

「俺が怒らないうちにそのだらしない口を閉じろ名前」

「……はい、すんません図にのりました」

優秀な、なんてケフカ様にも言われた事が無いよ。嬉しくて素直に照れただけなんだけど……この人ってつくづく冗談の通じない人だよな。

2人の兵士はケフカの変貌ぶりにおどおどしているし、おーい、今さっきまでの態度はどうした?情けないなぁ、これくらいで。おれってほんと、たくましい男の子に成長したと思うよ。

夜中になり、おれは言われた通り城を奇襲した。流石に機械の城なだけあってとんでもなく丈夫だ。一発じゃ火もつけられやしない。あの時去ったのはこの時のためだったんだよね。ケフカ様も、あくどいひとだよなぁ。それに従うおれもどうかって?あぁ、そりゃぁあくどいかもな。だけどさ、命には代えられないだろ?誰だって自分の命は大切だし、友からもそうしたほうがいいと言われている。だからおれはこの人に従うしか延命処置はないの。

「ホッホッホ、いつ見てもお前のそれは面白い」

「……あんがとございます」

「よく見ておけ、あれが魔導の力で増幅させた奴の力だ……だが、お前の難点は魔力の使い方がへたくそなところだ、ところ構わず打てばいいってもんじゃない」

だったら助けてくれますー!?おれひとりで戦っておれひとりで城に火つけてるんですけどー!?

流石の彼らもこの爆音に気がついたのか、慌てて表に現れた。おれは彼らをなぎ倒しつつ(ただでさえ魔力をかなり使っているんだ、ここは殺せとも命じられていないし剣の柄で奴らを失神させるだけに抑えている)叫ぶ。

「娘をだしなさ~い」

「なんだその気の抜ける声は!」

「だって…いや気も抜けますって、おれほんと今にも倒れそうなくらいへとへとなんすよ……船にいる間も事務処理に追われて……」

「それはお前が書類を燃やしたからだろ」

はぁ……その原因作ったの、どこのだれかなー?もういいや、どうにでもなれ。おれはやけくそに炎を放つ。ごめんな、これも仕事のうちだから。

「何をする!」

ようやくエドガー本人のお出ましだ。

「むすめを出せ!」

「いないと言っているだろ!」

「ならここでみんな焼け死ね、ヒッヒッヒ」

「火ッヒッヒ…ヒッヒッヒ……ケフカ様、それは新手のジョークですか?」

「ぶっとばされたいの?」

「いいえそんなめっそうもない!」

結局ティナは現れず、代わりにチョコボに乗ったエドガーがすれ違った。流石にあの早さにはついていけないな、それにもう魔力も残ってないし……ほら、あの視線、追いかけろっていうあの視線、マジ勘弁、どんだけ部下乱雑に扱う気なの?馬鹿なの死ぬの?

おれは意地でも首を横に振り、それを断る。だが、次の瞬間見覚えのある顔が通り過ぎて行った。

「ブラボーフィガロ!」

フィガロ城は突然沈みはじめるし、その砂に巻き込まれるしでもう最悪。

「さっさと行け、何をぐずぐずしているんだ~~~!」

「は、はひ……ほの、ふながはひって」

「早く行け!」

奥さん見ました?今おれ、おもいっきり尻をけられましたよ。まじで鎧きてるからよかったけど着てなかったら確実に痔になってたよ?なんでそんなに痔の話を持ってくるかって?痔がトラウマだからだよ!

Published in剣の記憶