<ティナ・ブランフォード>
既に2人の兵士はそちらへ向かっているのか、ぽつんと一体残された魔導アーマーが乗れよ、と言わんばかりに置いてある。あぁ乗ってやるさ、でもこれね、おれ苦手なんだよ、何故かって言うと痔がだなぁ……これ、結構中で揺れるんだよ、昔シートベルトをつけないで乗ったら(というか誰も教えてくれなかったのが悪いんだけど)尻を強打し、痔になった。痔に1週間も苦しめられたおれだから言えることで、なったことのない人には分からない痛みだ。つーか、どんだけおれ尻が弱いんだよ。
「待て~~~~……はぁ…」
砂埃はすごいし、ここに住む人って何なの?馬鹿なの?おれは速度をフルに上げ、がたんがたんと揺られながらティナの乗っているチョコボめがけて襲いかかる。勿論殺したらおれがケフカ様に殺されるので死なない程度に襲う必要がある。おれがつっこんだ衝撃で彼らはチョコボからふっとばされ、不運なことにおれの乗っていた魔導アーマーは足を取られぶっとんでいった。あれに巻き込まれていたら今頃おれ、首の骨折れてたかも。
「―――あなたは…」
「えっと、ティナ・ブランフォード?一応はじめましてじゃないんだな、これが」
「……帝国の人間よね」
「おう、まぁね」
「ティナ…!」
銀髪の男がティナを守るようにして立ちはだかる。ここからケフカ様のいる場所じゃかなり距離もあるし、追いつくには何時間もかかるだろう。
「君は例のケフカの右腕か、そこをどいてくれないか?」
「それが残念なことにできないんですわ、それしたらおれの首が飛ぶし、いや、リアルなほうだよ?リストラじゃなくってさ」
「……戦う、のね」
「そりゃそうさ、でもよかったな、おれいま魔力ゼロに近いし、無理やり力を出さなくちゃなんないから上手くいけば逃げられるかもね」
「ほう、それは良い情報を得た、お前いい奴なんだな、何故帝国にいる?私の部下にならないか?」
突然王さまからスカウト通達だよ。でも残念、それもばれたらリアルに首飛ぶしね、帝国には友達もいるし、それなりに楽しかったから却下。返事はおれの剣。ギン、と音を立てる剣と剣。3対1ってどう見てもおれが不利だろ、ケフカ様早くきてくんないかな。
「仕方ねぇ……!」
今回は、魔法剣ウォータガと行きますか。剣から突然現れた巨大な水の渦が王さまと銀髪の男を襲う。あいつらを窒息させればなんとかなるだろ、あの子1人じゃ逃げ切れないだろうし。そう思ったとたん、突然右わき腹に痛みが走った。
「……っ!」
その時隙が出来たのか、水の渦は一瞬で消え去ってしまった。
2人は飲んでしまった水を吐き出し、げほげほとむせる。おれは右わき腹を焼かれ痛みのあまりその場に倒れる。
「……っ……い!?」
「おい今のって……!」
「魔法か!?こいつも使えるのか!?」
「……わたしは、よく昔のことは覚えてないから……知らなかった…」
いやいや、着目点はそこじゃないだろ。つーか、まじで痛い、鎧を着てたけど逆に鎧が熱くて今頃皮膚は大やけどだ。まったく、生傷が絶えなくて困っちまうんだぜ☆
……って、冗談じゃないくらいに痛いんだけどなんとか気を紛らわして忘れるしかない、ああ、魔法剣、回復のやつもなんとかして覚えたいな。おれが悶絶している間に奴らはいなくなっていた。ケフカ様がおれと、死んだ2人の部下を見つけてくれたのはそれから1時間がしてからのことだった。気がつけば艦隊の病室で寝かされていて、あれから数日過ぎたことが判明した。ケフカ様はサウスフィガロで捕えられているセリスの元へ向かったそうだ。そして、新たにすごい事実を知らされた。なんと、痛みで失神したおれをあのケフカ様直々に運んでくれたそうだ。そりゃぁもう、今まで生きていた中で一番衝撃的な事だったかもしれない。あのケフカ様がだぜ?これって、貴重な駒だからなのか、大切な部下だからとかどっちなんだろ、いや、絶対に前者だろうな。どんな理由にせよ、おれはあのケフカ様に助けられたのだ。まだ痛むが、魔導の力を注入されて以来痛みには鈍感になっていた。結構やばいことなんだけどさ、これが。
おれはケフカ様にお礼を言うべく、包帯ぐるぐる巻きのままサウスフィガロに上陸した。勿論兵士たちには呼びとめられたが早くお礼を言わないとなんだか怒られそうな気がして。
「えっと、ケフカ様は?」
「アデルバート殿、こちらです」
「はいはい……」
「……よく生きていられましたね、2人は発見された時既に亡くなっていたというのに」
「はは、ケフカ様が直々に運んでくれたらしいよ」
「それは本当ですか!?」
あーあー、やっぱ信じらんないよな、おれもそうだから安心してね。兵士に案内されたそこにはケフカ様が立っていた、不機嫌そうにこちらをじろりと見上げた。そうそう、今さらだけどおれってば、育ちがいいのかケフカさまより背が高いんだよね、10センチ以上差があるからね、これでいつも文句言われるんだから、どうしようもないよなぁ。厚底ブーツでも履けばいいのにって毎回おもう。
「ケフカ様、助けてくださったんすよね、ありがとうございます」
「っふん…つまらん!」
「え?」
「俺は外に行く、セリスと面会できるのもこれが最後かもしれないからな、よく話でもしておけ」
「……え、それって…」
「お前がこいつと仲がいいのも知ってるんだからな」
「仲がいいというか、色々お世話になっていたんで……」
「ともかく、その見苦しい姿をどうにかしろ!」
ケフカ様、もしかしてツンデレ?
「へぶっ……あの、いくら痛みに鈍感になってたとしてもすんげぇ痛いんですよ…?」
「いまむかつくこと考えたろ」
「いいえそんな」
「さっさと面会を済ませろ屑」
ケフカ様って時々、すごくおちゃめだよな。まぁもちろん、こんなことを本人に言えばおれはもれなく消し炭ってやつだ。包帯ぐるぐる巻きのおれが現れたのが意外だったのか、おれがここに来ること自体が意外だったのかボロボロのセリス将軍は目を丸くさせた。女性に対してこの仕打ちはないよなぁ……。
「セリス将軍、大丈夫…じゃなさそうですね」
「……お前は何しにきたんだ」
「いや、ケフカ様に助けてもらったんでお礼を言いに……」
「あのケフカが……お前をか?」
「そうらしいんです、おれ失神してたからよくわからないんすけど」
「その傷は」
「あぁ、ティナからですよ、驚きましたよ、あんなにすごいなんて」
「―――操りの輪は無事解けたようだな」
「あぁ、だから…目の色が違ってたんスね」
入り口に立っている兵士がきょろきょろと此方を見ているが、話に加わりたいんだろうか。
「お前も雑談したいの?」
「え、いやおっ私は別に」
「まぁいいよ、おいでよ…はぁ、それにしても、ケフカ様も人使いが荒いよなぁ、おれ今回の件で改めて思い知らされましたよ、フィガロ行くまでも道中もおれが全部魔物を倒したし、魔物が飛ばした砂をおれのせいだとか砂を飛ばすなとか散々文句は言うくせに自分はなーんにもしないんですよ!?書類の山だって、だれのおかげでかたずけていると…!」
「―――お前も鬱憤が溜まっているんだな」
「そりゃそうっすよ!ケフカ様の直属の部下になったこともない連中がケフカ様の事で愚痴るなんてお門違いっすよ!まったく、あいつらはなーんもおれの苦労がわかっちゃいない、大丈夫ですかって?大丈夫じゃないからこうなってるんだろうっての!」
おれの剣幕にセリス将軍と兵士が若干引き気味だ。
「でも、助けられたんですよね今回…だから、まぁ今までのは水に流してやらないこともないかなぁって」
「甘いな、お前は」
「おれは辛党ですよ」
「茶化してるのか?」
「事実ですって……あ、セリス将軍もジョークが嫌いっすか、ケフカ様もそうなんっすよ、はぁ……おれ、疲れてるのかな」
「だろうな、お前は私に関わらない方がいい」
「…でも、流石にやりすぎだと思うんスよ、ケフカ様も」
「……あいつの隣にいつもいるお前でも思うか」
「そりゃぁ、1人の人間ですし?色んな意見は持ってますよ?あ、聞いてくださいよ、おれ、フィガロの王さまにスカウトされちゃったんスよ、おれってもしかしてモテ期?」
やばい、本格的に頭がくらくらしてきた。自分が何を言ってるのかもよくわからなくなってきたぞ。
「―――お前、本当に疲れているぞ、その、私が言うのは何だが、ゆっくり休め……お前の友にもよろしく頼んだ」
「…へへ、最後までおれを労わってくれるんスね、やっぱりあなたは良い人だ。それに比べてケフカ様は……全然労わってくれない、今回の功績ってほとんどおれっすよ……」
「まぁ、気を落とすな…」
なんか、励ましに来たのに逆に励まされてしまったような気がする。
「お前をあの時、逃がしてやればよかったのかもな……その力、このまま悪用され続ける気か」
「悪用?まぁ、世間体としてはそうなんでしょうけど、まぁおれが選んだ人生ですし、セリス将軍は色んなきっかけをくれただけにすぎませんって、だから何もおもうことはありませんよ」
「お前は甘いな」
「だからおれは」
「その甘さ、嫌いじゃないぞ」
おっと、これは恋愛フラグですか?まさかの女将軍からの恋愛アプローチですか?
「えへ…」
「なんだにやにやして」
「いえ、なんでもないです」
かわいいなぁ将軍、なんて言ったらブッ飛ばされそうだよね、おれ。もれなくアバラがばらばらになるよね……腕は鎖でつながれてるけどさ。
「とりあえず、おれ将軍を助けられそうにないんで頑張って自分でなんとかしてください」
「っふ、私を生かして逃がしたいか…私に生きる価値なんてもうないさ、私は多くの過ちを犯してしまった……それはもう取り返しのつかないことだ、何故、今まで気づかなかったのだろうか」
「…将軍」
「もう将軍ではない、セリスで構わない」
「……せせせ、せせせせ」
「…っぷ」
「せせ…せせせせ…りりり…ッ」
「最後まで面白いやつだな、お前は―――お前と最後に会えてよかったよ、あまり長居するとケフカが怪しむ」
結局、この展開に動揺しすぎて最後まで名前を呼ぶことはできなかった。おれってほんと、肝心な時に駄目な奴だよな……情けないぜ。
長く話し過ぎた為か頭がふらふらし、千鳥足でなんとか艦隊の病室にたどり着いた。その後の記憶が一切ないんだぜ、これが。多分爆睡してたんだな…そりゃ、色々とあって疲れましたから。