Skip to content

剣の記憶/10

<殉職>

目が覚めた頃、丁度ケフカ様がそれをおれに打っているところだった。思わず叫んだら殴られてしまった。おれ、病人だよ?

「なななななにしてたんすか!」

「お前の弱点を克服してやるんだよ」

「ええええどういう!?」

「お前はスタミナが無さ過ぎる、だから魔力を増やしてやったの」

「えぇええええまたコントロールの修行っすかああ!?」

「煩い、叫ぶな阿呆!」

「へぶっ」

おれ、ケフカ様となら世界一の漫才コンビになれるような気がする。そうだケフカ様、世界征服なんてやめて、笑いで世界を征服しましょう、そうしましょう。

「何、問題はないさ…お前はあれに耐えたんだ、それに元々魔法を使える身だから、副作用は起きないはずだ」

「っふふふ副作用なんてあったんすか!?すげー危険じゃないっすか!」

「安全だとは一言も言っていない」

「はぁ……おれ長生きできそうにありません」

「死んでもらっては困る、貴重な駒だ」

「―――チェスはチェス板でやってください」

「命をかけたチェス、どうだ心躍るだろう?」

「ダンスは苦手です……」

「つまらん!」

ほら、いつもの口癖きたよ。一日にこれを何度言うか…おれは未だにそれの回数を正確に数えたことはないが、少なくとも百回は超えてるだろう。帝国のスパイがある重要な情報を持ってきたのはそれから間もなくのことだった。ケフカ様は負傷したおれは屑の屑以下だと優しく労わってくれ、おかげで一足先に帝国へ戻ることとなった。おれが負った怪我はそれなりに深く、皮膚が完治するまで運動を禁じられた。食事も栄養バランスを考えた身体に優しそうなものばかりで、禁酒宣言をされてすこしへこんでいるのも確か。ティナ・ブランフォードめ……せめて、もっと浅くしてくれよな。

数週間後、おれはイライラしたケフカ様を迎え山のように降り積もるその紙どもを始末していった。これ、病み上がりの人間がすることじゃないよな、外に出るよりかはマシなんだけど。シド博士の不思議な薬のおかげでやけどのほうも順調。改めてやけど跡をみると、すげー怪我をしたなっておもう。これでようやく、戦士らしくなったな。おれってば超COOLじゃね?

「名前、茶」

「はいはい」

「返事は一回で十分だ」

「はい」

相当ご機嫌斜めだよ…そりゃ、あと一歩のところで逃げられちまったんだもんなぁ。おれの良き相談相手は今ドマで戦争中だし、セリス将軍はどっかに逃げちゃったし……

「…ぬるいぞ!」

お茶、ぶっかけプレイってやつか。あーあ、この服新調したばかりなんだぜ?ほんと困っちゃうわねうちの子は。

「…これでどうっすか」

「…さっさとどこかへ失せろ!役立たず!」

「……では」

まったく、ご機嫌が悪い時はどうしようもないね。おれは言われた通りどっかへ行くことにした。数少ない話相手でもある休暇中の友人の元へと向かう足取りは軽い。

「やぁやぁ2人ともお久~?」

「…なんだお前か」

「……はぁ」

おい、ここでもどんよりムードか?

「…なぁ、どうしたんだ?いつものお前ららしくないじゃん」

「……俺達をかわいがってくれてた先輩がな、ティナ・ブランフォードに殺されたんだよ」

あぁ、ヴィックスとエッジだっけか?名前はあやふやだが確かそんな人達だったような気がする。

「先輩達…どんな最期を遂げたんだろうな」

「せめて、安らかであってほしい」

「あぁ…」

なんだか、おれまでもどんよりしてくるじゃないか。元気になろうとここに来たんだが…ここは、幾分傷の浅いおれが元気づけてやるか。いや、全然浅くないけど。2人はおれの服が茶色く汚れていることも気がついていないようで、顔を俯かせている。

「…まぁ、元気出せよ」

「お前の傷もブランフォードにやられたんだってな、俺、あいつを絶対にゆるさねぇ」

「あぁ…せいぜい、苦しんで死んでもらわないと気がすまねぇ」

すごく物騒な発言ですよね、今の。まぁ…信頼していた上司が無くなったんだもんな、仕方ないか。おれは2人の肩にそっと手をおきひたすら励ました。

「遅い遅い、何をもたもたしているこの屑!ろくでなし!役立たず以下!」

「…すんません」

言われた通りどっか行ってたんですがね、それがまずかったんですかね。常人だったら今頃胃に穴ぼこがいくつか空いててもおかしくは無い現状だ。おれってほんと、心も身体も逞しい男の子に育ったよ、おとん、おかん。

「―――ムカムカムカムカ」

「…お茶ですか?」

「茶はもういい!甘いものを持って来い!」

「…はい」

この人は大の甘党で、おれがゲロを吐きそうなくらい甘いそれらをばくばくと胃に収めて行く。うげぇ、おれやっぱ辛い食べ物が世界一だと思うんだ。その後、ケフカ様はドマの視察へ向かった。おれは連れて行かれそうになったが、恐ろしいほどの事務処理が残っていたため皇帝陛下の命でそれを数日中に始末することとなってしまったのでここに居残ることとなった。

「……お疲れのようですね」

「そりゃ、疲れるよ……俺も若く無いんだよ?」

「まだ20代でしょう、何を仰っているんですか」

「でもねぇ、こんだけ重労働やっていれば身体も老けるさ……」

ここに入隊したのは20の時だったから、今おれは23歳。身体の年齢は恐らくそれの1・5倍。実は、レオ将軍と7歳しか離れてないんだぜ、おれ。レオ将軍はこう言っちゃ何だが、強面ってやつだからな……年齢不詳だよね。でも、セリス将軍が…いや、元か?ともかくセリスさんがおれよりも年下だったことには驚かされたよな。

「ですが、ようやく安心して仕事ができますね」

「おいそれ、ケフカ様にばれたら殺されるぞ?」

「あなたはそれをケフカ様に言わなければ良いのです、あなたの鬱憤、クルセル隊長から聞いていますよ」

「あいつ…口軽すぎだろ」

「はは……ですが、あの男相手では誰もが鬱憤溜まりますよ、あなたがストレスで倒れない事がおかしいくらいですって」

「はは、多分おれ超頑丈になったからな」

「魔導の力を注入したからですか…?」

「多分、あれさ、入れると痛みに鈍感になるっていうか…結構やばい副作用だとおもうんだけどさ、ともかく昔に比べれば痛みは感じなくなったし、ケフカ様のあれは慣れというか、なんというか」

「……そうでしたか」

「おう、だけどケフカ様って読めない人だよなぁ、おれを助けてくれたり、八つ当たりしたり…ほんと、忙しい人だ」

「全くですね、正直、我々はあなたがいつ倒れるか心配しているんですよ、前回の件もありますが、あなたは何人かの部下を助けてくださいました、それを知らない者たちはあなたを恐れるばかりで…その……」

ははは、そりゃ無理もない。おれは確かにおっかない力を使うからなぁ。だけど、こいつの言いたいことは何となくわかった。よかった、おれそこまで嫌われてないじゃん?

「あっそうだ、この手紙をツェンのアクセサリー屋のおじさんに届けてくれないか?おれの古い知り合いでさ」

「わかりました、今すぐ、部下に届けさせましょう」

「サンキュ」

「いえいえ、これくらいしか出来ませんから、また何かありましたらなんでも申しつけてください」

おれって、つくづく部下に恵まれてるよな…って、おれもそんな立場か、時の流れってのは早いもんだねぇ。約3年しか過ぎてない訳だけど。

「……ケフカ様がいないと、ここも不気味なくらいに静かだな」

流石に2年もここにいれば先輩たちの視線にも(棚に飾ってある目玉のことだ)慣れたし、なんとも思わなくなった。今では彼らが優しく見守っていてくれている、そんなふうに思えるようになっていた。おれ、頭おかしいか?

それから1週間後、ケフカ様は重傷を負って帰ってきた。それを見ていい気味だと、呟く部下たちを宥め、おれは看病しつつケフカ様の代わりに職務を全うした。起きたら書類の山がないじゃないの、よくやった名前!って褒めてほしいくらいだね。ありえないことだろうけれども。

「あ、目覚めました?」

「うっ……クソガキ共が……いつっ…!?」

「ケフカ様は丸一日寝てましたよ」

「そうじゃない!っく……痛くてどうしようもならん…」

ぜぇはぁとドーピングを開始するケフカ様。つーかそれ、自由に持ち出していいの?

「行くぞ……奴らを追うぞ」

「いけませんって、病人は寝ていなくちゃ」

「これが寝ていられる状況か!?俺はあいつらにやられた!悔しい!殺してやりたい!この世のありとあらゆる苦しみを味あわせ、殺してくれと乞うまで嬲ってやる!」

「…そのためにはゆっくり休んでくださいよ、ケフカ様はこの世で1人しかいないんですから、死んだら困りますよ」

「―――」

おっと、思いのほか静かになったぞ。どうしたんだ?おれ、なんか気に障るような事でも言ったか?

「…お前は、違うな」

「―――へ?」

今まで俺についた奴らとは違う、声は小さかったが確かにそのつぶやきはおれの耳に入った。

「今回一緒にナルシェへ行けなくてすんません、でも、おかげでたまりにたまった山は片づけられましたから」

「……寝る」

「はい、どうぞごゆっくり、おれはどっか行ってたほうがいいっすか?」

「…傍にいろ」

なにこのツンデレラ、奇跡体験アンビリーバボー?

冗談はともかく、こんなに素直なケフカ様は一生に一度見られるか見られないかだ。おれはケフカ様が静かに寝息を立てるのを確認し、新たにやってきた書類の山に絶望した。折角片づけたのに……ねぇ、おもうんだけど事務処理係を雇うべきだよ、ほんと。

ケフカ様が倒れていてはどうしようもならない仕事もないこともないが、大抵はおれが済ませられることばかりだ。ケフカ様の代わりに、おれが陛下に呼ばれるようになったんだけど、未だにあの緊張感には慣れないぜ…心臓に来るんだよなぁ、あの人。

「…そうか、ケフカの容態は順調か」

「はい、今では自力で食事をとれるまでに回復しています」

「ふむ、ならば問題はなかろう。もうじき奴らは幻獣の存在を嗅ぎつけ、こちらにやってくるだろう……丁重にもてなしてやれ」

「…御意」

「だが、セリスだけは生かしておけ、あやつは貴重な存在だ……そうだな、生まれた時から魔導の力を操るお前と、セリスが子を残せばこの国は更に強靭なものとなる…」

いま、さらりととんでもないことを。ここの国の人達ってなんでそんなすごいことをさらっといいのけてしまうの?おれ正直すげーこわいんだけど。

「セリスは今、奴らと一緒にいるそうだ…」

「そのようで」

「特に気に食わん、あのフィガロの若造は嬲り殺せ」

「……御意」

奴らっていうのは、エドガー王銀髪の彼らのことね。ケフカ様が言うにはティナもまだそこにいて、他にも大勢仲間がいるんだとか。早速そのことをケフカ様に伝えると、ケフカ様は嬉しそうに笑った。

「ヒッヒッヒ、セリスがねぇ……これは良いアイディアを思い浮かびましたよ、セリスの立場を利用すればいい」

「…へ?どういうことで?」

「お前は相変わらず脳味噌が屑だな、分からないの?セリスは帝国の将軍だよ?こちらからセリスを迎え入れてやれば、それだけで事が運ぶ」

つまりどういうことだってばよ…頭のよわいおれには理解できないぜ。

Published in剣の記憶