<胸騒ぎ>
おれに与えられた本当の意味での休暇は週に何度もない、とても貴重な時間だ。それが今日に当たる訳なのだが、どういうわけだかセリスの隊を引き取ることとなってしまった。おれの休暇、返してよ。
「こりゃ驚いた、まさか名前が上司だなんてさ」
「こらロウェル、慎めよ、今はな」
「まーいいって、君達ラフにしたまえ~」
「ははっ、相変わらずだな」
「良かったぜ……セリス将軍、やり辛かったし、女が上司ってのも嫌だったからな」
突然態度を一変させる兵士たち。おいおい、仮にもお前達セリスに面倒見てもらってたんだろ?そりゃないだろ。
「まーともかく、彼女の悪口はNGな、言うなら自分の部屋でやってくれ。そんでおれが今日から君らを受け持つことになったんだけど…なんか質問ある?」
「はい」
「どーぞ、えーっと…」
「マーカスです」
「そう、マーカス、何だね」
「魔法剣ってどんなものですか、隊長の力を見せていただきたい」
「あー…」
「おいマーカス、よせよ…見たらショック受けるぞ」
「なんだよオットー、お前見たことあるのか?」
「あたりまえだろ…名前殿は一応上司だが、俺達のダチってやつだ」
「おいおい一応は余計だろ」
「はははっこりゃ面白い隊長様だ」
「なんか気が抜けちまったよ、ケフカ様と一緒にいるからとんでもなく怖い人なのかと思ってたけど」
「いや、怖いのは確かだぞ、名前殿の魔法剣は見た者を軽くトラウマにさせる威力がある」
おいおい、そりゃ言いすぎだ。結局部下と友人達におだてられ、自己紹介がてらそれを披露することとなった。的はシド博士が訓練用に作ってくれたロボット。こいつをもう何百体と作ってもらったが、これを使ってるのは実質おれだけで、おれのためだけに作ってくれているようなもんだ。
「水、氷、雷、炎、どれがいい?」
「そんなに使えたんですね……なら、氷で」
「……いいか、後始末はお前達がやれよ、おれはこのあと仕事があるんだから…」
大量の氷をどう処理するか、恐らく、数日は残っているだろうな。そんなことをおもいつつもおれはそれを見せてやった。ロボットは巨大な氷に包まれ、オブジェのようになっている。口をぽかんとあけている者や、歓声をあげるもの、様々だったが皆これがどれだけ恐ろしい力かを理解してくれたようだ。
「あの女将軍が使ってた技とは一味違いますね…」
「あぁ、セリスのは便利だよな、魔法受けたら吸収できるんだからさ。おれの場合、ある程度は受け止められるけどどっかにぶっぱなさないと爆発するってのが難点だ」
「そりゃすごいや、俺達の隊長すごいぞ!」
「おいおい、おだてるなってロウェル」
「ははは、素直に喜べって」
「オットー、おまえおれが上司ってこと、忘れてねぇか?」
「いいだろ今さら」
「なぁ?」
「名前隊長万歳―!」
まったく、現金なやつらだ。おれは氷の処理を奴らにまかせ、シド博士の元へむかった。ケフカ様のお使いでもある、例の液体をもらいにやってきた訳だが、ここはいつ来てもぞっとするな、なんか見つめられてるみたいで落ち着かない。あの目玉とは違う恐ろしさがある。
「おや、部下をたくさん抱えたようじゃが、どうだったね」
「シド博士、情報早いっすね」
「あたりまえじゃ、わしを誰だと思っておる、うむ…セリス、あの子は今どうしておるだろうか……あの子は小さい頃からわしが面倒みておったから、孫のように可愛がっていたつもりだったんじゃが……辛いのう」
「へぇ、セリスってそんな前からここに」
「人造魔導士の実験体であったことも、聞いておるな?」
「あぁ、おれやケフカ様みたいな感じですか?」
「―――ケフカのとは全く別物じゃ、お前さんやセリスが受けた苦痛に比べれば、あの男が受けた苦痛の何十分の一に過ぎない程じゃ」
ケフカ様ってそんな壮絶なる実験を受けてたの?そりゃまぁ、人格が壊れてもおかしくないか。
「さて、用件はなんだったかね?」
「あぁ、これに例の液体を」
「うーむ…ケフカに伝えておいておくれ、これを注入しすぎると寿命が縮むとね」
「え、それまじですか?」
「そりゃそうじゃろう、無理やり魔力の無い人間に注入しとるんだから、まぁ、お前さんは生まれた時からあるようだから安心せい」
以前、ケフカ様が劇薬だと言っていたがまさかそれほどだとは。安全以前の問題じゃねーか。こりゃ、麻薬も同然だ。止めろって言っても止めないだろうから無意味なんだろうなぁ、何を言っても。シド博士が言ったところで言うことを聞くような人じゃないし。シド博士から液体の入った瓶を受け取り、おれは足早にケフカ様の待つ部屋へ向かった。シド博士の言葉をそのまんま伝えたが、悪態をつき再びドーピングタイム。えっと、本日何本目ですか?
それから数週間後、運命の日は訪れた。おれはあの人達を殺さなくちゃならない。さて、どうしたものか……ティナには同情してるし、お世辞かもしれないがおれを褒めてくれた数少ないひとを嬲り殺すなんて、なんか自分が許せないなぁ。研究所に忍び込んだのを確認し、おれはとりあえずどうなるのかを見守った。ケフカ様?あの人はいま幻獣を処理しているところだよ。怖すぎて見ていられないよ。上の階からやってきたセリス達は幻獣と何やら会話をしている。すると驚くことに、幻獣達は石に姿を変え、セリス達の手元へ飛んで行った。
「そこで何をしておる!」
おお、すんごくタイミングよく現れましたね博士。
「セリス将軍!?なんじゃこのあやしいやつらは、お前さんの新しい部下か?」
おいおい博士、知らないの?彼ら敵だから。まぁ、研究以外はどうでもいいって感じのひとだから、今さらだけど……
「いいえ、そうじゃなくて私は…」
「なんでも、反乱を企てておる連中にスパイとしてもぐりこんだと聞いたが?」
「…セリス?」
おお、結構エグイですね、あんたも。ケフカ様の高笑いが聞こえてきたのでおれも彼らの後ろから姿を現した。
「…名前!」
「名前で呼んでくれたの初めてっすね……でも安心してください、あなたは殺しませんから」
「なるほど魔石か!でかしたぞシド博士……!そしてセリス将軍、さぁもう芝居はよい、そいつらの魔石をもってこっちへ来い」
「セリス、騙していたのか!?」
「違うわ!私を信じて!」
うんわぁ…なんか、後味悪そうだなこれ。
「ヒッヒッヒ……裏切り者か、セリスにぴったりだね」
「私を信じて…!」
「俺には…………」
「やれ、名前!」
「あいあいさ…」
あんまり気乗りしないんですがね、仕方ないか、おれも自分の命は惜しいし。これ、何回おれ言った?
おれは周りの精密機械に衝撃を与えない程度に彼らをサンダー剣で弾き飛ばした。シド博士のおかげで最近力を上手くコントロールできるようになったんだよね、これもおれの努力のたまものって奴!
「……名前、やめて!」
「だから、セリスは大丈夫ですよ、陛下のご命令ですから」
「何……?」
「おれもあんま気乗りしないんですけどね、フィガロの国王はとりあえず嬲り殺さなくちゃなんないみたいなんすよ」
「―――ロック、今度は私が皆を守る番……これで、私を信じて…」
ねぇ、おれの話聞いてます?いいや聞いてませんでしたね。セリスの動きにおれははっとした。おい、これってちょっとまずいんじゃないか?
「セリス!それは…それは!やめろ!名前、止めろこいつを!」
「へ、へぇ!」
なんとも情けない声が出た、我ながらにおもうよ。おれはケフカ様を守るため立ちはだかろうとしたがおれが吹き飛ばしたはずの銀髪の男に足を抑えられ、勢いあまりそのまま地面と熱い口づけを交わしてしまった。起き上がればそこには2人の姿は無く……そして、先ほどのショックで爆発しそうな機械音。おっとこれはやべぇぞ。いや、ヘマしたのもそうだけど、この場合爆発が危険だって意味だ。
「ごほ、ごほ……何がおこったんじゃ?」
「シド博士やばいっすよ、アレ、アレ!」
「……なんと!こりゃいかん! 今のショックで、カプセルのエネルギーが逆流しだしたんじゃ。ここは危険じゃ! 急げ! こっちじゃ!!」
「つーことだ、お前ら急げよ!」
「……俺達を殺すつもりか」
「馬鹿か、死にたいのここで?」
「いや……ともかく、これでおあいこだな」
「はいはい」
銀髪の男たちを連れ、おれはここの非常口から無事奴らを逃がしてやった。つーかこれは、シド博士の意思でもあるから、おれのせいじゃないよ?断じて違うんだからね?
その後おれはきっつーいお叱りを……受けずに済んだ。なんか、予想外すぎて拍子抜けだ。ケフカ様はなにやら作戦があるようで、しばらく奴らを泳がせる気でいる。
「幻獣界、そこでティナを連れて来たのさ、つまり、奴らが魔封壁を開いてくれればほかの幻獣も僕ちんたちのもの、それに……あれにも近づける……ヒッヒッヒッヒ!!こりゃ、笑いが止まらん!」
「幻獣界……すか、聞いたこともないですね」
アレってなんなんです?ちょっと怖かったからあえて聞かないでおいたけど。
「お前は僕が指示するまで動くなよ、そうだな、奴らの後を追い、様子を見ていろ」
「……わかりました」
ケフカ様に命じられ、おれはしばらくかれらの後を追うことにした。彼らはアルブルグに一日滞在し、魔封壁に向かったと仲間内から聞き出し、おれは忍び足で魔封壁を進んだ。勿論、少し離れた場所にはケフカ様がいる。
「この奥に幻獣界が…」
「ティナに懸けるしかない」
「任せたぞ、ティナ…」
「……うん!」
このタイミングで現れるのはちょっと早すぎじゃないか?まぁ、それだけ我慢できなくらい楽しみなんだろうなぁ。
「ケフカ!」
「ヒッヒッヒ」
「ティナ、早く!」
「ヒョッヒョッヒョッヒョッ……ガストラ皇帝のおっしゃっていたとおりだ! ティナを帝国にはむかう者に渡し、およがせれば封魔壁を必ず開く……」
全ては皇帝陛下の手の内って訳か、あくどいねぇ、どいつもこいつも。
「つまり、我々の手の内で踊っていたにすぎないのだよ! ヒッヒッヒッ……! 君達に用はありません。私達のために用意された、栄光への道を開けるのです!!」
「そうはいかないぞケフカ!名前!」
え、おれもですか?まぁ部下ですからそりゃそーですよね。
「今度は手加減できないからな、ごめんな銀髪少年」
「受けて立つ…!」
「おや、私達とやり合う、おつもりですね。そういう、おつもりは、いけませんねえ!」
話をしているうちに扉は開き、おれもケフカ様も妙な胸騒ぎを感じた。これはなんつーかやべぇって、すげぇ迫力だ。
「ケフカ様やべぇっす逃げますよおおおおお」
「は、はなせぇえええええええええ僕ちんの幻獣があああああああ」
おれは全速力でその場を脱出した。だが、脱出して正解だったな、だってよ、魔封壁から突如現れた巨大な幻獣達、あのままあそこにいたら奴らに吹っ飛ばされていたに違いない。
「ぜぇっはぁっ…」
「はなせはなせはなせこの屑!」
「ケフカ様も見たでしょうアレやばいっすよ!」
「あぁ見た!素晴らしい!」
「いやそうじゃなくて、あれ帝都に向かってますよベクタ城!」
「でかい声出さんでもわかるわ!いいから下せ!」
「へぶっ」
ケフカ様って思いのほか軽いんだよ、これが。あの時おれを運んでくれたって言うが、正直自分よりでかいおれをどうやって運んだんだ?すげぇなそれも魔法か?