<終焉への一歩>
それからしばらくして、大地に異変が起こった。天から降り注ぐ閃光、それと共に大地が裂けて、人々は挟まれ生き埋めになっていく。つまりスプラッタ状態ってわけだ。おれも流石に笑ってられなかったよね。部下は挟まれて目の前でグロテスクなことになってるし、おれはおれで自分の命守るのに必死になってるし。おれは間一髪で挟まれそうになったところをロウェルに助けてもらったが、ここにいた兵士の中での生存者はオットー、ロウェル、おれの3人だけだった。運ってこういう場所でも働くんだな。悪いけど、お前らを助けられる程、おれら余裕ないからな……それに、どのみち手後れなんだしさ。部下が言ってた、薄情者という言葉、うん、それは確かに言えてる、正解だよ。
「……一体どうなっちまったんだ……ッ」
「オットー、お前足……」
「じゃぁおぶってくれよ!」
「残念ながら俺もだ」
「ったくよ……」
おれたち3人は命は無事だったものの、身体のどこかしら大けがを負っていた。おれは腕があがらねぇし、オットーとロウェルは片足が骨折している。その辺にあった棒きれで何とか応急処置はしたが、流石のおれたちでもこれ以上進むのは困難だ。人々の泣き叫ぶ声、怒号を耳にしながらおれたちは破壊された大地を見て思うのだ。人とは、なんて弱い生き物なのだろうかと。
「悟ってる場合かよ」
「……デシタネ」
「故郷も……みんな無くなっちまったし……これから俺達、どうしたらいいんだろう」
「……ニートに逆戻りかあ」
「……そこを心配するところか?ったくよ、お前は暢気でいいよな、それよりもお前どうして回復魔法使えないんだよ、使えねぇ奴だなー」
「それ、元上官に対していう言葉?」
「今はただの人間だろ、何処にも属さない、浮浪者だ」
「……ゴモットモデス」
下らない言い争いで気がまぎれるならそれでいい。まだ力の残ってる者たちは家屋の下敷きになった人達の助けに向かっている。おれたちはかというと、足も腕もこんなんで、動けるはずもなくアルブルグの宿で横になっている。つーかさ、ここ、よく崩れ無かったよな、新築最高。
それから1カ月が過ぎて、ようやく様々な情報が入手できるようになってきた。まず、ほとんどの大陸がばらばらになり、見るも無残な光景になっていること。ガストラ皇帝の遺体が発見されたこと、それとこの近くにある旧ベクタ城が大変なことになってることぐらいだろうか。おれは初め信じられなかったし、一体どうしてそうなったのか混乱した。天から現れる巨大な光、通称裁きの光ってやつなんだけど、これがまたすげー怖いんだわ。どういうタイミングで落ちてくるのかはいまいち分からないんだけど、奇跡的に生きのっこっていた兵士仲間がとんでもない事実を知らせてくれた。旧ベクタ城、もとい瓦礫の塔のてっぺんにはケフカ様が神として君臨し、裁きの光を下しているんだとか。まじかよケフカ様、もしかして、ガストラ皇帝殺したのもあなただったりします?
だから、ここではケフカ様の話題はタブーになっていた。流石のオットーもロウェルも折角助かった命だ、大切にしたいに決まっている。全治3カ月の怪我だが、無理やり毎日動かしているおかげかなかなか治る兆しが見えない。足を怪我していないおれが2人の分の食料を探したり、情報を聞きまわったりしてるんだけど流石に限界かもしれない。回復薬類は運がいいことに帝国の貯蔵庫が無事だったためなんとかなっている。でもさ、ポーションで腹は膨れねぇんだよなぁ、これが。でも、あると無いとじゃ全然違うからなんとかそれでごまかしながら生きながらえてきた。捕れる魚は生きが無いし、空は毎日澱んでるし。裁きの光が落とされる時はとてつもなく明るくなるんだけど、それ以外は夜と対して変わらない暗さだ。ここはまだ恵まれている方で、流された孤島でだなんて生きられる自信がない。そりゃぁ、身投げもしたくなるぜ。現に、ここでも家族を失って一人ぼっちになっちまったお年寄りとかが何人も身投げしている姿を何回も目撃している。なんで止めなかったかって?ふつうは止めるだろうな、勇気ある人ならば。おれは生憎、勇気とかそういうのから一番遠い存在だからな。悪いけど、死にたければ死ねばいいし、おれたちは生きていたいからなんとしてでも生き残ってみせるぜ。
「……信者が集う、狂信者の塔……かぁ」
「あぁ、例のやつか……このまま、世界は終わっちまうのかね」
「さぁわからねぇ」
ケフカ様を神としてたたえる集団、狂信者たちが集っているとされる塔がこの世界のどこかにあるらしいのだが、おれはケフカ様の信者でもなければただの部下だった人間なので、関係ないけどね。
「とりあえず、この足さえなんとかなったらな……」
「流石にポーションじゃ骨折は治せねぇしな」
「あぁ……ったくさ、人間って弱いよなぁ」
「だけど心の強さは誰にも負けない、だろ?」
「あぁ……!」
ほんと、この2人を尊敬して止まないよ。どこまでも前向きでさ、絶対に挫けないんだ。おれもいい親友と出会えたよな。
裁きの光に怯えつつも、人々はなんとか生き抜いた。もうあれから半年が経つというのに街には復興の兆しが一切見えない。復興しようとすると、例のアレが落ちてくるからだ。で、この街にも現れたよな、ケフカ様信者が。半数はそうなんじゃないだろうか。セリスやあいつら、一体どうしたんだろ。流石に死んじまってるかもな。半年が過ぎると流石に生きた魚を毎日食べることが困難になり、食べれるかどうかも分からない植物で腹を満たした。だが、ここら辺の植物もアレ以来枯れ果ててきて、そろそろ採取も難しくなるだろう。虫も死んでるし、魔物は無我夢中で肉を求めて襲ってくる。怪我はなんとか完治したが、これじゃまた怪我しそうだ。
そんなある日、ある事を思い出した。そういや、レオ将軍の墓って無事なんだろうかと。
「レオ将軍の墓か……確かに気になるな」
「おれ思うに、おれの両親の墓と同じで海に沈んじゃったんじゃないかと思うんだよね」
「……俺の所もそんなもんだ、きっと……そうなんだろうな」
「コート、せめて返しに行きたかったんだけどさ」
「いいよ、それはお前が持っていろよ、レオ将軍は心の中で生きている、そう思えるしさ」
そんな捉え方もあったか、とオットーの言葉に妙に納得してしまった。レオ将軍のコートは軍用なので勿論頑丈につくられている、が、魔物との戦いで最近は端っこが擦り切れはじめている。腕の所はあの時ずたずたになってしまったし。
それからまた半年後、おれはある異変に気がついた。だが、まだそれを言うべきではない、むしろ黙っていたほうがいいのかもしれない。死骸を漁る姿は人間とは到底思えなくて、でも、ほんの僅かに残った食料を確保するのも生き物の本能というか、なんというか。おれたちは魚の死骸や動物の死骸、僅かに生え残った草を食べながらなんとか生きながらえてきたが、そろそろきついな。あのポーションが美味く感じられる程のそれらを食って生きながらえてきたのはおれたちだけではなく、ここにいる人間が皆そんな感じだ。
「おれ、ちょっと寝るわ」
「最近お前寝ることが多くなったよな」
「食事がまともに取れないんだからさ、寝てるのが一番効率いいんだよ」
「それは言えている」
オットーとロウェルが食料調達に向かい、おれは掘立小屋でごろごろしていた。その時だった。いるはずもない人が入り口で立っていて、此方を見てほほ笑んでいる。この時思ったよ、あぁ、これが女神さまってやつかってね。
「―――名前、あなたが生きていると噂を聞いて……」
「セリス……?」
女神と思ったらそれはセリスだった。少しやせ細った気もするが、そこには元気そうな彼女がいた。
「ほかは皆死んじゃったけどね、オットーとロウェルだけが生き残ってる感じかな」
「そう……2人は生きているのね、よかった」
「……いま2人は食料調達に向かってるんだ、ここで座って待ってなよ」
ずるずると木の箱を部屋の真ん中に置く。ちなみにこれは食卓兼椅子でもある。
「いいえ……私はもう行かなくちゃ、仲間がツェンにいると聞いたの」
「……そっか、まぁ、2人には伝えておくよ」
「悪いわね、でも、会えてよかったわ」
「へへっ……」
「何?」
「なんかすんげーかわいくなったよな、セリスって」
以前は言えなかった言葉だが、今なら言える。というか、今伝えなくてどこで伝えると言うのだろうか。なんとなくおれの男度が30UPしたような気がした。
顔を赤らめるセリスは実に女神のようだった。野郎だらけの世界でセリスは目の保養的存在だった。そして今も変わらず、彼女はおれの目の保養だ。女性は恋をすると変わるというが、彼女はきっと誰かに恋をしている。おれ以外の誰かに。
「そ、そんな褒められてもっ……」
「まぁ素直に喜べって……恋人は見つかった?」
「いえ……えっ、な、どっ…どうしてっ」
「ははは、そりゃぁ、男の勘ってやつだ」
おれ、勘だけはいいからな。むしろそれが無かったらなんも取り柄がないかもしれない。やっぱりか、と思っていたが実際の言葉を聞くと結構ショックだな。これが失恋の痛みというやつか。
「はやく見つかるといいな」
「……ありがとう」
突然涙ぐむセリスに流石のおれも慌てた。おいおい、こんなべっぴんさん泣かすなんてどんな野郎だ、おれが許さん。ここで優しく抱きとめてもよかったのだが、なんだか負け惜しみみたいで嫌だったのでそっとハンカチを手渡した。
「……聞いて、くれる?」
「……うん」
セリスが今までシド博士と一緒にいたこと、シド博士が亡くなったこと、1人取り残された事、そしてあれの原因が何であるのかを全て語ってくれた。なんていうか、なんたら神ってのはケフカ様が影で探してたのは知ってたけど、まさか世界がこんなになるとはなぁ。分かってて探してたのかな、だとしたら悪質だ。知りながらも何も言わなかったおれも、同罪か。だからこんな……
「強制にとは言わないわ……名前、あなたの力が借りたいの」
「―――はは」
「……やっぱり、駄目かしら」
「……ごめんな、きっと今のおれじゃ足手まといになるだけだ」
なんとなく、セリス達が世界を変えてくれる、そんな気がしてきた。おれは彼らを見守ることしか出来ない。世界を救うなんて、そんな大それたことできっこないさ。セリスはそっか、と残念そうな表情を浮かべていたが、こればかりは……なぁ。
結局、セリスにはなんもしてやれなかった。手元に残った残り僅かのポーション瓶を渡しただけ。2人にはセリスが来たことを教えてやったが、そこまで驚いていなかった。けど、生きていてよかった、とだけ言葉をこぼしていた。人の事なんて心配している余裕なんてないもんな。
その日、おれは懐かしい夢をみた。レオ将軍が生きていた時の夢だ。
「そうか、お前も色々と大変だったんだな」
「まぁ…色々とありましたから」
「それで、そいつらはなんとかなったのか」
「はい、もうちょっかい出してきたりしませんよ、っていうか、おれの力が怖くて近寄ってこないんですけどね」
「……まぁ、恐ろしい力であることは確かだ、だが、力など所詮使い方次第でどうにでもなる、正しいことをすればそれは正義になるし、悪い行いをすればそれは悪になる」
「正義と悪って、互いの見方っすよね?」
「そうだな―――少し、難しい話だったな」
「あ、レオ将軍もおれが頭弱いって思ってるんスか!?」
「はっはっは、違うのか?」
「やめてくださいよ、まるでおれが馬鹿みたいじゃないっすか!おれは馬鹿じゃないですって……」
「あぁ、馬鹿じゃない、お前は面白い奴だ」
「おも……ッ、それって褒めてるんスか?」
「あぁ当たり前だろう」
「……いいですよ、こんどレオ将軍が寝てる時にそのモヒカン全部刈り上げてあげますから」
「はっはっは、まだまだ俺よりも弱いくせに、調子に乗るなよっ」
「あだっ、痛いっすよ!」
「はは、ここにいたければいればいいだろう」
「そーじゃなくって!」
死んだ人が夢に出てくるときは、何かしらの意味があるとおとんが言っていた。なぁ、これってさ、やっぱりそうなんだよな。
セリスがここを発ってからもう2週間近くは経過しただろうか。おれは2人が眠っていることを確認し、レオ将軍のコートに手紙を忍び込ませた。あとは、頼んだぜ。
おれってさ、結局いつも中途半端な人間だった。おかんは、それもお前の優しさなんだよって言ってくれたけどさ、でもさ、男はいつまでもそれじゃいかん訳だよ。けじめをつける日がやってきたようだ。
朝なのかもわからないが、体内サイクルは狂っていないので恐らく明け方頃だろう。おれは愛用の剣だけを持ち、瓦礫の塔の中へと入って行った。上空には見慣れない飛空挺があって、なんとなく彼らなんだろうなぁと思ってしまった。期待してるからな、セリス。
とてつもない地響き、まるで大地が痛みを叫んでいるようだった。上がどんなことになってるのかは分からないけど、もう少し静かにできないものかね。肩めがけて思いっきり瓦礫が落下してきたが、不思議と痛みは感じなかった。口から血が流れ出ようとも、おれは止まらず進んだ。上からとてつもない爆音がした。流石にセリスが心配になったよね。だが、不思議なことにその爆音の後突然世界が静かになった。いや、おれの耳がとうとう駄目になったようだ。ボロボロと崩れ落ちるその中で、おれは恐怖も感じず無音の世界の中歩き続けた。足をやられようが、頭から血を流そうとも構わず。
おれがけじめをつける日。
男ってのはさ、いつまでも中途半端でいちゃいけないわけさ。セリスには想いを伝えられたし、あいつらには手紙を残しておいたから大丈夫だろう。
だからさ、おれ、決めたんだ、死ぬ時は――――
「……うおおっ!?」
「……っぐあ……」
突然上から誰かが降ってきた。確認しようとしたけど、もうこれ以上身体は動かない。目は見えなくなってきたし、耳は聞こえない。ぼんやりとだが、見慣れたあの人の顔が見えてきたような気がする。あの人はおれをみて驚いていたよ。耳は聞こえなかったけど、口の動きでなんとなくわかったんだ。
「―――何故ッ……お前がここに……っぐ」
「へへ……ッ男の……けじ……めをつける時ですぜ」
……ケフカ様。