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剣の記憶/14

<永遠の緑>

世界に緑が蘇り、人々は新たな歴史を歩み出した。次こそは、よりよい世界を作ろうと。忘れてはならないのが、この世界を救ったセリス達。もう二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、失われた命の為にも。

戦いが終わり、大地はあっという間に緑に包まれていった。世界が生まれた時と、同じ姿を取り戻したのだ。あれからあっという間に時が流れ、3年が過ぎた。フィガロの君主であるエドガーはそのカリスマ性を存分に発揮し、大陸一巨大で頑丈な国を作り上げた。まだまだ未完成ではあるが、ここはきっとより良い国になるだろう。なぜならば、今は彼1人きりではない、双子の弟がいるからね。

セリスはあれから再びばらばらになってしまった仲間たちと合流し、その後アルブルグで憲兵をしている2人の元を訪れた。アルブルグもフィガロ同様かなり復興してきているようで、街には商人が絶えず訪れている。農業が盛んのようで、切り開かれた大地には新鮮な作物がその実を実らせていた。

「……久しぶりね」

「セリスしょ…いや、セリス」

「ふふ、相変わらずね」

「癖は抜けないからな」

「そうそう」

そういえば、私の名前をどもりながら言ってたあの人は今どうしているのだろうか。2人の元にいないなんて、どこか旅に出たのかしら。

「……名前は?」

「あー……」

「セリス、知らないんだなぁ」

「……え?」

名前は、男のけじめをつけにいったんですよ。2人の言っている意味がいまいち分からないセリスはただ首をかしげる。

「元気なんでしょう?どこか旅に出たの?」

「アー……旅に出たと言えば」

「出たかな?」

「そうそう」

「……どういうこと?」

部屋の片隅にはあの時と変わらず、レオのコートと剣が木の箱に乗っかっていた。3年という歳月が流れたおかげか、コートは埃っぽかった。2人はそれに目をやり、小さく笑った。

「あいつは元気にしてるよ、今も昔も」

「そうそう!またどこかで会えるって!」

「……そう、ならいいのだけれども、もし、名前に会ったらお願いできる?今度、デートに行きましょうって」

「……あぁ、伝えておくさ」

「ばっちりな」

あいつ、馬鹿だよな、なんでそんな重要な事、教えてくれなかったんだよ。

緑が蘇りしばらくしたある日、2人は部屋に置かれたコートの存在にようやく気がついた。初めは名前が食料を探しに出かけたのかと思っていた。ツェンの知り合いに会いに行ったのかも、と尋ねてみてもツェンの知り合いは何も知らないと言う。コートに置かれた剣の下に小さなメモ書きのような手紙に気がついたのはそれから1カ月が過ぎてからの事。そこには、名前の全てが記されていた。理解するのにかなりの時間を要してしまったが(なにしろ字が震えていてなんて書いてあるか分からない上に元々字はへたくそなのだ)ようやく2人はそれを理解した。

あぁ、あいつは男のけじめをつけに行ったんだと。

やはり、と不審に思ったセリスは2人がいなくなったのを見計らって家に戻ってきた。そう言えば、2人はレオのコートをみて意味深に笑っていたっけ。あれは一体どういう意味なのだろうか。

「あの人の剣……懐かしいわね」

あの人は最後まで、良き同僚だった。亡くすには惜しい人だった。だが、彼はもういない。死んでしまった人を生き返らせる術はないのだから。

「……ん?」

がさがさいじっていると、足元に紙切れが落ちてきた。一体なんだろう、と持ち上げると紙はしわしわで、ミミズみたいな文字が長々と綴られていた。

あぁ、そういうことだったのね……だから、あなたが見つからないのね。

ケフカがいなくなった世界はとても平和で、静かだった。だけれども、あの人のいない世界は静かすぎる。手紙をみて、嗚咽を漏らすセリスの姿を家の窓からそっと覗きこむ2人の影が揺らぐ。

「……あーあ、どこかの誰かさんのセリフをまるまる返してやりたいぜ」

「ほんとだよな、あんなべっぴんを泣かす野郎、どこのどいつだって?」

お前だよ、名前。

セリスがロックに恋心に似た何かを抱いていたのは事実だったが、真の意味で心を奪ったのは名前その人だった。だが、彼はもうこの世にはいない。彼は、男のけじめとやらをつけにあの日、2人に黙って旅立った。それはもう遠い世界に。

お前がいなくなっても、世界は回る。まぁそんなこと心配しているようなお前じゃないだろうけれども、安心しろよ、セリスは俺らがかっさらうからな。

名前のやめてくれ、という叫び声が聞こえてきたような気がして2人は笑みをこぼす。

―――またな、親友。今日はお前の大好きな青空だぜ。


§オットーとロウェルへ§

どうだ、おれの物隠しのテクニックもすごいだろ?ははは!

……なんだかさ、改めて手紙を書くって恥ずかしいよな、だけど最後だと思って読んでくれ。お願いだから途中で飽きたりしないでくれ。

……やっぱり書くことが思い浮かばないや。

2人にはその、感謝もしてるし、最高の親友だと思ってるよ。だから、その、おれのこと、忘れないでいてほしいんだ。気持ち悪いとか言うなよ?

おれ、2人に会えてよかった…2人がいなかったら、あのまま兵士止めてたと思うんだ。兵士続けていたにしろ、止めていたにしろ……どっちにしろ、これはおれの運命?ってやつだったのかもな。

2人には内緒にしていたんだが(医者に口止めしてもらってたんだなこれが)実はおれ、半年前くらいから病気にかかっちまってさ、治療法もないし、2人に迷惑をかけると思って言わないでおいたんだ。余命は一年もないですよって医者に言われてさ、正直呆然としたよね。なんて言うんだろ、死の宣告ってやつか、思ったよりもショックじゃなかったんだけど、やっぱり心のどこかでは死にたくねぇなあって思っちまったよ。

だけど、どうしようもない世界だろ?セリス達が世界を救ってくれるまで、おれは待てないだろうしいつまでも苦しいまま生きていたくないんでね。

セリスと会ったって話しただろ?で、おれ、想いを伝えようとしたんだけど相手がいるみたいでさ、実は結構前からセリスの事好きだったんだよね、なんだかんだ言いながら。彼女はおれにとって女神みたいな存在だったし、会いにきてくれた時だって、おれ病気の苦しみで頭おかしくなるかと思ってた時なんだぜ?セリスに会ったらさ、ぱーっと痛みが引いてさ、なんか自分の死を受け入れられるようになってたんだよね。

だから、セリスには内緒にしていてほしいんだ、おれが彼女を愛していることを。死人から愛されるなんてさ、彼女も嫌だろ?なんつーか、死者の念に縛られるって奴?それだけは勘弁してほしかったんだよね。だからあの日言えなかったって……まぁ、言い訳でもあるんだけど。

でもさ、あの時抱いてやればよかったなぁ~惜しいことをしたぜ……女にもてないおれが、女性を抱けるいいチャンスだったのにさ。あの時、セリス泣かしてた野郎、ほんとに許せないぜ……はぁ……

死者の戯言だ、聞き流してくれ。そいつが死んだら、おれは一生そいつを恨むだろうな。セリスに恋心を抱かせたんだ、それなりの態度を取ってもらわなくちゃ、な。これはおれの負け惜しみでもあるんだけど……ははは……

男ってのはさ、いつまでも中途半端じゃいちゃいけないわけ、おかんにはそれも優しさだよって言われたけどさ、優しいだけが、全てじゃないだろ?

あの人さ、なんだかんだで独りぼっちだからさ、せめて最後まで一緒にいてやろうと思うんだ。あの人がやってきたことは、許されるようなことじゃないけれども、おれはやっぱり、あの人を憎めないんだ、洗脳されちまってるのかな、おれ。

おれ、あの人にされた仕打ちは絶対に忘れないけれども、あの人に助けられたことも絶対に忘れたくないんだ。あの世でもあの人の雑用係だったらどうしよう。

なぁ、おれって雑用係の鏡だろ?

最後に、おれはこれから“男のけじめ”をつけに行きます。

§名前・アデルバート§

Published in剣の記憶