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滑降/08

<繁栄の終わり>

名前は夜中、突然目が覚めた。そして、研究所の扉を開くとそこには夥しい量の血液が散乱していた。中からは炎が上がり、新たな人工魔導士の失敗作達が次々に爆発していく。あまりの死臭に名前は足がふらつく。どうしてこんなことに…一体どうしたというの!?

「…そんな!」

代々クラウン家の当主だけの命令を聞く彼らの亡骸があたりに散らかっている。死体を見ることなんて、慣れていることだが、彼らが何者かに襲撃されたと考えると、父親の生存が危ぶまれる。

「おとうさま…!」

研究所の奥、父しか入ることが許されないその部屋の扉を生まれて初めて開く。すると、そこにはベンらしきものの左手が落ちていた。何者かに引きちぎられたのか、いつも着ている白衣がボロボロになっていた。

「そんな…どうして…ッ」

次の瞬間、巨大な地響きを立てて研究所が崩壊していく。この衝撃波を出しているのは…あの青い光を放ってる装置か…!?
装置を止めたらどうにかなるかもしれない。

「こんなところで何をしている名前・クラウン!」

「クルト王子…!大変です、異変を感じてきたら…研究所が…!おとうさまが…!」

「何、ベンが殿?」

クルトはベンの片腕を見つけ、後ずさる。

「お前が殺したのか」

「違う…わたしじゃない…!」

「なら、どうして父上の姿もッ…!」

流石にこのままではやばいと感じた。装置がまばゆい光を発し、轟音を立てて爆発した。その後のことはよく覚えていない。気がつけば見知らぬ部屋で寝かされていた。

「―――ここは…」

「おや、ようやく目覚めたんですか。」

聞こえるはずのない男の声に名前は驚く。何故、ケフカがここにいる…?

「どうしてって顔をしているね、でもよく生きていられるね…ベン・クラウンに体をいじくりまわされてるだけあるね。」

そうだ、おとうさまはどうなったのだろうか。名前は起き上がろうとするが、体に全く力が入らない。よく見れば腹部からは未だに血が流れ出ているではないか。赤く汚れた包帯を見つめ、呆然とする。研究所で何があった?何故おとうさまが狙われた?何故、腕だけしか残っていなかったんだ?

「目覚めたか名前・クラウン!」

部屋の扉を豪快に開き現れたのはクルト王子だ。クルトも重傷を負っており、体のあちこちに包帯が巻かれている。

「王子、これは一体どういうことなの!?おとうさまは!?」

「お前も知らないのか、父王がどこへ行ったか。」

「なんですって…?」

「父上が…消息を絶った。あの晩からだ…私は父上に話があるため、部屋に向かった…向かうと、そこには血まみれの父上の衣服があった。何者かが父上を襲ったのだ…だが、あそこを襲撃できる技術を持った国は、他にはない…内部の犯行だと推測した。しかし、次の瞬間部下たちからマティウス装置が異常を示していると報告があった…」

クルトは父王の事を後回しにし、住民に避難勧告を出したのだ。全戦艦を起動させ、住民を無事避難させることには成功したようだが、全員まではいかなかったそうだ。マティウス装置は水中に存在するマティウスの生命線のような装置で、それが壊れてしまえばマティウスは水圧に負け、跡形もなくなってしまう。そのマティウス装置の指令室が、研究所にあったなんて。

「全て失った…だが、民はまだ生きている……私はお前が犯人ではないかと思っていたのだが、そうでもなさそうだな。」

お前が眠っている時、頭の中を調べさせてもらった。クルトはグスタフが開発した人の頭の中を探る装置を名前の前に見せる。それを見て、名前は言葉にならない怒りを感じた。
人を勝手に疑い、人の頭の中を勝手に覗き込む非道な男。非道とか人の事は言えた立場ではないだろうが、これだけは言える。この王子は最低最悪の男だ、と。
体の自由が利ければ、今すぐに焼き殺してやるところだ。怒りで言葉も出ない。

「マティウスは滅亡した…父王もいなくなった…我々は、まず民の安全を最優先することにする。現在同盟を組んでいる帝国に、しばらく民を置いてもらうことにした。」

「…帝国を嫌ってマティウスに来た彼らが、帝国に喜んで住みつくかしらね?」

「それはこの国の皇帝と話を通してある。マティウスの民を賓客として扱ってくれとな。」

「へぇ…それをあの人が飲んだの?」

「あぁ…我々が帝国に一時下れば、という条件でな。」

名前は渾身の力で起き上がり、近くにあった水のボトルをクルトめがけて投げる。水を浴びたクルトは静かに名前を見つめた。

「帝国に下るって…?今さら…?なら、わたしたちは今まで、何のために戦ってきた?何のために…!」

何のために、弟を失ったのだ?
国もない今、名前に残された物は何一つなかった。空っぽの心で、名前は叫ぶ。時が戻るのならば、弟だけでも返してくれと。

「―――あんたの顔は当分見たくないわ…」

「…では、私は皇帝に用があるから失礼する。」

だが勘違いするなよ、お前だけが辛いんじゃない。この私だって辛いんだ。父上の亡骸も探すことができず、大切な部下も多く失った。民も全員守ることができなかった。
クルトは感情を押し込め、部屋を後にする。部屋に残されたケフカと名前がその後言葉を発することはなかった。

夜、クルトは部下達からおかしな話を耳にする。複数の兵がマティウスの上で巨大な影を発見したと。その影はマティウスの工場区を包む程巨大で、その生き物が通った後突然町中に地響きが襲った。ありとあらゆる機械が異変を起こし、各地に散らばるマティウス装置にもそれが見られたと。
クルトはこの事を父王に知らせるべく王の部屋へ訪れた。が、目の前に広がる惨状に絶望する。血まみれのマント、父王の冠が血にまみれて落ちていたのだから。これは間違いなく内部犯の仕業。他国がマティウスの内部に侵入できる程の技術は持っていないはずだ。血は秘密の扉まで続いており、その扉を知っているのは間違いなく王家と直接かかわりのあるものだけ。名前・クラウンが復讐しにきたのだろうか。そう考えた次の瞬間、城が轟音を立て始めた。窓の外をのぞくと街が次々に崩壊していくのが分かる。クルトは早々に部下たちに命令し、大戦艦2機を発動させ、そこに住民たちを避難させた。しかしマティウスの人口は今や数十万を超える。
マティウス装置のコアがある場所はベン・クラウンの研究室だろう。あの装置さえどうにかしてしまえば、時間稼ぎくらいはできる。まだ行ったことのない研究所を探すのに手間取ることはなかった。名前・クラウンが走って行くのを見つけたからである。
名前・クラウンが行った先にはコア装置があった。しかし、ベン・クラウンの片腕を見つけ、クルトの頭はさらに混乱した。ベン・クラウンと父王を襲撃する犯人なんて、全く見当がつかない。いいや、今は考えるのはよそう。装置を止めなくては…
呆然とする名前・クラウンは突然叫び出す。おとうさまは、と。次の瞬間巨大な光がコアから発せられ、その名の通り城が光に包まれ蒸発していく。クルトはその衝撃で倒れた名前・クラウンを抱え城から飛び出す。タイミングよく控えていた部下達に助けられ、なんとか戦艦に乗り込むことに成功したのだ。
戦艦の窓からは、今まで栄えてきたマティウスの歴史が崩壊していくのが見える。コアは街を蒸発させ、跡形もなく消え去って行った。あの美しかった町並みが、他の国にはない独特な文化が、芸術が、全てが泡となって消えてゆく。取り残された者たちの亡骸すら、拾うことができないなんて。

「――――糞ッ…一体、何故こんなことに…!」

「王子…」

「すまないな…お前たちの家族も…まだ残っていたんだろう…」

「いいえ…王子は奮闘してくださいました、我々に適切な指示を与え、助けられる命を助けてくださいました……亡くなった者たちの為にも、また一からやり直しましょう…アッサム将軍も、それを望まれております…」

「アッサムか…久しく聞く名だ……私は…全員助けることができなかった、父上の亡骸すら…」

「王子…」

クルトは重症の名前が眠る医療室に向かう。そして異様な光景を目の当たりにする。彼女の体のあちこちには傷があり、不思議な文字が描かれている。これは女の体とは思えないな。

「名前将軍はなんとか助かります…助かった住民も、治療を既に行っています。」

「そうか、感謝する…」

「いえ、それが我々の仕事ですから、助けられる命は助けなくては。」

クルトは彼らの言葉に随分と励まされた。こんな時、トップである自分が弱気でいてはならないと、彼らを安心させるためにも自分がしっかりしなくてはと。
今、大勢の住民をかくまえる国と言えば同盟を組んでいる帝国くらいだろう。帝国は仮にも、父王の兄君が統治している国だ。仲が悪かろうが、誠意を見せればきっと受け入れてくださる。どんな屈辱も受けるつもりだ、マティウスの民が安心して暮らせるのならば。

「…こんな明け方に、随分な格好で現れたな、甥よ。」

「…ガストラ皇帝、お久しぶりです…我が国が、何者かによって襲撃され…」

クルトは国で起こった全てのことをガストラに話した。ガストラの反応からして、この事には関与していない事がわかる。全てを話し終えた頃には日が昇り、他の部下たちも集まって来ていた。その中にはケフカやレオと言った名高い将軍たちもいる。

「うむ、マティウスとは同盟国だったからな…マティウスの民を受け入れる代わりに、そなたたちが我が配下になると?」

「はい…」

「うむ気にいった…国が再建できるまでそなたらをかくまってやろう。それなりの地位もあたえてやる…そなたは仮にも我が甥だからな。」

「感謝いたします…」

父王がこの事を知ったら、なんと言うだろうか。いいや、父上ならきっとわかってくださる、これもマティウスの民のためだ、と。
ベン殿といい、父君といい、一体誰に襲撃されたのだろうか。マティウス装置・コアが異常を起こしたことによっての消滅は確実だ。クラウン家の生き残りである名前・クラウンなら何か知っているかもしれない。クルトは未だに眠る名前の部屋を訪れ、頭に装置を取り付け調べる。これはグスタフが発明した新装置だ。眠っている人の頭の中を覗けると言う装置で、もしものときのためにと手渡されたものだった。

「何をしてるんです?」

「お前はたしかケフカと言ったな…」

「えぇそうですよ。操りの輪ですか?」

「操りの輪?いいや、そんなものではない…父上が開発した装置だ…これを眠っている対象人物につけると頭の中が覗ける。」

「ふうん…」

「―――どこかへ行ってくれないか、気が散る。」

「はいはい、わかったよ。」

ケフカを部屋から追い出すと、クルトは早速名前のあまたの中を覗き込む。

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