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星のこども/02

<じいじ>

「じいじ!」
「おぉ、名前か…いつの間にかにこんなに大きくなりやがって……」

ハンマーヘッドにたどり着くなり、名前はシドに抱き付く。ちなみに、じいじという呼び方は、ここにいるシドニーがシドの事をそう呼んでいるので、名前も自然とそう呼ぶようになっただけであり、彼が祖父という訳ではない。シドは昔と変わらず車の煤だらけでしわしわの手で名前の頬を包み込む。

「王都へ行くんだろ」
「えっ、何で知ってるの?」
「そりゃあよ、先週ヴィクトリアが言ってたぜ、うちの娘が王都に行くためのプランを夜こっそり立ててるってな」
「……なんだ、お母さんにばれてたんだ…」

王都製のお土産を買ってきて驚かせるつもりでいたのに、バレバレだったとは。

「それにしても、随分と髪伸びたな」
「あ、これね……ショートヘアにしても、あっという間に髪が伸びちゃうから伸ばすことにしたの」
「若けぇ内から、髪の手入れしっかりしとけよ、おい、シドニー、お前ワックス持ってなかったか?」
「ワックス?車のワックスの事?」
「持ってねぇだろうな……ほら、小遣いやる、これで何か買っとけ」
「え、いいの…?ありがとう!」

別に、名前はお小遣いをせびる為にハンマーヘッドへやってきたわけではないが、シドにとっては孫娘のようにかわいがっているので、仕方のないことだ。名前はシドからのお小遣いをありがたく頂戴し、旅の資金が入っている財布へそれを入れる。王都観光を楽しむには少なくとも10万ギルは溜める必要があるだろう。1泊の宿代だけでも相場2万ギルだと噂を耳にしているので長く観光を楽しみたければそれだけお金を貯める必要がある。初日から食費が少し浮いたのはラッキーだと思う。計画的にお金を使わなければ、あっという間にすっからかんになってしまうだろうから、アイテムも無駄に使わないようにしなくては。回復に関しては母ヴィクトリアにもシドにも誰にも教えていない特技があったのでアイテムは十分節約できる自信があった。何故、その特技を誰にも教えていないのかというと、ただ単に秘密を持つ大人の女性に憧れているだけの話だ。そう、とあるドラマに影響されたという簡単な理由。

「そういや、ヴィクトリア、今頃ガーディナにいるんじゃねぇか」
「え、お母さん、ガーディナにいるの?ハンターの仕事じゃなかったの?」
「さぁ、よく知らねぇけど慌てた様子でガーディナに向かっていったぜ、お前の母さんに渡し忘れた物があるんだ、これ、渡しておいてくれねぇか」

何やら重たい紙袋を手渡されシドを見上げると、中身は仕事で使う機械の部品だと教えてくれた。

「ガーディナかぁ…うんと遠いね、足で行ったら4日ぐらいかなぁ?お母さん、待っててくれるかなぁ」
「大丈夫だろ、何なら手紙出しときな、ウィズと一緒にいるはずだからよ」
「うん、わかった」

ヴィクトリアは今時珍しく携帯を持っていない。連絡手段は、いつも連れている雷鳥のウィズだけ。ヴィクトリアと連絡の取りたい人は、ウィズを捕まえて手紙を持たせればいいだけの話だが、問題はウィズのいる場所が日によって違う事だ。ヴィクトリアとの連絡になれている人であれば別に大した問題ではないのだが、名前は普段母とウィズと使って連絡を取ったことが無かったので、シドにウィズで連絡を取ればいい、と簡単に言われたが後からどうしよう、と悩むこととなる。

「あ、そうだ、ねぇねえ王子、名前もガーディナに連れて行ってあげてよ、そこに彼女のお母さんがいるんだ。今さっき、じいじからお使い頼まれてたから、なるべく早めに荷物を渡してあげたいんだ」
「別にいいけど」
「え、ちょっと待って、誰が王子様なの?それはあだ名か何か?」
「何を言ってるの名前、一緒に来たこの人、ノクティス王子だよ、え、知らなかったの?」
「うん……え、王子様なの?」

驚きの事実に、思わず間抜けな顔を見せてしまった。王子には見えないもんな、威厳も何もないし。というグラディオに吹き出すプロンプト。如何やら、本当に彼、ノクトはあのノクティス王子だった。あの、と言っても風の噂程度にしか名前を聞いたことが無かったので、目の前にいる人が王子です、と言われてもイマイチ王族がいる事に対しての実感がなかった。
ノクティスは王子だが、別に敬語もいらないと言ってくれたので今までと変わらず接することにした。というより、本人は堅苦しいのは苦手なようだ。

「何をお使いに頼まれたの?」
「ハンターの人たちが使う機械の部品だってじいじが言ってた」
「へぇ~、ねぇ、見てもいい?」
「うん」

彼らの車、レガリアの後部座席に乗せてもらい車は順調にガーディナへ向かっていた。車であれば半日もかからない内にガーディナにたどり着いてしまうので、車という乗り物は偉大だと思う。いつかは、チョコボも完全に乗りこなせるようにならなくては。チョコボの上が苦手な名前は、幼いころ母に乗せてもらったチョコボから転落した記憶があるので、いつになっても苦手なままで乗る練習もせず今に至る。

「そういえば、名前のお母さんって凄腕のハンターなんでしょ?あと、すんごい美人ってシドニーから聞いたんだけど本当!?」
「おいプロンプト」
「いいじゃんグラディオ、聞くだけなら別にさっ、ね、ノクトも気にならない?」
「は?巻き込んでんじゃねぇよ」

プロンプトはヴィクトリアの容姿が気になっている様子だが、母として長い時を過ごしてきた名前にとっては、よくわからない事だった。

「名前って、可愛いもんね、きっと、ヴィクトリアさんって物凄い美人なんだろうなあ~~~~」
「私とお母さんって全然似てないのよ」
「えっ、そうなの?」
「うん、前に家に来たハンターの人たちが言ってたわ、ヴィクトリアはお前の本当の母親じゃないんだって」
「……おい、なんかこの話気まずいんだがよ、プロンプト……」
「ごめん…」

それは、ただ単にヴィクトリアに惚れているハンターの男が名前とヴィクトリアを離してヴィクトリアを自分の物にしたいが為に言った嘘らしいので特に気にしてはいなかった。ギャグのつもりで言った言葉が意外に重たくなってしまい、それから名前は余計な一言を言わないよう慎重に言葉を選ぶことにした。
長閑な午後、一行は白浜の広がるガーディナ渡船場にたどり着いた。ノクトたちはこれから渡船場から船に乗り、ノクトの結婚式の為にオルティシエに向かうそうだ。ちなみに、ノクトの婚約者はあのルナフレーナ様。彼女を知らない者は、このイオスにはいないと言っても過言ではない程、誰もから愛される神の巫女、神凪。これも、風の噂程度でしか耳にしたことが無かったが、そもそも何故ルナフレーナ様とノクティスが結婚をするのか。旅に出る直前、家にあった新聞には北で猛威を振るうニフルハイム帝国とルシス王国が停戦調停を結ぶというニュースが大きく掲載されていたのを思い出し、名前ははっとする。
この調停が結ばれれば、世界中の誰もが戦争のない世界を喜ぶだろう。

「え、お母さん、もう出ちゃったんですか!?」
「はい、どうやらお急ぎの様子でした」

流石は人気のハンターだ。やはり、旅に出て正解だったと名前は思う。今までも家を空けていることが多かった母ではあるが、母なりに一緒にいる時間をちゃんと作ってくれたし、大切にしてくれていることもわかっていた。だからこそ、大きくなった今では母の時間を大切にしてあげたかったので、名前はこの機会に1人旅に出る事にしたのだ。
宿の受付にお礼を述べ、とりあえずノクトたちの元へ戻ろうとしたとき、突然後ろから見知らぬ男性に声をかけられた。振り返ると、そこにはどこか貴族のような風貌の男性が立っていた。

「お嬢さん、船、乗りに来たの?」
「いえ、私は別に…一緒にいる人たちが船に乗るだけです」
「へぇ、あの人たちのお友達?」
「お友達というか…会ったばかりなんですけど、偶然行く先が同じだったので乗せてもらったんです」
「ふうん、ちょっと失礼」
「―――」

話をしているうちに、いつの間にかに距離を詰められていて見知らぬ男に顎をぐいと持ち上げられてしまった。何をじろじろと見ているのだろうか。もしかして、ニキビでもあるのだろうか。突然の事に名前は動揺し、視線を泳がせる。

「へぇ、青い瞳なんだ」
「お母さんと同じ色よ」
「ふうん、君のお母さん、不思議な力を使えたりしない?」
「えぇそうね、お母さんはいつでも魅力的よ、そのお蔭で昔から苦労してるわ」
「そうなんだ、会ってみたいなぁ…」

新手のナンパか。娘を仲介したナンパとかもはや訳が分からない。確かに、言われればヴィクトリアは美女なのかもしれない。そろそろ顎が疲れてきたので離れようとしたが、この男、結構強い力で掴んでいるので動こうにも動けない。と、困っていたところにナイトの登場に名前はほっと胸を撫で下ろす。ようやく解放され、逃げるようにグラディオの背中に周り、怪しげな男を見つめる。

「何してるんだこの野郎」
「ごめんよ、ついつい可愛かったから…あ、そうだ、残念なお知らせです、船、乗りにきたんでしょ?うん、出てないってさ」

グラディオの言葉を無視し、怪しげな男は待つのイヤなんだよね、帰ろうかって思って、と言葉を続けた。

「停戦の影響かな」

グラディオたちがにらみつける中、飄々と立ち去ろうとする怪しげな男はノクトに向かってコインを投げてきた。勿論、それはグラディオが取ったのでノクトに直撃することは無かったが。あれは、誰でも悪意が込められているものだと分かっていたのであえて挑発に乗る事にしたグラディオは、停戦協定で記念コインでも出たのか?とカマをかける。しかし、相手も上手だ。

「それ、お小遣い」
「おい、あんた、なんなんだ」
「―――見ての通りの、一般人」

と、怪しい人物は大抵そう答えるものだ。

「ねーわ」
「…怪しさの塊だったよね」

怪しい男の背に向かって、ノクトと名前は鋭いツッコミを入れる。

「おい、名前、お前あいつに何ともされてねぇか、大丈夫か?」
「うん、ありがとうグラディオ……お母さんの事を聞かれた、お母さんのファンにしては、なーんか感じが違うような気がする……」
「年頃の女なんだから、その辺は気を付けろよな」
「はい、肝に銘じておきます」
「なんだか、イリスみたいな心配のされ方してるな」

同い年の妹がいるグラディオにとって、名前が見知らぬ男性に捕まっていたところを黙って見過ごせるわけがなかった。なので、ノクトが言っていることはだいたい正解だ。
それから、一行はあの男のいう通り船が出ていない関係で船に乗る事が出来ず、船乗り場にいたディーノという男に船を出す協力をしてもらう代わりに、宝石の原石を探しにかなり身を張った。無事原石を手に入れた時は、生きていることが奇跡だったのではないかと気が付いた。巨大な野獣の休憩場所のすぐ近くにその原石があるのだから仕方がないと言えば仕方がなかったが、あそこまで死の危機を感じたのは生まれて初めての事だった。

Published in星のこども