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星のこども/03

<彼女の名は、モニカ>

旅の2日目は命の危機と別の意味での危機を感じたドタバタな1日だったと思う。名前は朝日を見つめながら、今朝のニュースを思い出していた。
王都インソムニアが、帝国の手によって陥落。さらには、先日会ったあの男、ディーノ曰くあのコインを持っているのは帝国関係者だけらしいので、帝国関係者なのではないかというとんでもない情報を耳にした。だとしたら、あの男はインソムニアが陥落したことをあの時点で知っていた可能性がある。別に名前に話しかけたくて話したわけではなく、目的はノクティス王子の偵察、だったのかもしれない。なんだか、とんでもない事に首を突っ込んでいるような気がして、名前はいつまでも彼らの世話になっていいものかと少し悩んでいた。
暫くして、ギィ、ギィとこの辺では聞かない不思議な鳥の声が聞こえてきて、それは次第に近づいてくるのを感じた。

「ウィズ!」
「ギィ」

間違いない、母の相棒ウィズだ。ウィズは足に手紙を括り付けていて、宛名に名前の名が記されていた。シドが名前がここに来ていることを知らせてくれたのだろう。

「―――ハンマーヘッドで向かいなさい?え、それだけ??」

手紙を読み終わるなり、勢いよく飛び立つウィズを見送りながら、その手紙をジャケットの内側にしまい込んだ。
相変わらず、あの母は用件しかない手紙を書く人だ。ひとまず、ハンマーヘッドにまた用事が出来た事を彼らに伝え、ここで別れるのがベストだろう。何しろ、彼らは王子ご一行で、これからいろんな問題と直面するだろうし、自分がいては、足手まといになってしまう。

「……インソムニア、旅行楽しみにしてたのにな…」

なのに壊されちゃうなんて、帝国は本当に許せない。今度あの男に出会ったら、一発殴ってやらなければ気が済まない。名前はそう心に決めた。
宿に戻るなり、イグニスたちがこれからインソムニアへ向かう事を教えてくれた。インソムニアが今立ち入ることができる状態なのかは不明だが、名前も気になっていたので迷惑承知で彼らに同行することにした。
車内には、どんよりと重たい空気が漂っていて誰もが暗い表情を浮かべている。5人はインソムニアまでの入口には近づけたが、帝国の魔導兵がうようよといたので結局中へ入る事は出来なかった。
そして、ノクトの携帯にコルという人物から電話が入り、ひとまずハンマーヘッドへ戻る事となった。レギス陛下は騙されたわけではなく、城で戦争をしていたのだと語るシドに名前は悲し気な表情を浮かべる。自分は庶民だが、庶民なりにルシスの王様には感謝をしていたつもりだ。

「風邪引いちゃうよ、名前」
「シドニー……ありがと」

雨で濡れた名前の肩にブランケットをかけてくれたシドニーに微笑む。

「そうだ…お母さんがハンマーヘッドに行けって手紙寄越してきたんだけど、お母さん、またどこかに行っちゃったの?」
「え?ヴィクトリアさんならコルっていう人と一緒にここを出て行ったばかりだよ、そうそう伝言、ハンターの野営地に来いってヴィクトリアさん言ってたよ」
「また移動かぁ……ほんと、お母さんって落ち着きない人だよなぁ」
「それだけ忙しいんだよ」

それにしても、ここ数日でこんなにも振り回されたのは初めての事だ。荷物を届けるのにここまで時間がかかるとは思いもしなかった。
しばらくして、シドと会話を終えたノクト達はアイテムをいくつか補充し、レガリアに戻ってきた。名前はこの後、移動方法をどうしようかと考えていたが車内へ手招きするプロンプトに甘えることにした。

「また同じ目的地だなんて、すごい偶然もあるものだね」
「はは、確かに。まさかお前の母親とコルが一緒にいるとは予想してなかったわ」
「なんだかシドさんとも知り合いだし、名前のお母さんって本当に顔が広いんだねぇ」

ノクト達はハンター野営の近くにある王の墓所にいるらしいコル将軍に用事があるらしく、それまで名前も同行することになった。彼らとの旅も、ここまでだろう。そろそろちゃんと一人旅をしなくては。一緒にいて間もないが、友達みたいに接してくれる彼らと別れる事に対して、名前は寂しさを感じていた。彼らと一緒に旅が出来たら、楽しそうだ。しかし、彼らには、ノクトにはルナフレーナ様と婚姻を結ぶという大切な使命がある。一般人は、ここらで退散しなくては。
日が暮れた頃、野営地にたどり着いた一行はレガリアを道端に停め、車から降りる。すると、聞きなれたあの人の声が聞こえ名前は声のする方へと走った。

「お母さん!」

すらりと伸びた足に、きりっとした目元に美しいプラチナロンドをなびかせて現れたのは、名前の母、ヴィクトリアだった。プロンプトはヴィクトリアを見つけるなり突然口説き始めるし、近くにいてなんだかとても恥ずかしかった。

「初めまして、わたしはヴィクトリア。貴方がノクティス王子ですね、あの人から話は伺っています」
「おう」
「向こうでモニカが貴方方をお待ちですよ」
「モニカか…!」

と、声を上げるのはグラディオ。彼女が生きていたことに対して、とても安心した様子だ。ノクト達がモニカと話をしている間、名前はヴィクトリアの隣に腰を下ろし、ジンジャーティーを飲んでいた。勿論、お使いの品はばっちり渡してある。

「…お母さん、どうしたの?」
「……王都があんなことになってしまうなんてねぇ、感傷に浸ってるのよ」
「そうだよね……私もびっくりしちゃった」
「実はね、わたしの友達って、結構王都にいたんだよね……好きだった人も、王都にいたの……」

母に好きな人がいた事なんて、初耳だ。名前はジンジャーティーからヴィクトリアへ視線を移動させる。

「王の盾だったのよね、その人……王の盾で生きている人たちは、ここに来ている筈だから、その人の姿が無かったって事はそういう事なのよね」
「……もしかしたら、向かってる途中なのかも!」
「シガイ、は、わかるわよね……あれの、とんでもない大きさのやつが王都を襲撃したらしいわ」
「……」

シガイ、この世界を蝕む謎の魔物たち。彼らは夜現れ、生き物を襲うので夜間の外出はとても危険なのだ。ヴィクトリアはハンターで奴らの討伐をよく受けているので、奴らの恐ろしさをよくわかっていた。

「名前、貴女は、何が起きても絶対に生き抜きなさい」
「うん…」
「未来で生きるためにね」
「……未来、かぁ」

このままでは、どんな未来が待っているのだろうか。遠いようで、近い未来。名前は大きな決断を迫られる事となる。

Published in星のこども