<チョ・コ・ボ>
自分の認識が甘かったなぁ。じんじんと痛む腕をさすりながら、はぁとため息を漏らす。
戦いは順調だった。魔導兵との戦いの初陣にしては、それなりに応戦できた名前ではあったが、最後の最後に魔導兵からの攻撃を受け、腕を負傷してしまった。元々後方支援で加わっていたのもあるが、近距離で戦うのはやはり苦手だ。狩りの時も、遠くから敵の急所を狙っていたので自身へのダメージは少なかったが、魔導兵との戦いでは、どうしても近距離戦になってしまう事は多々ある。それは仕方のない事ではあるが、自分自身の苦手な分野に改めて気づかされ、今後は慎重に動かなければ、と学んだ名前はそれから戦う度に、より安全な後方支援の方法をイグニスに教えて貰うようになった。
「魔導アーマー怖い…」
「俺もそれ同じ…」
「おいお前ら、いつまでそこに座り込んでやがる、さっさと行くぞ」
グラディオたちと合流した後、広い場所に移動したとき最後に現れた魔導アーマーとの戦いはとても辛かった。弓は効果が無いし、短剣で攻撃しても硬いので地道なダメージしか与えることができない。その分、グラディオやノクトが奮闘してくれたお蔭でなんとか勝てたが、できればもう二度と戦いたくない相手だ。
後方支援組のプロンプトと名前は、ぜぇ、はぁと息を切らしながら地面に寝ころんでいたが、グラディオに無理やり起こされ渋々レガリオへ戻る。
コル将軍たちとは別れ、一行は湿地帯が有名なダスカ地方へ向かう。砂埃から解放され、車から覗く風景が次第に緑に変わった頃、不思議な山が見えてきた。
「あの山って、確かメテオだっけ?」
「六神伝説の、か」
イオスの人ならば、誰もが知っている神話だ。大昔の隕石メテオの下には、巨神が眠っているらしい。何故、巨神は隕石を背負っているのか。昔から気になってはいたが、どの本にもその答えは載っていなかった。
「すごいよねぇ、大昔の隕石なんて」
「その下には巨神がいるんだっけか」
「この先を更に行くとクレイン地方だ、レスタルムの街がある」
「イリスが避難するって言ってたとこ?」
「イリスってグラディオの妹さんだっけ?」
「あぁ、お前と同い年の妹だ、だが、お前よりは大きいけどな」
身長の事は結構気にしているお年頃の乙女なのに。名前は小さくむくれる。若干不機嫌な名前を乗せたレガリアはひとまず燃料を補給する為ガソリンスタンドへ到着した。車から降りてすぐ、ノクトの携帯がプルプルと音を立てて誰かからの着信を知らせる。
ノクトの携帯に電話をかけてきたのは、グラディオの妹であるイリスだった。イリスは王都から何とか逃げ延び、レスタルムの街にいてこれから合流する予定である。
「イリスか、まったく、兄貴にかけねぇで」
「王子の声も聞きたかったんだろう、心配していたはずだ」
「ねえねえ、イリスちゃんってどんな子なの?お友達になれるかなぁ~~っ」
「お前たち気が合いそうな気がするから、大丈夫だろ」
「お兄さんにそう言っていただけるのなら間違いないね!会うの楽しみ~!」
名前は子供の時から、周りにいた知り合いはハンターばかりだったで年の近い友達がいなかった。イリスと友達になれれば、名前にとって人生で初めての同い年の友達となる。
ガソリンを入れ、イグニスが車を拭いている間名前はこれから出会うイリスという少女に想いを馳せ、鼻歌を歌いながら拠点をうろちょろとしていたが、とある看板が目に留まった。
「チョコボ…!ねえねえプロンプト!チョコボ!チョコボ興味ない!?」
「あるある、すっげーある!!」
お互い、にやりと笑うとレガリアに寄りかかっているノクトに突撃する。
昔からチョコボは大好きだ。ともかく、あのふわふわの羽に顔を埋めるのがたまらない。顔を埋めると若干ギザール臭がするのも愛くるしい。二人は、どうしてもチョコボポストに行きたくて仕方のない様子でノクトに頼みこんだ。
「ねぇ、あの看板見た?」
「チョコボだって!!!見たくない!?すんごく見たくない!?」
すると、グラディオが待ったをかける。
「おいおい、レスタルムは後回しか?」
「まだ先じゃん、ちょっとだけ寄ろうよ」
「そうだよ、寄ろうよ!ギザールチップス買わなきゃ~~~っ」
「あ、もしかして名前は行った事がある系??」
「あるよ~~~もちろん!でも、5歳の時に1回だけしか行った事が無いから、10年ぶりになるかなぁ?」
「名前、行く前提で話を進めるな」
「だってイグニス、チョコボだよ??もしレガリアで移動できない場所があったら、すんごい便利だよ!野獣からも逃げられるし!」
「―――ノクト次第だな」
この旅の主役はノクトなので、ノクトに判断が委ねられた。プロンプトと名前に挟まれたノクトは少し悩んでいた様子だが、別に問題はないだろうという考えにたどり着き、一行はチョコボに会うべくチョコボポスト・ウイズに向かう事となった。ここからチョコボポスト・ウイズまでは車で15分程だ。あまりの楽しさに車内でプロンプトと名前はチョコボの歌を歌っていたが、イグニスに煩いと言われ渋々黙る事となった。
「おぉ、きたきた!」
「チョ・コ・ボ!!!」
「本当にチョコボ好きなんだな、あいつら」
「つーか、いつの間にかにいねぇし」
「…はぁ」
ノクト達がまだレガリアから降りたばかりの頃、プロンプトと名前は既にチョコボに会うべくチョコボポスト・ウイズに足を踏み入れていた。が、来てみて衝撃の事実を知らされる。
「え、えええっそんなぁ…」
「どうしたんだ、名前」
「あのねノクト、どうやらこのあたりにベヒーモス…通称スモークアイが出没してるから、安全の為にチョコボを貸し出してないんだってさ………あ、はいはいおじさん!スモークアイ倒したらチョコボと会える!?」
「倒すって、君がかい?」
「そうそう、私こう見えてハンターなんです」
「駆け出しだろ、しかもついこの間家を出たばかりの」
「煩いなぁノクト」
ここまでの旅で、資金を集める関係でそこそこ野獣討伐の依頼は受けてきた。それを知っているのか、ここのオーナーであるウイズが討伐の依頼を頼んできた。もちろん報酬は弾むよ、というウイズの言葉が決め手となり5人はスモークアイの討伐へ向かった。ベヒーモスと言えば、凶暴な野獣でヴィクトリアも手を焼く程。獣の唸り声のようなものが聞こえてきた方角へ進むと、巨大な野獣が姿を現した。彼らはとても凶暴ではあるが、鼻は良くない。それに、今近くを歩いているスモークアイは片方の角が折れており、片目の視力が無い様子なのでうまくいけば、死角を突くことができるだろう。戦う前までは、順調に戦えるだろう、誰もがそう信じていた。
「―――外、真っ暗だね…」
「……はぁ…終わった…」
戦いが終わり、ノクトの魔力が込められたポーションを飲みながら5人は生きている事に心底ほっとした。戦い慣れてきたとは言え、そう簡単に倒せる相手ではなかった。ヴィクトリアですら手を焼く相手なのだから、むしろこの戦いで生き残れたことが奇跡に近い。魔導兵とは違う恐ろしさがベヒーモスにはあった。
「流石に強かったな…」
「ちょっとやばかったよね…」
「夜はシガイが現れるから危険だ、早く戻ろう」
戦いが終わった頃には、日も暮れ、辺りは暗闇に包まれていた。イグニスの言う通り、夜はシガイという強い敵が現れるので、人のいる街や村などにいたほうがいい。
「ギザールチップ、早く食べたいなぁ」
明かりが見えた頃、空腹のあまり名前がギザールチップの事を呟くと、面白いほどにイグニスが食いついてきた。
「…ギザールの野菜のチップか、それは美味しいものなのか」
「うーん、珍味ってお母さんは言うけど、どうだろ…好みが別れる可能性が高いかな…でもね、うんと栄養が高いんだよ!」
「ほう…」
「おいイグニス、まさか料理に入れようとはしてないだろうな」
「少し興味があってな…栄養価が高いのならば尚更…」
食材に目が無いイグニスがギザールのチップの魅力に気が付いてくれて、本当にうれしい名前はチョコボポスト・ウイズに戻ってくるなり彼の腕を引っ張り、店へ走って行ってしまう。
それを見送るノクトは、その食材が夕飯に使用されない事を祈るばかりだった。