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星のこども/06

<きな臭い男>

モービルキャビンで一泊した朝、名前は誰よりも早起きし、そしてレスタルムへ出発するまで存分にチョコボと触れ合い楽しんだ。あまりにもチョコボをさわりすぎたのか、車内でノクトにチョコボ臭いと言われてしまった。折角同い年の子と会うのだから、とレスタルムに到着するなり1人市場へ走り出す。目的はコロンを買う為だったが、この時、あの人物とまた出会う事になるとは思ってもいなかった。
初めてのレスタルムで、初めてのレスタルムでの買い物をするために名前は市場へ来ていた。ノクト達はまぁ、彼らもどこかうろうろしているだろうしとりあえず自由行動をしておこう。名前はスモークアイの討伐で潤った財布を取り出し、店主へギルを渡す。
ようやく手に入れたコロンをささっと吹きかけた時、腹がぐぅと鳴った。なんでこのタイミングで腹が鳴るのか。目の前の店主にこの音を聞かれてしまったことに対し、名前は顔を真っ赤にさせると、店主が向こうの店で美味しい肉料理が食べられるよ、と教えて貰い恥ずかしさを感じつつも美味しい肉料理を目指し小走りで向かった。

「…おいしい~~~」
「君、さっきから見ているけど本当に美味しそうに食べるねぇ」
「あはは…お恥ずかしい……ん、ダレ…」

串を頬張っている時、突然男が名前の前の席に腰を下ろし話しかけてきた。よく見ると、その男には見覚えがあった。確か、ガーディナでダル絡みしてきた男だ。

「―――なんでここにいるんですか」
「すごい偶然だと思わない?ちょっと旅行に来たんだけどさ、一緒に回ろうよ」
「いいえ結構デス」

本当に胡散臭い男だと思う。もしかすると、今とても危険な状況なのかもしれない。逃げようと席を立つが、逃げられないよう肩をがっしりと捕まれ連行されるかのように強制的に街を連れまわされる羽目となってしまった。
…生きた心地がしない。なんで、こういう日に限ってプロンプトたちとすれ違わないのだろうか。いや、もしかしたらこの男が意図的にそうしているのかもしれない。この男の目的は、ノクトの監視……なのだろうと思っていたが、まさか本当に母のファンなのだろうか……。名前の心は不安で揺れる。
不安な名前をよそに、この胡散臭い男は随分と楽し気な様子で名前を連れまわしていた。

「そういえば、君のお母さん、ハンターなんでしょ?」
「……どうしてそれを知っているの」
「俺さぁ、ハンターに知り合い多くてね」
「―――おじさん、何なんですか」
「おじさん?やだなぁ、その響き…そうだ、パパって呼んでよ」
「―――絶対嫌」
「同じ赤毛仲間だし」
「…それとその呼び方の関係性は無いと思いますけど」
「こうして並んで歩いていると、親子みたいだよねえ」
「赤の他人ですけど…」

しかも犯罪です。とは言えなかったが、名前は精いっぱいこの胡散臭い男を睨みつけた。しかし、痛くも痒くもないこの胡散臭い男は、にたりと笑うだけ。
この人物には敵わないような気がする。おまけに、苦手な分野ともいえる。

「そういえば、コロンなんてつけてたっけ?」
「っわ」

突然顔が近づいてきたかと思えば、首元をくんと匂いを嗅がれる。これはもしかするとただの変態なのかもしれない。ストーカーされているのかもしれない。そう思わせる程、この胡散臭い男のスキンシップは激しかった。

「……ダメだなぁ、こんなんじゃ変な虫がついちゃうよ」
「貴方みたいな虫が、ですか?」
「俺が虫?―――へぇ、面白いねぇ、やっぱり君の事好きだなぁ」

別に褒めたつもりじゃなかったのに。どうしてこうも裏目に出てしまうのだろうか。名前は冷や汗を滲ませながら早くノクト達と合流したい一心でレスタルムの街を進む。
こんな恐怖を感じながらの観光なんて、もう二度と味わいたくない。胡散臭い男は相変わらず名前は名乗らずパパと呼べだの何だのと会話が成立しない上に、握力がすごいのかその男の腕から逃れることができずにいた。

「おじさんは、暇なんですか?」
「何しろ時間がたっぷりあるからね、あ、またおじさんって呼んだね…パパだって言ってるのに」
「…私は忙しいんですけど」

ここまでパパ呼びを押してくると、もはや諦めの境地になる。

「そりゃそうだろうねぇ……だから君を誘ったんだ」
「はぁ、会話が成り立たない」
「息抜きも大切だよ」

こんなにも息の抜けない状況を作っておいて、どの口がそんなことを言っているんだ。若干苛立ちを感じたが、この男に口で勝てる自信がなかったので名前は言おうとした言葉を胃袋に押し込んだ。

「どうして旅に出たの」
「…別にいいじゃないですか」
「お家にいればよかったのに」
「それ、どういう意味ですか」
「家は安全だよ?安全な場所からわざわざ出てしまうなんてさ……」
「だから何だっていうんですか」
「君を心配しているんだよ」
「心配ご無用です、それなりに強くなったので」
「本当に強いのかな?」
「―――もう、本当にしつこいですね、叫びますよ」
「叫べばいいんじゃない?そしたら、ナイト様が助けに来てくれるかもよ?」

もうこれ以上は危険だ。名前は本気で叫ぶつもりで口を開いたが、音が出ない自分の喉に驚く。声を出しているつもりなのに、どうして。と、胡散臭い男を見上げるとにやりと不敵な笑みを浮かべオリヴィアを見下ろしていた。

「声が出ないでしょ?そりゃそうだよ、俺がそうしてるんだから、だから黙って着いておいで…別に取って食おうとしてる訳じゃないんだからさあ」

底知れぬ恐怖を感じた。一体どんな力を使って声を出せないようにしたのか。もしかしたら、恐怖のあまり声が出ないのかもしれない。
それから、名前はなんとか声が出せるようになったが、恐怖からか叫ぶようなことはせず胡散臭い男に肩を掴まれながらレスタルムの街を散策した。

Published in星のこども