Skip to content

星のこども/09

<アーデンという男>

午後、ポーション類の買い出しを終えた名前は、レガリアにそれを積み込むべく展望台公園に来ていた。そういえば、あの双眼鏡でまだ外を覗いたことが無かったことを思い出した名前は、レガリアに鞄を置き小走りで双眼鏡の元に走る。

「うわぁ…広いなぁ…いい眺め…」
「でしょ?俺もそう思う」
「ほんとにキレイですね~~~……ん?」

このパターンは、覚えがある。双眼鏡を持っていた手の上に、ひんやりとした誰かの手が覆いかぶさっているのを感じた。

「……貴方はもしや…」
「そう、あたり」

すると、ぐいと強い力で男の方へ体を向かされ、強制的に見つめ合う状態になってしまった。両手首は捕まれ、自由に動けない状況。そして不敵な笑みを浮かべる例の男。最悪の状況に悲鳴すら出せずにいる名前。

「やぁ、元気だった?」
「……ハナシテクダサイ」
「髪の毛ぼさぼさだけど、寝坊でもしたの?」
「―――そ、それは」

昨日、髪を乾かさず寝たお蔭で髪の毛がいつもよりも爆発した状態になっている。名前は色々と恥ずかしくて顔を真っ赤にさせ、男はその光景を楽しそうに眺めていた。

「じゃぁ、またね」

男が笑った後、ようやく腕を離してくれたので名前は逃げるようにレガリアに乗り込んだ。早くイグニスたちが戻ってくることを祈りながら待っていたが、いつの間にかに眠ってしまったようで、気が付けばレガリアは移動している最中だった。

「―――え、あの人についていくの!?」
「……正直、関わりたくはないが…」
「でも、カーテスの大皿に入れないからね」

名前がレガリアで寝こけていた間、展望台公園にいた胡散臭い男の名は長いので略してアーデン、と呼んでほしいと言われたそうだ。ノクト達を待ち構えていたかのように、カーテスの大皿に案内をしてくれると言い出したアーデンに、イグニスとグラディオは警戒していた。やけに神話に詳しい様子で、隕石の下で王様を呼んでいる、と意味深な事も言っていたそうだ。

「こわ…」
「名前、君は奴をどう思う」
「―――絶対裏でやばい事考えてる変態おじさん」
「…ま、そうだろうな…お前またあいつに絡まれたんだろ」
「えっ、どうしてわかったの!?」
「……お前あいつに好かれてるな」
「うぅうう…言わないでよ…気にしてるんだからさ…」
「何か聞かれたか」
「……ううん、とくには」
「そうか…何か聞かれたら、気を付けろ」
「うん、気を付ける」

空が赤くなった頃、突然アーデンが車を止め今日はこの辺にしようと言い出した。そろそろ休もう、という話は車内で出ていたが、それはアーデンがいない前提での話だ。

「おい、目的地はどうなったんだ?」
「焦らなくても逃げないよ」

一足先に車から降り、アーデンは意味深な笑みを浮かべながらカーテスの大皿を指さした。

「そういう答えは聞いていない」
「これさ、6人で旅行状態だよね」
「ないわ」

一体、何を考えているやら。ここで今日は休む、という事は近くの標でテントを張る必要があるだろう。

「ひとまず、テントをたてるか」

グラディオの声に反応をした名前は、車内にあるテントを取りに行こうと動いたが突然アーデンが名前の肩に手を置き、まったをかけた。

「いや悪いけどオレ、外大嫌いなんだわ。カネはオレが出すからあっちのモービル・キャビンで休もう、ね?」

本当に外が嫌いなのだろう。まぁ、身形からして外でキャンプをしそうな男には到底思えなかったがここまで露骨だとむしろキャンプしてやりたくなるものだ。しかし、この男がいなければカーテスの大皿に入る事が出来ない。ここはおとなしくいう事を聞くほかないのだろう。

「おいお前、名前がビビってんだろ、それ、やめろよな」
「おっとごめんよ、別に苛めている訳じゃないんだ…ただ、君の事がすんごく気になるだけでね」
「それをやめろっつってんだろ」
「おやおや、怖いお兄さんたちだ」

ただの変な中年、にしては裏がある気配がぷんぷんとする。グラディオは名前をそっと背に隠し、アーデンから離れるよう庇ってくれたので妙な接触は少なくて済んだ。イグニスの料理を手伝っていると、じっとりとした視線を感じたのでその方角を見ないよう気を付けなくてはならず、落ち着いて料理もできないこの空間が名前にとっては苦痛で仕方ならなかった。早くカーテスの大皿に行きたい。この男と一緒にいる事が拷問に等しい。

「……イグニス、どうしてだと思う」
「…思い当たる節は見つかったか」
「いや、全然…」
「……正直、俺も関わりたくないんだ、あいつとは」
「イグニスが嫌がるって相当だよね……やっぱりやばいおじさんだよね、あの人」
「それは間違いないだろう」

ギザールの野菜の根は下茹でをしなければとても苦くて食べられたものではない。名前は今日の夕食に出す野菜スープで、アーデンの皿だけ半生のギザールの野菜の根を入れてやった。半生でも苦くて舌がピリピリする程だ。

「苦しむがいい…!」
「どうした、何かするつもりか」
「まぁね…」
「慎重に動けよ、奴は……相当なやり手だ、自分から仕掛けておいて、ドジするような真似はするなよ」
「ふっふっふ、大丈夫よ…」

この時、名前はイグニスの忠告をちゃんと聞いておくべきだったと後悔する事となる。

Published in星のこども