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星のこども/10

<誓約>

どうして、こんなことに。げほ、げほと咽ているとぬっと横から現れたアーデンが名前の背をやさしくさすった。

「ほら、慌てて食べるからそういう事になるんだよ?」
「げほっ……ぅ…げほっ」

口の周りについてしまったスープをささっと拭うその姿は、まるで親のようだ。名前はかというと、あまりの苦さに咽続けている為アーデンのされるがままになってしまっている。事の発端は今から1時間前にさかのぼる。名前が夕食の手伝いをしている時、アーデンの皿にだけギザールの野菜の根を半生の状態で入れたことがすべての元凶。イグニスには、ドジを踏まないようにと忠告されていたが、やはり、大人のいう事は素直に聞かなくては。名前はゲホ、と苦しげに咽ながら1時間前の自分を恨んだ。

「風呂に入って来いよ」
「あ、そうだね名前、服も濡れちゃったしさ!」
「う、うん…」

服はハンター用なので干せばすぐに乾くようになっている。フォローをしてくれたノクトとプロンクトに内心ありがとう、と感謝を述べつつ名前はモービル・キャビンに退散した。

「……ムキ~~~っ、無理だ、勝てない…」

スープを運ぶまでは順調だった。確かに、アーデンの席にスープを置いたはずだったのだが……。一体、いつの間にすり替えられていたのだろう。思い出しても思い当たる瞬間は一度も無かった。
なるべくアーデンと鉢合わせにならないよう眺めにシャワーを浴びた名前だったが、お蔭で指先がふにゃふにゃにふやけてしまった。ノクトがシャワーを浴びている間、名前は長い髪をドライヤーで乾かすために洗面所にやってきたが、面倒なことにあの男が後ろに立っていた。

「本当にもうやめてください」
「何だい、後ろに立ってるだけだろう」
「…それが嫌なんですよね…」
「じゃぁ隣にいればいいの?」
「それも嫌です、あー、グラディオさん!?グラディオさんどこですか!?」

またまた、絶妙なタイミングでグラディオたちがいないときに接近してきたアーデンという男。ノクト、頼むから早くシャワーから上がってきて。半泣きになりながら鏡に映るアーデンを睨みつけながら名前はドライヤーをかけ続ける。なるべくこの男の声が聞こえないよう、強のスイッチを押した。

「三つ編みにすればいいのに」
「折角乾かしたのにやめてください」
「似合うと思うよ~、三つ編み、君のお母さんもそうだったし」
「は?うちのお母さんは三つ編みなんかしません」
「おや、そうだった?まぁいっか、好みは人それぞれだもんねぇ」

まだ髪は半乾きだったが、一刻も早くこの状態を脱したかったので、名前はドライヤーを乱暴に置きすぐさま他の仲間たちがいるであろう部屋に戻る。戻ると、丁度ノクトがシャワーを浴び終えた様子でタオルで頭を拭いている所だった。

「ノクト、シャワー遅すぎだよ!」
「は?なんだよ突然、お前の方が長かっただろうが…」
「も~~~大変だったんだから、ドライヤーで髪の毛乾かしてたらあいつが後ろにいて!」
「髪乾かさなきゃいいだろうが…」
「女の子にそんな事言っちゃうわけ!?」
「おい、何イライラしてるんだ?」

馬鹿、アホと叫び名前は布団に潜り込み、ベッドのカーテンをぴしゃりと閉めた。ノクトは訳が分からず、名前に投げつけられたタオルをとりあえずかごにいれる。
朝になり、ようやくカーテスの大皿へ向かうこととなった一行は、例のごとくアーデンの案内の元、レガリアを走らせた。
カーテスの大皿ではまだメテオが燃えているのでかなり暑いと予想される。イグニスはカメラの心配をしてくれたが、プロンプトはカメラを一緒に持って行くと決めたようだ。

「カメラより自分の眼鏡心配しなよ、変形しちゃうかもよ」
「その点は心配ご無用だ、何しろ王都製だからな」
「あっそ…」
「それに、替えは持っている」
「…持ってたんだ」

そういえば、戦闘時にイグニスの眼鏡が壊れているのを見たことが無かった。興味本位で聞いてみたが、イグニスらしい答えになぁんだ、とつまらなさそうに名前は呟く。
視力はそこまで悪くはないらしいが、はっきり見えないと嫌な性分らしく、実にイグニスらしい。そこもきっちりしているんだなぁ、とプロンプトが関心する。

「ねえイグニス、運転席以外の気分はどう?」
「恐ろしい」

イグニスの面白い回答に、名前はぷっと吹き出す。

「恐ろしいのかよ」
「昔の王子の運転を知っている身としてはな」
「そりゃどーも」
「本でも読んでろ、気がまぎれるぞ」

そうか、だからグラディオはノクトが運転をしている時には必ず本を読んでいるのか。小さな謎が解け、成程、と呟いた時車が止まった。

「着いたよ」
「嘘じゃねぇだろうな」
「俺がいつ嘘をついたかな…」
「基本嘘っぽいっていうか」
「まぁ、信用ならねぇな」

ご尤もです。うん、うんとオーバーに頷く。

「おーい、俺だよ俺、ここあけて」

入口に向かって声をかけるアーデン。すると、門が音を立てて開いた。

「ほら、いっしょに来てよかったでしょ?こう見えて俺、顔が広いんだよね、神様はこの先にいらっしゃるよ」

顔が広いというか、帝国関係者なのでは。名前は離れていくアーデンの車を横目に、はぁとため息を吐く。
どうやら、あの男は本当にここまでのようだ。このままずっとついてきたらどうしよう、と内心心配していた名前は、あの男がいなくなったことに心底ほっとした。
具合が悪い、と言えば悪い。多分、昨日あまり髪を乾かせなかったからだろう。身体のふらつきはレスタルムにいた時から変わらず、身体も若干熱っぽい。ノクト達がレガリアを降り、名前は言われた通りレガリアで留守番することとなった。

「暇だなぁ……それに、なんだか頭痛いし……風邪悪化したかなぁ…」

恐らく野獣と戦う事となるノクト達には申し訳ないが、少し眠らせて貰おう。名前は後部座席でごろりと横になると、あっという間に深い眠りにつく。
これから起こるであろう恐怖を知らず、名前はすうすうと安らかな寝息を立てた。

Published in星のこども