Skip to content

星のこども/13

<予感>

レスタルムに戻ると、悲しい知らせが入る。グラディオの家であるアミティシア家に仕えているジャレッドが、帝国の軍人に切り殺されたようだ。堪えながら涙を零すタルコットの頭を、昔母がそうしてくれたようにやさしく撫でる。
結局元々着ていた服は戻らず、服を買う時間も無かったのでコカトリスのジャケットを羽織り、足元もレガリアに置いていたブーツに履き替えた。オルティシエへ向かう為に、カエムの港で船に乗り換える必要がある。ちなみに、今カエムの港にはシドとシドニーが来ているようで、船の整備をしてくれているようだ。

「名前、色々と聞きたいことがあるんだが…平気か」
「うん、大丈夫だよイグニス」

十分に寝たしね。へへ、と小さく笑うとイグニスは隣の部屋に名前を手招きした。

「…あの男は何か言っていたか?」
「あ、うん…」

なるべく思い出したくはなかったが、あの男が何の目的で付き纏ってくるのか原因がわかるかもしれない。それに、情報を共有しておいて損はないだろう。名前は基地での出来事を思い出しながら、言葉を続ける。

「お母さんの事を気にかけてた…それに、私たちが王様のお墓へ行った事も知ってた…」
「―――カーテスの大皿といい、あの男からは嫌なものを感じる、名前、ヴィクトリアさんは今どちらにいる」
「わからない…お母さんは強いから、もしもの事は無いと思うけれども…じいじなら知ってるかもしれない」
「そうだな、ひとまず、カエムの港に着いたらシドに聞いてみよう」
「うん」

それと、一つ気になる事が。名前は言葉を続ける。

「もしかして、アーデンとレイヴスって、仲が悪い?」
「…そう感じたか」
「うん、多分だけど…レイヴスは、私が何故アーデンに匿われているのか探りを入れてたから……もしかして、あの二人、敵対しているのかも…」
「それは重要な情報だ…もしそれが事実だとしたら、これからの動き方も考えなくてはならないな」

もし、アーデンとレイヴスは敵対をしていて、どちらかがノクトの味方だったら。完全に味方ではないだろうが、肩を持ってくれるとしたら。それを考え、名前は小さく唸り声をあげる。

「うーん、あのおじさん、本当に何が目的なのかしら」
「…だから恐ろしいんだ」
「変なところで助けてくれたりするんだよね…あのおじさん…」
「それは名前限定じゃないか」
「ええ、そうかな…だとしたらすごく嫌…」
「あの男と、知り合いだった、という訳でもないんだろう」
「うん、あんな人、旅に出るまで見たことも無かったから…」
「ヴィクトリアさんの事を気にかけている理由は一体何なのだろうな」
「―――うん、お母さんのファンにも見えないし…なんとなくだけど、家族の話はあまり好きじゃないみたいだったよ」
「家族の話か」
「ちょっとね、そういうタイミングが出来て聞いてみたの…そしたら、ちょっと怖くなったからさ……」

両親の話になり、途端に声のトーンが低くなったのを思い出す。
そして、急に母の身が心配になった。

「…お母さんに会いたいなぁ」
「明日、カエムに向かおう、そこで話を聞けばいい」
「うん、そだね」

それから、名前はイグニスたちが何をしていたのか話を聞いた。話によると、名前がアーデンに捕まっている時、ノクト達は雷神の力を手に入れていたようだ。あとは、とりあえず水神の力を手に入れるために、そしてそこで待つルナフレーナ様に会うためにオルティシエへ向かうだけだ。

「とりあえず、今日はもう休むといい、ずっと気を張っていたんだからな」
「ありがと、うーん、じゃあ、そうしようかな…」

ベッドに倒れるだけで、無限に眠れるような気がする。イグニスのお言葉に甘えて、名前は再び深い眠りについた。
朝になり、一行はカエムへ向かうべくレガリアに乗り込む。が、今回イリスも乗車することとなっているので後部座席はぎゅうぎゅう詰めだ。ノクト、名前、イリス、グラディオの4人が詰まった後部座席は少しも身動きの取れる空間はない。あまりにも窮屈だったので時おり休憩しては進んで、を繰り返していたが、その時、上空を飛行する帝国の巨大な飛行基地を発見しノクト、イグニス、グラディオ、プロンプトの4人はジャレッドの復讐の為にも帝国の基地へ向かっていった。イリスは勿論留守番、そして名前は念のため留守番となった。

「そういえば、イリスは王都で暮らしてたんだよね?」
「そうだよ~、名前は外にいたんだっけ?」
「うん、生まれも育ちもずーっと外!だから、王都に憧れてたんだ…本当はこの旅ね、私の一人旅兼観光旅行だったんだ…野獣ハントでお金を貯めて、王都で観光旅行する予定だったの……」
「そうだったんだ…」

明るい話題へ持って行くつもりだったが、話は暗い方向へと進んでしまう。こんな時こそ、盛り上げなくてはならないというのに。しかし、最近嫌な思い出ばかりで名前の気持ちは沈んでいく。それを察してか、イリスが王都での暮らしぶりを面白可笑しく話してくれたので少しは明るくなれたが、心がずっしりと重たく、気を緩めば闇に足を掬われそうになる。
風邪は治ったようで頭痛も気怠さも無くなったが、基地に連れて行かれた頃からすぐそばに闇の息遣いを感じるようになった。時折、何かが肩に乗っかっているような感覚になるので、名前はこの旅が落ち着いたらとりあえず除霊をしてもらおうと考えている。帝国に恨みを抱いていない人の方が少ないので、基地で悪霊を背負い込んでしまったのかもしれない。

「皆、大きなけがをしなければいいけど…」
「大丈夫よ、いざとなれば兄さんが盾になってくれるもの」
「…グラディオの盾ってすんごい頼りになるね、じゃぁ、大丈夫だね」
「そうそう、アミティシア家は、王の盾だから……」

昔からルシス王家に仕えているアミティシア家、グラディオはアミティシア家として、王の盾として王を守る者。イリスの言葉に、ふと、自分の事は一体何なのだろう、と疑問が浮かんだ。母のように強い訳でも、イグニスのように頭がいい訳でもなく、グラディオのように使命を受けている訳でもなく―――プロンプトは心の支えとして旅に同行していて……さて、自分は一体何なのだろうか。
軽い気持ちで旅に同行をし、みんなに迷惑をかけているのではないか。今までを振り返ると、そんなような気がしてならない。
名前は紅の世界で、森の奥深くから誰かの嘲笑うかのような声を聞いたような気がした。

Published in星のこども