<ミスリル>
船を直すためには、ミスリルという金属が必要となる。しかし、ミスリルはとても貴重な金属なので、探すのは本来とても時間の要する事だったが、ジャレッドの手帳にその貴重な金属の在処が記されていたお蔭で、一行は迷うことも無くその場所へ向えることとなった。しかし、その遺跡があるヴェスペル湖までの道は帝国が封鎖しているらしく、そう簡単にはいかなさそうだ。
一行は数日かけ万全な準備をし、そしてヴェルぺル湖へ向かっていった。出発する前、グラディオが一人で用事があるから、とどこかへ行ってしまったが、ノクトは特に止めもせず彼を見送った。グラディオが一時抜けた事により、戦いのフォーメーションを考えなくてはならなくなり、名前も前に出て戦わなくてはならなくなってしまった。一応、これまでの旅のおかげで近距離で戦う術を得たが、得意、という訳ではない。
「ねえ、封鎖されてる、んだよね?」
「あぁ…だけど通れたな」
「わざわざ開けて待っていたかのようだった」
封鎖線にたどり着いたが、レガリアは普通に中へ入る事が出来た。なんだか、とても嫌な予感がする。名前はぶるりと身震いした。
「なんかこういう時って、あの人出てきそう」
「案内してくれんなら別にいーけど」
「私港で留守番してればよかった…」
「何寝ぼけた事言ってるんだよ」
「そうそう、ただでさえ戦力減っちゃってるんだから、名前も頑張ってよ~」
「うう…優しさが欲しい…」
今、とてもグラディオの背中が恋しかった。
こんな状況なら、コル将軍に手助けを頼みたかったところだが、彼は王墓の捜索をハンターたちに任せている関係で、難しい討伐を受け多忙な日々を送っているらしい。働き者だなぁ、と感心する。
車がトンネル内を走る事10分、外に出たかと思いきやプロンプトと名前にとってのトラウマと言っても過言ではない、魔導アーマーとの戦いが始まった。
「……ほんとにさ……もう…硬い奴苦手…」
「今回のも硬かったね…」
ぜえ、ぜえと息切れをしながらレガリアの椅子に体を投げ出す二人。何とか戦闘を終えたが、この先これがうようよいたらどうしよう、と名前は途轍もない不安に駆られる。正直、留守番をしていればよかったと思うが、それをノクト達は許してはくれなかっただろう。
美しい景色が広がるそこは、ヴェルぺル湖だ。この近くに例の遺跡へと続く入口があるらしく、一行はレガリアを降り、ぬかるむ大地を進む。
「うわっ…転びそう…」
「転ばないようにね、その恰好で転んだら悲劇だよ」
「ほんとよね…いいもん、オルティシエに着いたら服沢山かうんだからっ」
致し方が無く、アーデンが寄越してきた黒のワンピースを着ている訳だが、この服が元々動きづらい作りになっているので、普段より足手まといになっていることは間違いないだろう。
「そういや、野獣時々倒してるけどそのために金溜めてるのか」
「モチロン!ヴィヴィアンのお財布欲しいのよね~~~」
「へ~」
質問をしておいて、あまり興味のない様子のノクトに名前はむくれる。暫く進むと、突然ざあざあと雨が降り出した。生憎、防水仕様ではない名前の服はとたんにずぶぬれとなり、ワンピースがぴったりと肌に纏わりつき気分は最悪だ。
「やあ、この先に用事?」
「現れた~」
とても嫌な声が聞こえてきた。ここに来た時点で嫌な予感はしていたが、やはり、出くわしてしまった。イグニスの言う通り、この男はノクト達を待っていたようだ。
「帝国軍がいるからいっしょに行こう」
「何」
「大丈夫、話通してあげるから」
まさか、目的も知っているのではないだろうか。名前はアーデンが近づいてきたことに気が付き、慌ててプロンプトの背中に隠れた。
「ごめんプロンプト、盾になってくれる?」
「へ?…あぁ、そういう事ね、うん、いいよ」
この男と関わって、ろくなことが起きたことが無い。なんと幸先の暗いスタートだろうか。
「はい、出発、俺からあんまり離れないほうがいいよ、帝国兵と無駄に戦いたくないでしょ?いま4人しかいないみたいだしさぁ」
この男の言う通り、周りには帝国兵が多く潜んでいるようだ。ノクト達はとりあえずアーデンの意図を確認する為にも、男の後についていくことにした。
道中、誰も口を開かず黙っていると、この様子が面白いのかクツクツと笑いながら話しかけてくる。
「あれ、静かだね」
「話すことは特にない」
「そうだ、この先は古代遺跡だけど君たちの目的はミスリル?」
「話す前にわかっちゃってるし」
もしかして、盗聴でもされているのだろうか。名前はプロンプトの背中から、ちらりと男の背を見る。
「あ、そうだ、案内してあげてもいいけど、君は俺と一緒にお茶でもしよう」
「何」
「なんでてめぇとお茶会しなきゃなんねぇんだよ」
「俺は名前をお茶会に誘ったんだよ?君らは遺跡に入ってミスリルでもなんでも探してなよ…」
どうやら、交換条件のようだ。ノクト達が遺跡でミスリルを探している間、名前はアーデンと一緒にいなくてはならない。アーデンは彼らの監視がてら、帝国のアラネア准将という女性をノクト達に同行させることにしたようだ。
この遺跡は、日があるうちは入れないらしく、ここに辿り付いた頃には日も暮れていたので待つことなくノクトは遺跡に入る事が出来た。しかし、よく考えてみれば不思議なことが起きていることに気が付いた。最近は日の入りも遅く、日が落ちるのも早い。夜が伸びている―――某生物学の博士が言っていた言葉を思い出す。
「随分と冷えてるね」
「っわ!」
この男に隙を見せてはいけないという事を、すっかり失念していた。肩を抱かれ、耳元でささやかれるとぶわりと鳥肌が立つのを感じた。肩を抱かれたまま、名前は飛空艇に乗せられ、退路を断たれてしまう。ノクト達が無事、早くミスリルを手に入れこの男から解放される事をただ祈るばかりだ。