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星のこども/17

<兄として>

どこかへ行っていたグラディオが戻ってきた。その知らせを受けたのは、レスタルムに到着して2日が過ぎてからのことだ。ミスリルを手に入れて、アラネアにレスタルムまでご丁寧に送ってもらい、その後発電所の方で騒ぎが起きてノクトがそれを手伝いに向かって……というところまでは覚えている。イグニスが言うには、突然意識を失ったらしい。流石のノクトもこれには驚いたようで、最近慌ただしかったのもあり、暫くレスタルムで休むことにしたようだ。

「最近、体調がおかしい事はないか」
「う~ん、おかしいっていうのかなぁ…すんごく寝つきが良くなった、かな」
「それむしろ良くなってるんじゃない?」
「そうかも」
「…真面目に答えろ名前」
「は、はいグラディオさん…」

正直、どこが異常なのかわからない。だた、気になる事はある。

「肩が重いんだ…それで、時々、何かの息遣いが聞こえてくる」
「それってもしかしてお化け?!」
「やだあ~~~お化け大嫌い!!!」

プロンプトと名前は互いにぎゅっと抱きしめ合う。つくづくこの二人はよく似ているな、とイグニスたちは思った。

「…それはいつから聞こえるようになったんだ」
「多分、あの滝の裏にあった洞窟に行ってからかな…」
「洞窟でシガイが話しかけてきたよね…もしかしてそれだったりして…」
「えっ、まだ子供探してるの!?それに一緒に倒したじゃない!」
「わからないよ~だってシガイだし…名前を自分の子供にするつもりなのかも」
「いやよ、シガイの子供なんて!」

あのシガイの姿を思い出すと、今でも鳥肌が立つ。悲しいシガイでもあるが、同時にとても恐ろしいと思う。

「聞こえるのは息遣いだけか」
「…あと、暗いところから、笑い声が聞こえる」
「ねぇそれ本当にやばいと思う!!!!お化けだよ絶対!!!何したのさ名前!!」
「なっ、何にもしてないよ!!!」

思い当たる節は、何もない。

「その声が聞こえたら、俺たちに声かけろよ、一緒に調べてやるからさ」
「ありがと~~~~ノクト~~~~流石は王様だ~~~~」
「お前、全然そんな事思ってないだろ」
「威厳が無いからな」
「うるせーよグラディオ」

そんなこんなで、久しぶりにゆっくりと身体を休めた一行は、ようやくオルティシエへ行くこととなった。再びぎゅうぎゅう詰めのレガリアの中で、名前とイリスはオルティシエの話題で熱くなっていると、あっという間にカエムの港に到着した。カエムの港ではシドたちが既に船の修理を終えていて、コル将軍がノクトたちの見送りにやってきていた。

「言いそびれていたことがある」

船に乗る前、突然ノクトはコル将軍に呼び止められる。

「―――何」
「すまなかった、陛下を守ることができず―――何もかもが至らなかった、俺の、力不足だ」
「……」

彼は、自身が王の盾として、王を守れなかった盾であることを悔いていた。主を失い、そして魔法の力が消え。己の無力さを知り。だから、ノクトに謝っておきたかったのだ。

「守りようのなかったってのは、わかってやってくれ」

と、シドが呟く。今のノクトには、彼の気持ちがよくわかっていた。もう、旅を始めた頃の、守られるだけの王子ではないのだから。

「…別にわかってるし」
「ただな、仲間は大事にしてやれよ」
「してるし」
「いくら結果が変わらなかったとしてもだ、抱えたもんを話してくれねぇってのは辛いものだ」

お供が護衛じゃねえってのは、そういう意味なんだ。
頼れよ、ってな。
かつて、シドはレギスの共として世界を回っていた。最後は、結局何十年も会う事も無くレギスは先に逝ってしまったからこそ、シドはあえてこの言葉をノクトに伝えたのだ。王がどれだけの責任があるのか、一般市民である名前にはよくわからなかったが、とてつもなく、大きなものを背負っているんだな、とこの時改めて感じた。
暫くは戻ってこれないだろうから、と、プロンプトの提案で集合写真を撮る事となった。素敵な1枚になったので、プロンプトに焼き増ししてもらわなくては。船に乗る直前、突然イリスが名前の手を引き、そしてぎゅっと抱きしめられる。名前もイリスを抱きしめ返し、何故か涙がこぼれてくるのを感じながら、友達の名前を呟く。

「気を付けてね」
「ありがと…イリスも、気を付けてね」
「うん」

少女二人が涙を流している中、少し離れた場所で鼻をすする男が1人いた。ノクトとプロンプトはそれを面白そうに眺めている。あえてそこに触れないイグニスの優しさをこの時グラディオは感じた。

「どうしてグラディオが泣く訳?」
「うける」
「うるせぇ、これはあれだ、心の汗だ」
「心の汗って…」
「目から汗が流れるかよ…」

何故、グラディオが涙を流すのか。それは、妹想いの兄だけが知る事。

Published in星のこども