<神に祈る気持ち>
集合場所であるマーガ、正しくはマーゴだったがそこまで行くのにかなり迷子になってしまったお蔭で随分と遅い時間に合流する事となってしまった。たどり着いた名前は謝罪しつつも、イグニスから今までここの首相とノクトが話をしていて、ある約束事を取り付けたことを教えてくれた。
「そっか、水神様ってぐらいだから、すごい事になりそうだよね…」
「俺たち3人は避難誘導を任された、名前はノクトに付いて有事の際サポートを頼む」
「まかせてっ、薬は沢山買い込んだから!」
これでいくら毒を浴びても大丈夫!と自信満々な様子の名前にノクトは苦笑する。
「そりゃ助かるわ…で、母さんには会えたのか」
「勿論、ルナフレーナ様もお元気ではないみたいだけど、無事みたいだよ」
「お元気ではない?」
「…そりゃ、そうだろうな…ルーナ一人に負担が大きすぎる」
「早く会わなくちゃ、だね」
「ああ」
オルティシエでの買い物は、水神との誓約を終えてからだろう。名前は明日に備えて普段より早く眠ることにした。例のごとく一瞬で深い眠りについた名前だが、翌朝、誰かの悲鳴で起こされた。
「―――あれ、寝不足?」
「…ううん、なんか、変な目覚め方しちゃって…」
「今日は大事な日なんだから、シャキッとしろよ」
「はあいグラディオさん、私頑張ります~」
「本当に大丈夫かよ」
美しい街並みも、水神との誓約でどうなってしまうかわからない。何事もないのが一番いいのだが、今まで何事も無かったことは一度も無い。
イグニスたちと別れた名前は、ノクトと一緒にルナフレーナ様の待つ広間へ向かった。広間には既に多くの人が彼女を待っており、彼女が現れるなり喜びの歓声があたり一面に広まっていく。
生まれて初めての、本物のルナフレーナ様に名前は息をのむ。なんだか、とても神秘的な何かを感じる。何かが彼女の周りをきらきらと囲っていて、それはとても幻想的な光景だ。そして、すぐ近くにヴィクトリアが愛剣を背中に下げ、待機していることに気が付いた。
祈るように登場した彼女は、人々にメッセージを伝える。
「世界は今、光を失いつつあります、このままでは世界は闇に覆いつくされてしまうでしょう―――闇は人の心に争いや悲しみをうむのです、ルシスで起きた悲劇、停戦協定を結べず多くの人々が命を失ったあの日の悲劇のように」
「…ルーナ」
つい、ノクトは彼女の名前を呟いた。
「でもどうか、御安心ください、わたしたちには大いなる神々のご加護があります。闇を払い星々の光を蘇らせ世界をお守りくださる神々の御力があるのです。わたしはここオルティシエに眠る荒ぶる水神リヴァイアサンの御力をお貸しいただくために参りました」
大いなる神々のご加護が、闇を払うと言うが、闇とは帝国の事だろうか。それとも、別の何かなのだろうか。
「わたしはこれから水神との対話の儀に挑みます、そして今ここにお約束します、神凪の誇りにかけ世界から闇を払い失われた光を取り戻すことを」
ありがとうございます、と言葉を述べると彼女は壇上から去っていった。一瞬、ルナフレーナ様とノクトが見つめ合っていることに気づき、名前は微笑む。そしてなぜか、名前もルナフレーナ様と目が合い、彼女から何かを感じた。
「……なんだろ、?」
「どうした?」
「わからない…ルナフレーナ様の周りで、誰かが歌ってる…いや、なんだろ…ぶつぶつしゃべってるからわからないや…」
何かが彼女の周りにはいる。人ではない、何かが。だが、不思議とそれには嫌なものは感じなかった。彼女の演説が終わると、タイミングよく帝国兵が飛空艇と共に姿を現し、広間を覆う。イグニスの連絡がノクトの携帯に入り、作戦が開始される。
「ノクト、ルナフレーナ様はあっちだと思う!」
「どうしてわかるんだ?」
「……歌が聞こえる…それに、お母さんもそっちにいる、よくわからないけど―――」
その瞬間、ドクンと身体が脈打ち、中で何かが動き出すのを感じた。
「うわ、何……苦しい…」
「おい、どうした名前ッ」
「ノクト…私は放っておいて大丈夫だから、ルナフレーナ様の所に!!早く助けに行って!」
「―――ああ、わかった、必ず後から来いよ!」
「うん、ごめんねこんな時に―――」
この時、すでに儀式が始まっていた。ルナフレーナ様は、リヴァイアサンに語り掛け、その傍らでヴィクトリアはこれからここへやってくるであろう敵兵に警戒している。
「我が名はルナフレーナ、神凪の血を引く者、水神リヴァイアサンよ、王に聖石の力を迎えるため―――どうか誓約を」
海の中から、巨大な竜が姿を現す。それこそ、水神リヴァイアサンだった。頭に鳴り響く地鳴りのような音に名前は耳をふさぐ。しかし、塞いだところで地鳴りのような音は止まず。向こう側をよく見れば、巨大な津波が街を飲み込もうとしているのが目に入る。とんでもない事になった。名前は痛む頭を抱え、先にルナフレーナ様の元へと向かっていたノクトを追いかける。
道中、魔導兵が襲い掛かってくるが、火事場の馬鹿力というやつだろう。いつもよりも早く敵を倒し突き進む。
「…街が…!!」
オルティシエの街が、とんでもない事になっている。瓦礫の飛び交う嵐の中、ちらりとノクトの姿を確認することができた。大きな声でノクトを呼ぶが、彼にはこの声が聞こえないようだ。水神は怒り荒ぶる。周りを巻き込み、次々に街をなぎ倒していく。
と、その時、何かが落ちてきた。
「―――これは…お母さんの…クレイモア…!」
母の愛剣、クレイモアで間違いないだろう。何しろ、母の愛剣には名前が子供の頃彼女に送ったお守りがつけてある。上から落ちてくるなんて妙だ。まさか、母が―――。
嫌な予感が胸をよぎり、嵐の中を駈ける。すると、ノクトが水神にたたきつけられ倒れているのが目に入った。
「ノクト!!!」
このままでは、水神の攻撃を受けただでは済まされない状況になってしまうだろう。守らなくては、と名前はがむしゃらに走る。ノクトのいる場所までは、どんなに頑張っても10分はかかるだろう。しかし、そんなに時間をかけていたら、ノクトの命がない。
「ノクト―――ッ」
神に祈るような気持ちとは、こういう事なのだろう。