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星のこども/26

<喧嘩>

雨が降る中の探索は実に大変だった。泥だらけだし、寒いし、グラディオとノクトは相変わらずだし。もう色々と文句があふれてくる。

「おい―――このまま行って、王の墓に入れんのか」
「なんだよ」
「顔向けができんのか、歴代王に―――いや、そもそもお前旅を続けられんのか」
「続けるよ―――俺が何を言ったって進まなきゃなんねーんだろ、王様は」
「ああその通りだ、だがな、わかってんなら、ちったぁしっかりしろ!」

まぁ、グラディオの気持ちは分かるが…。彼の為を思って言っているのはよくわかる。しかし、ノクトだってまだ気持ちの整理がついてないのだから。

「も~、ほんとにピリピリしてるね~、雨って嫌い…」
「ここに来てずーっと雨だもんね…」
「ほんとほんと―――うわあ!」

勢いよく転び、泥水の中にダイブする名前。なんだか泥がとても臭くて、本当に最悪だ。

「おい、無事か名前」
「無事じゃない」
「うわ、すんごい匂い…」
「……ねえ、あっちで休んでていいかな…」
「仕方がねぇ、暫く向こうで休んでろ」
「うん、グラディオありがと…」

鼻に泥水が入った為、暫く咳が止まらなかった。もしかしたら変な毒が入っているのかもしれない。木の幹に腰を下ろしたとき、突然泥水の中から全身緑色で独特の匂いを放つ野獣が現れた衝撃で地面が揺れ、お蔭様で再び尻餅をついた。痛むおしりに手を当てながら立ち上がり、現れた野獣を確認する。あれは間違いない、くさい息で有名なあのモルボルだ。ヴィクトリアからは散々あの野獣についての文句を聞かされていたのでよく覚えている。あまり攻撃が効かず、あれの気まぐれで立ち去ってくれることを祈るしかない相手だと教えられているので、名前はまさかの敵に戦慄する。

「皆―!それモルボルだから気を付けて!!くさい息を浴びたら大変なことになるよー!!」
「ならお前も加われっつーの!」
「ちょっと、さっき休んでいいって言ったじゃない!」
「撤回だ!」
「うそー!」

それからの戦いは、まさに地獄だった。グラディオは混乱するし、プロンプトは毒を浴びて倒れ、ノクトに至っては何度もフェニックスの尾を使うこととなった。最終的に、イグニスの咄嗟のアイディアのお蔭でモルボルを無事倒す事が出来た。ちなみに名前は四六時中毒消しと気付け薬を仲間に使っていたので戦いというよりはほぼサポート状態だった。
王墓の入口を見つけたが、先ほどの奴の卵がぎっしりと詰まっていて入れそうにない。ああ本当にこういうの無理、と名前は吐き気と戦いながら、王墓の入口から目を逸らす。こういう気持ち悪いものは大の苦手で、見るだけで鳥肌が立つ。ノクト達は特に何とも思っていないのか、魔法で入口を焼き中へ入っていく。

「ああ~~~イヤだ~~~絶対そこくぐりたくない…」
「じゃあそこで待ってろ、面倒だから」
「も~~~、プロンプト、グラディオが冷たいんだけど」
「あはは、こういう系、苦手?」
「苦手!」

と、その時。気持ち悪さからの鳥肌ではない、別の何かを感じて名前は静かになる。

「―――どうしたの、名前?」
「…声が…」
「声?」

声が聞こえた。王墓に来るたびに謎の心霊現象が起こるが、どうして自分だけが聞こえているのだろうか。

『星のこども…星の為、導となれ』

前までは、途切れ途切れだった声も、今でははっきりと聞こえる。いや、正直はっきり聞こえないほうがよかった。恐怖が倍増し、名前はプロンプトにしがみつく。

「怖い~~~~」
「どうしたの?」
「声が聞こえる~~~~も~~~~星のこどもって何なのよ~~~」
「何か聞こえたのか」
「ノクトは何か聞こえなかった?」

無事王の力を手に入れたノクトが戻ってきた。

「いや、別に聞こえねぇな…」
「ルシス王家の人たちに聞こえなくて、どうして私だけが聞こえるのよ~~~怖いよ~~~まだしゃべってるし~~~」

早くここを出たい。その一心で名前はプロンプトを引っ張り先を進む。偶然ではあったが、ここで名前がプロンプトを連れて一足先にここを出た事により、取り残された3人が本音を言い合い、無事いつもの3人に戻る事が出来た。駅に着くなりなんだか仲直りをしている様子の3人を見て2人が驚いたのは言うまでもない。あれだけ苦労したというのに、こうもあっさりと仲直りしてしまうなんて。男とはよくわからない生き物だ。
腹立たしいような、嬉しいような。複雑な感情のまま列車を待っていると、イグニスがプロンプトに介抱されながら名前の傍にやってきた。

「イグニス、よかったね、これでようやく安心して旅が続けられる」
「…すまなかった、名前には、色々と気を使わせてしまったな…」
「そんな事、気にすることじゃないわ、でーも、もう二度と喧嘩なんてやめて頂戴」
「…あぁ、肝に銘じておく」

嫌なことが重なると、人はネガティブになりがちだ。生きているのだから、仕方がない。いいこともあれば、悪い事もある。人生とはそういう荒波の繰り返しなのだろう。

「でも喧嘩してたのってグラディオとノクトじゃ…」

プロンプトの呟きは、闇夜に消えていった。

Published in星のこども