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星のこども/28

<星の異変>

列車の旅もいいな。イグニスの感想に、ノクトも同調する。今までレガリアでの移動だったので、列車での旅というのがとても珍しい。王都にいた時も列車なんて滅多に乗らなかったので、王都暮らしに慣れている彼らにとって列車旅とはとても新鮮なものだった。すっかり仲直りした一行は穏やかな列車旅を楽しんでいる。

「帝都についたら運転はお前か?」
「三人に聞いてみ」
「レガリアも積んでもらえてよかった、首相に感謝しなくては」
「あれも安くしてくれればな」
「ノクト、水神の騒ぎでの事なんだが…」

今まで空気が空気だったのでこの話題を出せずにいたが、落ち着いたのでイグニスはこの件をノクトに伝えることにした。ノクトは、イグニスの言葉を静かに待つ。

「帝国軍が撤退する中、妙な動きをする揚陸艇がいた…宰相の船だ、目をやられた直後―――最後に神殿のほうへ向かうのが見えた、止められなくてすまない、俺も意識を失って―――」
「生きていたんだから、それでいい」
「すまない」

共は、ただの旅の共ではない。シドの言葉を思い出し、ノクトは仲間がいる喜びをかみしめる。

「…足音が聞こえるが」
「ああ、グラディオ帰ってきたぞ、何頼んでたんだ?」
「人探しだ、気になることがあってな」
「おう、探し当てたぞ」

2人の元に、隣の車両からグラディオが小走りでやってきた。

「気になるって何だよ」
「夜の長さの事だ」
「ルシスでも噂は聞いていたが、ここ数日でも、だいぶ変わったように思う」
「ああ」

日の入りが遅くなり、日が暮れるのが早くなった。それは旅をしている時も感じてはいたが、ここ数日の変化の激しさにはこの星の異変を感じざるを得ない。夜が長くなれば、シガイとの遭遇率も高くなる。

「このまま変化が加速すれば近いうちに―――」
「1日夜って?」
「大げさだとも言えねえな」
「六神も半数がやられちまった、星や世界に影響が出てしかりだ」
「まあな」

世界の危機が、目前に迫っている。このままでは、ノクトの言う1日夜の世界がやってきてもおかしくはない。

「ここでも誰かがその件を話していたんだ、それで、俺が探しにいかされたってわけだ」
「ごくろうさん」
「行くぞ、待たしている」
「ああわかった、行ってくる」

そして、2人はその人物の元へ向かうべく、ノクトの元を離れた。2人がいなくなり、やる事も無くノクトはぼーっと外を眺めていたが、そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「―――マジでどーなんてんだ?ワケわかんねえな…」

雪雲のようなものが、ずっしりと大地を覆っている光景が目に入る。と、その時、列車内の空気が変わったのを感じた。ノクト以外の時間がまるで止まっているかのようで、今まで経験のしたことのない感覚に、ノクトは少し焦りを滲ませる。

「なんだ―――これ」

そして、ノクトがあの男と再会した頃、高熱に魘されていた名前はようやく目覚めた。気怠い身体を無理やり起こし、壁にもたれかかる。あれは夢だったのだろうか、夢にしては妙にリアルだったと思う。名前はこの列車に乗って直ぐ起きた出来事を思い出すと、吐き気のようなものを感じた。

「……夢であってほしい」

と、その時扉をノックする音が聞こえてきたので、名前は扉をゆっくりと開くと、そこには片手にミネラルウォーターのボトルを持ったプロンプトが立っていた。

「名前大丈夫?もう起きた?」
「プロンプト、おはよう」

どうやら、名前の様子を見に来たようだ。プロンプトはミネラルウォーターを名前に渡し、彼女の隣に腰を下ろす。

「よく眠れた?」
「うん、お蔭様で…急にびっくりしちゃったよね」
「そりゃあねえ、だって、名前、すんごい熱で倒れてるからさあ」
「あはは…ご心配をおかけいたしました」

受け取ったミネラルウォーターのふたを開けられずにいると、プロンプトが丁寧に開けてくれた。流石はプロンプトだ。

「…はあ、熱い…すごい疲れた…沢山寝たのにどうしてだろ…」
「どれどれ…うわ、すんごい熱…まだ寝ていたほうがいいって」

プロンプトの冷たい手のひらが心地よい。名前はプロンプトの手のひらを額に乗せ、うっとりしていると見かねたプロンプトが苦笑する。

「俺の事なんだと思ってるのさ」
「ヒエピタかな…帝国に近づいてるから、やっぱり外、寒いんだね…」
「そうかも」
「あとどれぐらいでつく?」
「そうだなあ、あと1時間は寝ていられるよ」
「じゃあ寝てようかな…実はすんごい身体がだるくて起きるのも辛いの…」
「おやすみ、名前」

と、立ち上がるプロンプトの服を掴み、名前は布団の中から彼を見上げた。

「―――心細いから、少しの間だけここに居てくれる?」
「…ふふ、別にいいよ、怖い夢でも見たの?」
「……うん、ちょっとね…」

仕方がないなあ、と苦笑しながらもベッドに腰を下ろすプロンプトに名前は微笑む。一人っ子だったので、お兄ちゃんがずっとほしかった。お父さんがいなかったので、尚更お兄ちゃんという存在に名前は憧れを持っていた。そして、彼らとの旅で彼らを実の兄のように慕い、掛け替えのない存在だと感じるようになり、本当にこの旅に出てよかったと実感している。
窓の外の景色を眺めていると、いつの間にかにこんな遠いところまで来てしまったのだろうかと気づかされる。時の流れとは早いものだ。
名前とプロンプトは、2人だけの穏やかな時を過ごした。

Published in星のこども