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星のこども/30

<産まれた理由>

大切な仲間がすり替わっているとは知らず、ノクトは彼と共に列車を襲ってきた帝国の魔導兵たちを倒していく。自爆する魔導兵が列車に近づくたびにノクトはシフトで移動しなければならなかったのでかなりエーテルを消費してしまった。眠っている名前は車両の位置的に運よく襲撃は免れ無事だったが、その頃、プロンプトは勘違いしたノクトによって列車から突き落とされてしまう。本当はその場で列車を止めてプロンプトを助けに向かいたかったが、シガイが襲い掛かり、他の乗客も危険だという事で仕方なくこの先にテネブラエで列車を止めることにした。
こんな肝心な時に眠りこけていた自分が情けなく、名前は声を震わせながら3人に、そしてプロンプトに謝罪をする。

「仕方ねえだろ、お前、体調悪かったんだからよ」
「ああ、だから気にするな、それに、今まで名前には随分と気を使わせてしまったからな……お前も色々とあったんだ、疲れて当然だ」

優しい仲間たちに、名前は小さくごめん、と呟く。

「…それにプロンプトは俺のせいだしな…」
「ノクト、それは違う、あの男の企みだ…」

だから気を落とすな。プロンプトなら無事だろう、と仲間が励ましてくれるがその手で仲間を突き落としてしまったという事実が、ノクトの胸に重くのしかかる。
待ちに待ったテネブラエだが、足取りは重い。途中、元帝国准将のアラネアと再会をした。なんでも、彼女は帝国の不穏な動きに我慢が出来ず昨日退役したそうだ。彼女の部下たちも彼女と共に退役し、今は救援活動を行っているらしい。イグニスは彼女に列車の乗客の保護を頼み、快く受けてくれたアラネアに深く感謝を述べた。裏表なく手助けしてくれる彼女の存在はとても有難く、ここまで手助けをしてくれるとはイグニスも正直思っていなかったのもあり、天の救いとはこの事なのだろう、と強く実感した。
1人テネブラエを歩いていると、ノクトが老婆と話をしている姿が目に入った。何やら深刻そうな話をしている為声をかけるのはなんだか申し訳なかったので、とりあえず名前はその先にある花畑へ向かう。
まるで夜のような暗さのテネブラエだが、実はまだ昼間だったりする。改めてこれはただ事ではないのだ、と名前は感じた。

「―――お墓?」

花畑の少し奥に、石碑が見えた。他の石碑に比べて随分白かったので新しく建てられたものだとすぐにわかる。

「あら、貴女はノクティス様とご一緒にいた方?」
「え、あ、はい」

振り返ると、ノクトと深刻そうな話をしていた先ほどの老婆が立っていた。どうやら話は終わったようだ。名前は彼女にとりあえず自己紹介をすることにした。

「名前です、えーっと、おばあさんは?」
「えぇ、わたくしはフルーレ家の侍女をしておりましたマリアと申します」
「フルーレ家って…あ、ルナフレーナ様の?」
「はい、その通りでございます」
「ルナフレーナ様……助けられず、すみませんでした」
「何を謝るのです……ルナフレーナ様は、ご立派に、神凪の務めを果たしたのですから」
「…」

務めだ、運命だ。と、この世界は誰かの敷いた道を歩まされているのかもしれない。名前はこの時なんとなくそう感じていた。名前がじっとお墓を眺めていることに気が付いたマリアは、ここの墓が最近建てたもので、中に骨も何もない事を教えてくれた。

「何もないのに、お墓を建てたの?」
「ええ…彼女の死は、レイヴス様が教えてくださいました…だから、せめて、とここに」

レイヴスとは、ルナフレーナ様の兄だっただろうか。そんなことをぼんやりと考えながら、マリアに質問する。

「女性、なんですね、どういう方なんですか?」
「わたくしもフルーレ家に長らくお仕えしておりましたが、その方は一族代々フルーレ家にお仕えしていた、由緒ある家柄の方でした…プラチナロンドの美しい女性でしてね…大剣を持たせると、それはもうお強い方でした」
「へえ…軍人さんですか?」
「はい、このテネブラエが帝国の属州になるまでは…」

今から数十年前、ノクトが療養の為にテネブラエを訪れたその日に帝国が命を狙いにやってきた。ノクト達は父王レギスに連れられなんとか逃げ延びたが、その時ルナフレーナ様とレイヴスは帝国に捕まり、ルナフレーナ様は帝国の監視下に置かれ、レイヴスは軍人となった。テネブラエだけではない、その他の国が属州となりニフルハイム帝国はその領土を拡大していった。多くの犠牲を出しながら。帝国が滅べば、人々は幸せになるだろうか。そんな物騒な事を考えながら、名前はマリアに振り返る。

「ねえマリアさん、この方の名前はなんていうんですか?」
「―――ヴィクトリア・クレイス、まだお若かったのに…」

それは、間違いなく母の名だった。名前は呼吸も忘れ、マリアを見つめる。

「暫くルナフレーナ様と離れ離れになってしまいましたが、ようやくお会いできたようですよ」

なんでも、ハンターをしていたとかで。と、寂しそうに笑うマリア。

「……その人って、愛剣が、こんなやつじゃありませんでした?」

と、名前は母の愛剣、クレイモアを武器召喚する。暗かったので明かりの下でそれをマリアに見せると、彼女が息をのむ音が聞こえてきた。

「これを、どこで」
「…その人、私の、お母さんです…あ、でも私を産んだお母さんは別人らしいんですけど、その人が私をここまで育ててくれたんです」
「―――なんという運命のめぐりあわせでしょうか…そう、貴女が」

泣き崩れるマリアに、名前も涙を零す。

「お母さん…テネブラエの軍人さんだったんだ…そっか、だから、あの時、ルナフレーナ様と一緒にいたんだ
「…最後に、お会いしたのですか?」
「…私、身体の自由が利かなくて…お母さんも助けられなかった―――その日、ちょっと変だったんです、変な声が聞こえてきたり、突然魔法が使えるようになったり―――」
「レイヴス様からはお聞きしております、そうですか、貴女が星のこども―――」

この人は星のこどもの事を知っているようだ。その言葉に、名前は反応する。

「星のこどもって、何なんですか?」
「―――星のこども、そのままの意味でございますよ、テネブラエに伝わる伝説です……フルーレ家のみがその神話を代々受け継いできましたから。星のこどもは、フルーレ家から輩出されるものだとばかり……」
「そのままの意味って、星の、子供ってことですか?」
「えぇそうですよ、言い伝えでは…星のこども、大地に目覚め、大地を包み、星の望む未来の導となる―――とありますね」
「……どういう、意味ですか?星の望む、未来?」
「星の望む未来の為に生まれた存在、それが星のこどもです」
「……そう、だったんだ」

響きからしてなんだか壮大な感じはしていたが、ここまで壮大だとは思ってもいなかった。もしかすると、とんでもない事になっているのではないだろうか。ここまで壮大だと、自分の事なのになんだか他人事のように感じてしまう。
ヴィクトリアが元ここの軍人で、逃げ延びた場所で名前と出会い。そんなヴィクトリアの育てた娘が、フルーレ家に伝わる伝説の1人で。知らされた事実に彼女の胸はざわつくばかり。名前は暗い空を見上げ、小さく息を吐いた。

Published in星のこども