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星のこども/33

<ゲンティアナ>

シヴァもとい、ゲンティアナより神凪の鉾を受け取ったノクトは、恨みを込めた一撃を氷漬けとなったアーデンめがけて食らわせた。粉々に散ったアーデンではあるが、彼は不死の存在。再びノクトの元に現れ、不敵に笑う。

「もうそろそろ、ノクトって呼んでもいいかな?」
「―――ッ」

コツ、コツを音を立てて近寄るアーデンにノクトは警戒し、後ずさる。

「久しぶりに死ぬかと思ったよ、やっぱり神様の力は強いな―――でも俺も強いんだよね、死にたくても死ねないっていうか…」

にしても、粉々にするとはな―――痛かったよ。
ここまで痛めつけられたのは、何十年ぶりだろうか。アーデンはノクトを睨みつけながらかつて自分を追い込んだ人間たちを思い出していた。

「いいものを見せてあげるよ、これなーんだ」
「―――!」

すると、アーデンはプロンプトの銃と、名前の弓をノクトに見せつける。

「あっ、【誰のだ?】って聞くべきだったな―――見覚えあるよね?はい」

プロンプトだけではなく、名前も連れて行かれたとは。ノクトは悔しさで奥歯をぎりり、とかみしめる。二人の武器をアーデンの手から取り戻そうとするが、男の遊びにつき合わされ、2人のそれらは取り戻す事が出来なかった。

「どこにいる」
「誰が?―――ああ、プロンプト君と名前ねえ…この先」
「先?」
「帝都グラレア、わかる?うちの首都…そこまで来ればさあ、会えるんじゃない?」

ルシスのクリスタルもそこだ。と、冷たく言い放つアーデン。まるで、さっさと取りに来いと言ってるかのようで。あれはシガイに効くんだ、取り戻したらどう?などと続けるアーデンにノクトは底知れぬ怒りを感じた。
この男は、そもそもそのつもりで今まで自分たちを誘導していたのだろう。気にはしていたが、名前にもっと気を配ってやるべきだった。ルナフレーナ様の事も然り、ノクトの後悔は止まない。

「ああ、でも名前は会えないかもね、何しろ故郷に戻ってきたわけだし」
「…それは、名前の生みの親が帝国出身だってことを言ってんのか」
「なあんだ知ってたんだ、なら話は早いね、名前はね、これから帝都でおじい様にお会いすることとなるんだ、きっと感動的な再会になるんだろうねえ」
「―――感動的な再会だと?無理やり連れ去ってか!?」
「イドラ・エルダーキャプト、ニフルハイム帝国の皇帝…それが、彼女の祖父」

その名に、ノクトは息を飲む。イドラと言えば、あのイドラだ。父を嵌め落とした張本人―――名前がその男の血を引いていることに、ノクトは衝撃を隠せずにいる。

「元々すぐに家に連れ戻すつもりではいたんだけどね…フルーレ家の犬にうまい事隠されてたからさあ」

いやあ、困っちゃうよねえ。名前の弓がパキリと音を立てて折れた。

「もうこれ、彼女には必要ないだろうし…ねえ、彼女がどうして星のこどもって呼ばれてるか知ってた?」
「…そういや、名前がそんなこと…」
「可哀相だよねえ、星のこどもなんてさ…地獄だよ、地獄、神様って本当に残酷だと思うよ、君は死ねるからいいけどさ」
「―――何を言っているんだ」
「……本当に残酷だ、考えるだけでも腹が立つよ…」

だから、頼むよノクト。
早く帝都においで。

怒りを滲ませた低い声で呟く。

「じゃあ気を付けて、お友達が待ってる」

立ち尽くすノクトに振り返る事も無く、アーデンはその場から姿を消した。
帝都グラレアにたどり着いたアーデンは、先に眠らせていた名前のベッドに腰を下ろし、彼女の頬にそっと触れる。

「ようやく戻ってきたというのに…色々と急いで取り掛からなくちゃならないね」

ワンピースの上から手のひらをあて、ぶつぶつと何かを呟くと赤い模様のようなものが名前の腹から浮かび上がり、次第にそれは全身を覆う。

「星の力を封じるためにこっちの力を結構込めてるんだけどね…やっぱり、星って怖いな」

この子を、自分の手から奪おうとしている。アーデンは眠る名前の身体を抱きしめ、額にキスを落とす。

「神様なんかに…星になんかにくれてやるものか」

この子は、俺のものだから。俺の為だけに生まれ、俺の為だけに生きるのだから。長い髪をそっと払い、名前の首筋に顔を埋める。仄かに石鹸の香りがして、アーデンは微笑む。

「さあ、どうしようかな…起きたら、まず、どんな話をしようか、名前」

君は真実を知って、どう感じるか。
そして、君は君でいられるのか。

彼女の幸せを願うばかりだ。アーデンは柄にもなく、心の底から彼女の身を愁いた。
一方、仲間が減ってしまったノクト達は、列車の中で先ほどアーデンから聞かされた話をしていた。プロンプトがいなくなり、名前も連れ去られ…。ノクトの心は不安で揺れる。何より、名前があのイドラ皇帝の孫娘であることにはとても衝撃を受けた。それを今まで名前の口から聞いたことが無かったが、彼女が知らなかったからだろう、という考えにたどり着く。彼女もそれを知り、ショックを受けるに違いない。

「あいつ、そんなことになってたのか…」
「だからアーデンがしつこく名前につき纏っていたんだな…皇帝の差し金、か」
「いや、なんとなくだが…名前に関してはあの男の個人的な感情がかかわっているような気がする」
「それも一理ありそうだぜ、その、星のこどもって言うのがカギだな」
「…アーデンはなんか怒ってたな」
「…あの男は、名前を星のこどもにさせたくないようにも感じられる、彼女が星のこどもとして本格的に目覚めると、恐らくあの男にとってはとても都合の悪い事が起きるに違いない」
「都合が悪い、か…シガイが滅ぶ、とかか?」
「さあわからない…ただ、名前も、ノクト同様何らかの使命を背負っているという事だけは理解できた、だが、答えは…」
「ああ、そうだな、名前が自分で見つけなくちゃならねえんだと思う、神様っつーのは、そういうもんだよなあ、ノクト」
「…だな」
「名前が帝都にいるんなら、プロンプトもきっと無事だろ」
「それを祈るばかりだ」

ここから先、彼らに長い苦難が訪れるとは知らず、3人を乗せた列車は、間もなく帝都グラレアに到着する。

Published in星のこども