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星のこども/36

<真実と>

何とか帝都にたどり着いたノクトは、シガイを倒し進んでいくと無事離れ離れとなった仲間と合流することができた。彼の指に収められている指輪は、彼の覚悟の証だ。
プロンプトも無事で、あとは名前を探すだけ。プロンプトからは、途中帝国出身者である下りを説明されたが、ノクト達にとってそれはどうでもいいことだった。今まで悩んでいた事が馬鹿らしく思い、プロンプトは笑顔を取り戻す。

基地の奥深くまでたどり着くと、ノクト達は彼と悲しい再会を果たした。シガイとなったレイヴスが自分を殺せ、と叫びながら襲い掛かってくる。あまりの酷さに、胸を痛めるが、気を緩めば此方が殺される。
ノクト達は覚悟を決め、そして、レイヴスを倒した。黒い煙のようなものを出しながら消えるレイヴスを最後まで見送る。決戦の時は着実に近づいていた。

「…おい、まさか、名前もシガイにしたんじゃねえだろうなッ」
『だったらどうする?彼女も殺す?』
「糞野郎が…!」

怒りに声を震わせるノクト。

『はっはっは、そんなに気になるなら、君たちの所へ呼んであげるよ―――』

何処までもふざけている男だ。この時、イグニスは空気の揺らめきを見逃さなかった。

「ノクト離れろ!」
「へ?うおッ!」

すると地面から紫色の煙が現れ、まるで人形のように着飾られた名前が虚ろな表情を浮かべながら姿を現した。

「…シガイに、なってるんじゃねえよな」
「グラディオ、なんとなくだが、彼女からはそういうったものは感じない…しかし、ノクト、どうなっているんだ」
「……名前、どうしちまったんだ、おい、名前!」
「―――」

何も返事をしない名前の元にノクトは向かおうとするが、地面から現れた炎に邪魔をされて名前に近づく事ができない。

「くそッ」
「名前…魔法コントロールできるようになったの、かな」
「いや違えだろ、操られてんだ」
「―――名前!」
「イグニス、何かいい案は無いか!?」
「…今それを考えている!」

と、その時。ボウ、と炎に包まれたかと思いきや、そこには既に名前の姿は無く。

「名前をどこへ連れて行った!」
『どうして、彼女は家に帰ってきただけだよ』
「てめぇは、名前をどうするつもりなんだ」
『はは、教えてあげない』

男の真意を掴めないまま、ノクト達は再びシガイたちとの戦闘になってしまった。クリスタルに近づいた時、アーデンの仕業により大量にシガイが襲ってきた。しかし、戦っていれば奥の扉は封鎖され、クリスタルを取り戻すことはできないだろう。そこで、ノクトは仲間たちの後押しもあり、クリスタル目指して駆ける。王に止まる事は許されない。例え、仲間たちを置いて行こうとも。

「王様は違うなあ、やっぱり触れるんだ」

ついにクリスタルの目の前にたどり着き、ノクトはクリスタルに手をかざし、力を借りようとした。が、クリスタルに吸い込まれていく体にノクトは慌てる。こうしている間にも、仲間たちはシガイと戦っているというのに。コツ、コツとゆっくりとした足取りで背後からあの男が現れた。

「それはそれは大昔、特効薬の無い流行り病が蔓延した…元凶は寄生虫だった、その病に犯された者は化け物とみなされ殺された」

誰が頼んだわけでもないが、アーデンは突然昔話を語り始めた。それは、彼の物語…そして、この星の神話に隠された、闇でもあった。

「当時ルシスにはひとりの男がいた、自分の身体に病を吸い取り、ひとりで病人たちを救っていた男が―――が、まだクリスタルに選ばれていなかった王は、その人々を救える唯一の男を殺してしまった」

化け物呼ばわりしてな。
今でも色あせないこの怒り。アーデンはノクトに向かい、吐き捨てるように言う。

「俺の名前さ、あれ本名だけど、正式名じゃなかったんだよね…アーデン・ルシス・チェラム、正式名―――ああ、イズニアは誰の姓だったか。ノクト、人間のお前を殺しても意味がないんだ、クリスタルの力を得て、真の王になってくれ、クリスタルごと、その力ごと、王を葬り去るのが俺の望みなんだ」

身体の半分以上がクリスタルに飲み込まれてしまったノクトは、どうすることもできず。男から語られる衝撃の事実に、ノクトの頭は混乱する。

「ああそうだ、名前の話をしてあげよう、君たちが残酷にも王様のお墓なんかに連れまわすから、覚醒が早まってしまったんだからさあ」
「てめえはどうしてそこまで名前に執着するッ」
「―――はは、気になる?そうだね、どこから話してあげようか…星のこどもとは、星により作り出された星の望む未来への導となる者のこと……でもさあ、よく考えてごらんよ、星の意思で作りだされた存在が、普通の人間として暮らしていけるのか」
「…」
「星にとって、星のこどもなんて駒に過ぎないんだよ…いわば、星の絶対的な僕―――星の望む未来の導、つまり、名前は君が事を成し遂げた後、永遠にも等しい時間をこの星で過ごすことになる……星の、望む未来の為にね…名前は生贄なんだよ、星が望む未来の為の、死ぬことも許されず、永久の時を生き…果たしてそれは生きているというのか……星の望む未来を迎え、その後、名前はどうなるか……君はさ、今君を吸い込んでいるその石が、何で出来ているのかを知ってる?」
「―――」
「星の望む未来を迎え、務めを果たした星のこどもはね―――次の新たなクリスタルへとなるんだ」
「…!」

だから、真の王となった君を消さなくてはならない。それは彼の長年の望みであり、男なりの彼女を救う方法だった。既に体の大部分をクリスタルに飲み込まれているノクトが足掻こうとも、状況は変わらず。

「最後に、名前の誕生秘話を教えてあげようか…俺もまさかあの子が星のこどもだったとは思いもしなかったからさ……ガブリエラ・エルダーキャプト、彼女は帝国のお姫様、だが、色々とありこの国を出たかった…ここで生まれた人間はみんな管理されているっていうのは知っているよね、ある日彼女は思いついた、とある男の手を借り、自身に埋め込まれチップを外してもらおうと」

手術の記録偽装が必要、それが行えるのはこの国でも一人だけ。そう、俺なんだよね。不敵に笑うアーデンは淡々と言葉を続けた。

「俺は自分自身の子を今まで作った事が無かった、だから交換条件として、彼女に言ったんだ、体外受精させ、それで生まれた子供をこちらに渡せば手術の偽装記録も国からも安全に亡命させてあげるよ、ってね」
「―――」
「誰でもよかったが、どうせなら高貴な血筋がいいだろう?そして、ああ、もうわかるよね、俺が彼女に執着する理由」

あまりの衝撃に、先ほどからノクトは言葉を失っている。

「俺と同じ血の流れる、俺と同じ苦しみを知る、愛おしい我が子だ……我が半身であり、絶対無二の存在」

名前の産みの母はここの姫であることは聞いていたが、父親がこの男だとは思ってもいなかった。男に言われ、よくよく考えると思い当たる節無い事は無い。それでも、この男は異常だ。ノクトは霞ゆく世界の中、誰かの悲しげな声を聞いたような気がした。
完全に吸い込まれたことを確認すると、アーデンは此方にやってきた客人をもてなすために手を広げ、彼らを待ち構える。さあ、深い絶望を知るがいい。アーデンは闇の中、不敵に笑った。

Published in星のこども