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星のこども/44

<優しい時間>

夜中にアーデンと名前を狙った犯人は、彼の言う一族の者達だった。何とか逃げ延びる事が出来たが、負傷は免れなかった。傷の手当てをしながら、名前はアーデンを静かに見上げる。痛みに耐え歪むその表情からは、ルシス家に対する怒りや怨みを感じ取り、名前は再び顔を俯かせる。

「上手だね、手当て」
「まあ、ハンターやってたからケガなんて日常茶飯事だったし…」

傷の手当は母にしっかりと教え込まれているので、誰よりも上手な自信がある。手際よく包帯を巻き終えると、アーデンにポーションを手渡す。

「魔法での傷って治りが悪いのね…」
「ああ、だから厄介だよ」

この時代の人たちが扱う魔法は見た事も聞いたこともない魔法ばかりで、名前もどう対処していいか分からず、逃げる事に必死で反撃する余裕すら無かった。今回は途中野獣が現れたお蔭で敵の目を逸らすことができた為逃げ切れたが、そんな偶然が毎回とは限らない。

「助かったね、まさか野獣に助けられるなんて…」
「本当に幸運だった…すまない、君まで巻き込んでしまって」
「いいの、気にしないで…きっと、私も元々狙われているんだろうし」

名前は苦笑する。この世界に来て、初めて向けられた殺意。それがルシス家の人たちだなんて。この事を、ノクトは知っているのだろうか。落ち込むアーデンにちらりと視線を向ける。

「あの人たちは、あの石に従順だから」
「…あの、石?」

彼の言う石とは、まさかクリスタルの事ではないだろうか。名前は焚火の火の向こう側にいるアーデンの傍に近寄り、彼の隣に腰を下ろした。名前が近くにやってきたのを確認すると、アーデンは静かに語り始める。ルシス家と、例の石の話を。

「―――突然現れた石、あの石が現れてから、ルシス家の人間はいろんな事が出来るようになった…けれども、みんな、人が変わってしまった」
「人が…変わってしまった?」
「使命だとか、そんなことを言うようになったんだよ、星の病がどうとか…とか、まあ不審な挙動を上げていたらきりがないんだけど、ともかくそんな感じで、あの家の連中はみんなおかしくなっていった」
「……使命、か」

使命ときき、名前の頭の中にはとある人物の姿が思い浮かんだ。彼は今頃どうしているのだろうか。ぼんやりとだが、あの男がノクトはクリスタルの中にいると言っていたような気がする。クリスタルの中で、クリスタルの力を蓄え、最後の戦いの日を迎えるために―――。

「俺さ、あの家の連中がやっていることが大嫌いなんだよね…」

偽善者。光を名乗る偽善者だよ、あいつらは。吐き捨てるように言うアーデンは、憎しみのこもった瞳で火を眺めた。

「…以前、村人ごと焼き払われた村に…行った事があるだろう」
「…えぇ」

今でも鮮明に思い出せるあの悲惨な光景。思い出すだけで胸がミシリと痛む。

「あの村は、あの家の連中に焼き払われた」
「―――え」

星の病であるあの不治の病を根絶するには、患者を殺すしかない。そうあの石に命令でもされているんだろう。と深い憎しみを込め語るアーデンに名前は動揺する。クリスタルがそんなことを命令するとは想像もできないが、そもそもクリスタルとは何なのか。何処から生まれたのか。いくつもの疑問が浮かんでは、謎が積み重なっていく。

「いくつもの、魔法を使用された痕跡があるからね、間違いないよ」
「…そんな」
「そして、その石は、俺を殺そうとしている」
「…どうして」
「さあ、気に食わないんじゃないか?人々を救うこの俺が」
「…ねえ、その石って、誰から貰ったの?」
「ろくでもない奴さ」
「―――えぇ、そうね」

世界の事がよくわからなくなってくる。もしここが本当にイオスの過去で、罪もない人々をルシス家が消し去るようクリスタルが命令していると仮定しよう。石は神に与えられたもので、神とは六神の事ではなくこの星自身だったとしたら…。と、名前は嫌な考えにたどり着いた。炎の中に浮かぶ金色の瞳を思い出し、彼の言葉が頭を過る。

「どうしたの」
「……うん、色々とあったから、疲れちゃって」
「…今日はゆっくり休むといいよ」

何しろ、一日中逃げ続けていたからね、と優しく労わるアーデンに名前は微笑む。彼にすべてを話せたらいいのに、とは思うが、きっとこれからも彼には伝える事が出来ないのだろう。ふと、アーデンにじっと見つめられていることに気が付いた。

「名前も色々とあるんだろう、同じ力を使える者として、どんな道を強いられてきたか……」
「…アーデン」

この力は、呪いなんだよ。そんな彼の悲しみは、寒々とした星空に溶けて消えてゆく。

「この先、あいつらは俺たちを殺すまで追いかけてくる、名前、お前ならまだ助かるかもしれない」

名前はアーデンのその言葉から、彼の優しさを感じ取った。ああこの人は、私だけでも助けようとしてくれているのだろうか、と。胸にこみ上げてくるこの感情を抑えきれそうにない。名前は優しい眼差しで見つめてくるアーデンの瞳をじっと見上げ、彼の手を取る。

「アーデン、貴方と一緒にいる」
「…だが、今回のようにまた襲われるんだよ」
「いいわよ別に」

貴方と一緒にいられるのならば。と、言葉にはしなかったが。へにゃりと笑う名前に、アーデンも微笑み返す。

「貴方は1人じゃないわ」
「―――ありがとう」

今まで一人で戦ってきた彼にとって、名前という存在は大きな支えとなりつつあった。パチ、パチと薪は心地よい音を立て燃えていく。優しい炎を眺めながら、2人だけの優しい時間は過ぎ去っていった。

Published in星のこども