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生きる/01

<生きる、という意味>

まだ幼かったわたしは、自分の生まれた世界のことなんて全くわからなかった。彼らと出会い、色々な変化があった。この世界にも、わたし自身にも。銀髪の少女は、自身よりも幼い主に跪き手を取る。幼い主は年の割に傷だらけでごつごつした彼女のその手を取り、小さく微笑んだ。

「改めて、これから、よろしくね、名前」
「はい、エーコ様」

 もう人の住むことのないであろう、主の故郷を背に前を進む。この方の進む道は、わたしが守るのだ、と彼女の背中には覚悟の色がにじんでいる。飛空艇で待つヒルダの元へ向かうと、彼女はやさしく二人を出迎えてくれた。

「ご苦労様です、名前将軍」

 彼女は名前の仕える国の妃、ヒルダだ。名前は小さく礼をする。彼女は近年行方不明になっていたが無事救出され、諸事情で魔法をかけられ姿を変えられていたシド大公も人間に戻り、リンドブルムは平和を取り戻した。これも、すべて彼らのお蔭だろう。2年前姿をくらましたジタンが昨日戻ってきたので、霧の三大国共同でパーティが開かれる事となり、人々は今、幸せに包まれている。今回、彼には世話になりっぱなしだった。行方不明と聞いたときはどうなるのかと心配に思っていたが、彼が無事戻ってこれてなによりだ。

「でもお姫様なんて…不思議ねぇ」
「ガーネット様も、同じようなお気持ちだったのでしょうね」
「そうね、ガーネットに話をいろいろ聞かなくちゃ!」

 現アレクサンドリア女王のガーネットはアレクサンドロス家と血の繋がりはない。偶然、前女王であるブラネの娘が亡くなった日に、海から実の母親と流れ着いたそうだ。そして、前女王ブラネは実の娘として彼女を育てた。悲しいことに、実の母親はアレクサンドリア港にたどり着いたときすでに息は無かったそうだ。それらの秘密を知る者は、一部の王族とその関係者、そしてジタンたちだけ。それを知ったところで、アレクサンドリアの国民は素晴らしい治世と平和をもたらしてくれたガーネットが君主であることに、何ら疑問も感じないはずだ。現に彼女は国民から愛され、それにこたえるようにアレクサンドリアは以前よりもうんと栄えたのだから。

「えーっと、おかあさ…ま?」
「ふふ、呼びやすい方でいいですよ」
「ううん、お姫様になるんだから、ちゃんとしなくちゃ!」

 そして今日は、二人の一人娘が故郷と別れる決意をした日でもある。リンドブルムの姫として正式に表へと出たとなれば、ここに来ることも難しくなるからだ。ファブールの名を背負う、ということはそれだけ責任が重たくなるということ。今まで自由に暮らしてきた彼女だが、これからはありとあらゆることが制限されてしまうだろう。名前は、そんなエーコを支えるため彼女の護衛管に着任した。これから様々な苦難と立ち向かうこととなるだろうが、何があろうともエーコを守ろう。
 ヒルダガルデ4号から見える夕日はとてもまぶしかった。まるで、彼女の笑顔のように。額の角はそのままにしておくそうだが、亜人種の多いガイアでは気にする者などいないだろう。この平和が、永遠に続けばいいのに。名前は幼い主の横顔を見つめ、ぼんやりと考える。
 明日、城でパーティが行われる。あの頃よりも成長したガーネット王女と、世界を救ってくれた男との再会を祝って。

「ジタンも、戻ってきてるなら早く教えてくれればよかったのに…もう」
「そうですね、彼なりに色々と準備していたのでしょうが…」
「ねぇ、名前、今までいろんなことがあったけれども、こうして名前たちに会えたことや…お姫様になったこと、素敵な事だと思わない?」
「はい」

 様々な出会いがあり、別れもあった。それでも、彼女たちは必死に前へ進み続け、この世界を救ってくれた。

「失ったものは多いけれども…それでも、前を向いて、歩いていけるね」
「そうですね」
「エーコ、名前たちとあえて、本当によかった。エーコ、名前たちとずーっと一緒にいられるんだよね?」
「勿論です」
「エーコも頑張るから……名前、良かったら、エーコを助けてくれる?」
「わたくしは、この命にかけて貴女様をお守り致します」
「…ありがと!」

 この笑顔を守ろう、この剣に賭けて。

「エーコ、名前のお話、色々と聞きたい!」
「…はい、どこからお話すればよろしいでしょうか」

 これより始まるは、この世界の崩壊を救ってくれた彼らの物語。そして、その裏で懸命に国を守った若い剣士の物語である。赤い月と青い月に照らされたガイアは、美しく、そして儚げに問いかける。生きる、という意味を。

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