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生きる/06

<平和という儚い存在>

 あの二人は今も各々与えられた土地で任務を遂行しているようだ。仲間から届いた報告書を片手に名前は唸り声を上げる上官の顔を見上げる。

「……北ゲート周辺で、不審な動きあり…か」

 いつまでも、平和が続けばいい。そう思っていた。せめて、ガーネット様とご連絡が取れたら……。名前は最近重たい空気の広がるこの城での任務を息苦しく感じ始めていた。ほかの兵士たちもピリピリと常に緊張していてまるで戦時中のようだ。ブリ虫への耐性はかなりついたが、未だに突然ジャンプなどされると後ずさりそうになってしまう。

「―――名前はいるブリか」

「はい、何の御用でしょうか」

「うむ……近いうちに、ガーネット姫がこの城を訪れるブリ、その時は迎えに行ってほしいブリ」

「―――ガーネット様が…?」

 近年、ガーネット姫との連絡は一切取れず、どうなっているのかもわからなかったがシドの言葉で彼女が元気にしていることを聞き、ほっと胸をなでおろす。しかし、安心するのはまだ早いのかもしれない。

「しかし、何故…」

「アレクサンドリア王に頼まれたブリ…もしもの時、姫を助けてほしい、と」

「……ブラネ女王陛下のご容態が悪いのでしょうか」

「―――まだわからないブリ…しかし、今月に入りブラネの動きは怪しさを増したブリ……アレクサンドリアに潜伏している部下の調べによると、レッドローズが調整に入ったらしいブリ…そして、トレノの一部貴族たちに怪しい動きがあったそうだブリ…」

 レッドローズはアレクサンドリアの誇る巨大な飛空艇だ。ただのお出かけに使うような飛空艇ではないことを、シドも名前もよく分かっている。

「北ゲートに怪しい動きがあると聞いたが、ブラネはブルメシアを攻めようとしているブリ…ブリ…?」

「……」

 シリアスな流れに、この語尾はもう慣れてしまった。何がどうであれ、早くヒルダが戻ることを祈るばかりだ。本当にヒルダがアレクサンドリアに攫われたとしたら、間違いなく戦争が始まってしまう。

 それから1週間後、シェスカのもとに部下たちから緊急要請が入ってきた。緊迫した空気の中、シェスカは重たい口を開き、本日ブルメシアとアレクサンドリア国境で起こった出来事を報告し始める。

「……事態は急を要します、アレクサンドリアのベアトリクス将軍と数百の兵たちが北ゲートに侵攻、現在状況は押し寄せてきたアレクサンドリア兵による被害は拡大中」

「―――ついに、動き出したブリ……」

「シド大公、いかがいたしましょう!」

「アレクサンドリアにて、現在部下たちがレッドローズの調整を遅らせる工作をしているようですが……」

「戦争が始まってしまったか…飛空艇での戦争になってしまえば、我が国も危ういブリ」

 ブリ虫の脳では、霧を必要としない新型の飛空艇の開発が進まないためだ。現在の飛空艇は霧をエネルギーとして動かしているため、霧のない場所では空へ飛ぶ事すらできない。幸いにもレッドローズは霧を必要とする飛空艇なので、霧のないところからリンドブルムを攻めて来ることはないだろうが……。

「新たな報告が入りました!先ほど北ゲートを突破された模様!ブルメシア兵の死者多数、潜伏していた我が兵も負傷したとの連絡!」

「―――頭が痛いブリ」

「殿下、ご決断を」

「……ブルメシア王は既にこの状況を知っているはずブリ、ブルメシアにいる部下たちに伝えるブリ、ブルメシア王を安全な場所へ避難させるブリ……我が国なら、王を匿えるブリ」

「すぐに増員いたします!」

「だめブリ、まだ表だって動く時ではないブリ……」

 シドは、すでにブルメシアに潜伏している部下たちにブルメシア王を避難させるため兵士たちを説得せよ、と命を下した。あのブルメシア王なら、逃げも隠れもしないだろうと危惧しているからだ。緊急軍議を終えると震える手を胸に当て、シェスカはシドの後ろに立つ名前の元へと向かう。

「名前、わかっているわね」

「はい、将軍」

「……わたしは、国民に万が一のことが無いよう準備を進める、貴女は殿下の元から片時も離れぬよう」

「御意」

 ついにこの日がやってきてしまった。平和は、なんと脆く短いものなのだろうか。

Published in生きる