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生きる/12

<新女王>

 人々は戦争の終わりとアレクサンドリア新女王の即位が決まったことを大いに喜んだ。それにより、ブルメシアとリンドブルムは正式に解放され、アレクサンドリア兵のいなくなった街を人々は喜びに満ちた表情で歩いている。街は活気にあふれ、戦争以前の様子を取り戻したようだ。

 アレクサンドリアにいた仲間たちも無事リンドブルムへ帰還したという報告を受け、シェスカは無菌室の中ほっと溜息を吐いた。

「そう……それは良かった」

「デルタ達から、クジャという不審な男の話を聞きました。どうやら彼がアレクサンドリアに来てから、ブラネ様の様子が変わってしまったようです」

「クジャ…ね、報告で何度か聞いた名ではあるけれども―――そのしっぽを掴めなかった、我々にも非があるわね、その者さえ取り押さえていれば、今頃―――」

 ここまで多くを失うことはなかっただろう、とシェスカは声を絞り出す。

「あの男は、誰よりも早く第零部隊の存在に気づき、その動きをすべて見られていた……彼に、踊らされていたのね」

「……許せない」

「確かに、あの男のしてきたことはとても許される事ではない、ガーネット様とブラネ様を引きはがした罪は重く、そしてその力を悪用したブラネ様も………けれども、過ぎ去ったことは、どうすることもできない」

「お母様……」

「これから、考えましょう、霧の三カ国は再び平和条約を結びました、二度と戦争が起きないよう、支えあうのよ」

「はい」

「そして、名前……ブルメシア王を守り抜いてくれて、ありがとう」

「……そんな、わたしは…」

「貴女の成し遂げた事は、誰もが成し遂げられるものではありません、あとで、貴女に褒美を授けましょう」

「―――褒美…?」

「えぇ……でも、動けるようになるまで、もう少し待ってくれるかしら」

「はい、お母様」

「生きていてくれて、ありがとう、名前……私の、世界でたった一つの、宝物」

「……お母様」

 今までの緊張などといった様々なものが、飛んで、はじけた。気が付いた時には涙があふれ出てきて、止まらない。

 正直、何よりも恐ろしかったのは母を失うことだった。任務の失敗、国を失うことではなく。何があろうともどちらかが生き残り、国を守るという約束をしているが、名前にとって母は国よりも大切で、掛け替えのない存在なのだから。

「すごいじゃないか名前、ブルメシア王を守り抜いたそうだって?」

「うん、色々と辛かったけれども……」

 病室のベッドで横たわるデルタの元を訪ねた名前は、見舞いの品として彼の大好物であるまんまるカステラを持ってきた。まんまるカステラをおいしそうに頬張りながら、デルタは友の功績を心から褒め称える。

「ノア先輩たち……殉死、したそうだな」

「……もし、わたしの到着がもっと早ければ…」

「あぁ、黒魔道士兵の猛攻に遭い、死んでいたかもしれないな」

「……」

「あいつら、心を持たない人形兵士だ―――本当に、あんな恐ろしい力をクジャは持ち込んだんだな……」

「えぇ……けれども、ジタン達から聞いたのだけれども、外側の大陸に戦地から逃げて生き延びた黒魔道士たちが、集落を作っていたそうよ、そこの彼らにはしっかりと心があって……突然、目覚めたそうよ」

 黒魔道士の村での話を聞き、はじめは耳を疑ったが彼らは戦地で突然目覚め、逃げたそうだ。逃げた黒魔道士たちに悪意はなく、人間をただ恐れていたという。

「っけ…散々人を虐殺しておいてか?」

「……その気持ちは、よくわかるわ……正直、色々と辛い、よね……」

「―――そいつらがまた暴れだしたら」

「それは、無いと思うの、なんとなくだけど……」

「どうしてそう言い切れるんだ?そいつらを野放しにしたら、危険だろ!?」

「……もう、二度とそんな過ちは繰り返さないと思うの」

「ふん、お前がどう考えようが何か起きたら俺はそいつらを全員始末してやる」

「……」

 今回の戦争で、デルタの両親は亡くなった。だから、彼が彼らを憎むことに対して名前は何も言えないのだ。自分自身の母も現に死にかけていたのだから。

「レイルはまだ任務続行中なのか…」

「そうみたい、キング家が怪しい、と見ているらしいわ」

「あ~、あの大金持ちか……でも、主の詳細は不明、なんだろ?」

「えぇ、貴族にはよくある事だけれども、それと、不審な男が時々オークションハウスを訪ねるそうよ」

 その人物は最近トレノにあらわれないので、もしかしてその者こそがクジャではないだろうか、と見ているが一向に尻尾はつかめずにいた。

「アレクサンドリアへ向かってほしいブリ」

 その夜、名前はシド大公に呼ばれ謁見の間までやってきていた。ほかの部隊の隊長たちは町の修繕や、ブルメシアの町の復興を手伝う為に向かっているため任せられる人物は限られているからだ。それに、名前ならばガーネット姫との交流もあるので、姫も安心するのではないか、というシド大公の考えでもある。

「アレクサンドリア、ですか」

「うむ、やはり姫をそのまま一人にしておくのは不安ブリ、クジャがまた何かやるのではないか、と隊長たちから声が上がっているブリよ」

「…考え、られない事もないですね」

「アレクサンドリアにはベアトリクス、スタイナーがいるブリ……しかし、もしもの事態に陥ったら我々はすぐに助けに行くことが出来ないブリ、ブラネの死んだ日、アレクサンドリアの兵士たちも多く命を失ったブリ、あそこは、今ここ以上に警備が手薄となっているブリよ」

 外側の大陸で、ブラネはクジャを殺そうと彼を追っていたらしく兵の殆どを引き連れ、彼に挑んだそうだ。しかし、結果はブラネの死と、それに巻き込まれるかのようにして多くの兵士たちが海へ沈んでいった。ガーネット姫から引き抜かれた、召喚獣の力によって。

「わしの護衛官として、わしの代わりとして、アレクサンドリアを助けてやってほしいブリ」

「御意」

 ブラネの強欲から生まれた戦争なのか、クジャが裏でブラネを操っていたのか、今は誰が悪だなんてわからなかったが、平和の道を阻む敵は倒すのみだ。

Published in生きる