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生きる/13

<翼>

 翌日、名前は暗黒騎士の鎧を身に着け、アレクサンドリアへ向かった。アレクサンドリアではブラネを弔う為町中のあちこちで彼女の好きだった赤いバラが飾られていた。戦争を引き起こした人物ではあるが、国民には深く愛されていた様子だ。

「あれ?」

「…君は、ビビ?それに、ジタン達も…」

 城へ向かっている道中、ジタン達と遭遇した。先ほどまでガーネット姫と会っていたらしい。

「ねぇねぇ、この人誰?ジタンたちの知り合い?」

「あぁ、名前っていうんだ、リンドブルムにいるシド大公の護衛官さ」

「ふうん、どうして護衛官なのに、ここにいるの?」

 額に角を生やした不思議な少女は、次から次へと名前に対して質問をし続けるので、名前は思わず苦笑をする。

「名前は男の人?それとも女の人?」

「そういえば、ずっとヘルムをかぶったままだったわね…」

 ヘルムを外すと、少女から驚きの声が上がる。

「女の人だったのね!重たそうな鎧を着ていたからわからなかったわ…あたしはエーコ、よろしくね」

「はい、よろしくお願い致します」

「そういや、名前はエーコたちと会うのは初めてだったな、ちなみにこっちの奴はサラマンダーって言うんだ」

「…」

「ど、どうも……」

 ジタンの指さす先にはいかにも、といった風貌の男が立っていた。特に会話をしたくないのか、そのままそっぽを向かれてしまったので名前は再びジタン達に視線を戻す。

「これからトレノでカードゲーム大会が行われるんだけど、名前も来ないか?」

「お誘いはありがたいけれども、今は任務中で…」

「そっか、そりゃ仕方ない」

 トレノでは、毎年カードゲーム大会が行われる。霧の大陸一の娯楽といわれるほど、これには根強いファンが多く存在していて、実のところシド大公はこの大会のチャンピョン常連でもあるのだが、偽名を使っているのでシド大公がチャンピョンである事を知る者は数少ない。飛空艇の準備に取り掛かっていたので、シド大公たちは間もなくトレノへ向かう筈だ。

「名前、時に―――王はどうなさっている」

 声をかけてきたのはブルメシアの竜騎士、フライヤ。

「以前よりは元気になられましたが、まだ…」

「そうか……王の所へ近々お伺いしようと思う」

「是非、ブルメシア国王様もお喜びになると思います」

「おぬしたちには何から何まで、世話になってしまったのう、感謝している」

「当然の事をしたまでです、平和の為に、がんばりましょう」

「心強い言葉じゃ、リンドブルムに危機が訪れた時、命に懸けておぬしたちを助けよう」

「ありがとうございます」

 今回の戦争はこの世界に大きな流れを生み出した。多くを失ったが、得たものも大きい。人々は今回の戦争で生まれた絆を当分忘れることはないだろう。ジタン達と別れ、名前は城までやってきた。城の警備で忙しいのか、スタイナーは慌ただしく城内を走り回っていた。

「貴女は……」

「ベアトリクス殿、お久しぶりです…リンドブルムの、名前・プリヴィアです」

 彼女とは以前、敵として再会している。少し、複雑な心境での再会ではあるが、彼女は現在ガーネット姫を守るためここに残っている、敵ではない。それに、かつての主人、ブラネを見限ったのだから。ベアトリクスの心中をなんとなく察し、名前は小さく微笑む。

「過ぎたことは、どうしようもありません、わたしは両国の友好の為、参りました」

「……お気遣い、感謝いたします」

 水辺を歩きながら、名前はこれからの予定をベアトリクスから聞いた。明後日はガーネット姫がガーネット女王になる日。シド大公が予想した通りアレクサンドリアの警備は手薄となっており、少ない人数で見回りなどを行っている様子だ。

「殿下は、クジャの動きを心配しておりました」

「……スタイナーと、色々話はしていましたが、やはりそうですか…」

「最近、奴の動きは妙に静かで、怪しいと」

「……その男が現れてから、ブラネ様は変わられてしまいました……もう二度と、あの男の好き勝手にはさせません」

「ご助力致します」

「…ありがとう」

 彼女は今後、あの戦争で奪った命や、失われた者の事を考えながら過ごすのだろう。ベアトリクスはその瞳に悲しみの色を滲ませる。

 午後になり、名前はようやくガーネット姫との再会を果たした。久しぶりのドレス姿のガーネット姫はとても美しかった。名前は隣でガーネットの姫の話を聞きながら、ふと、ガーネット姫に憧れている友人の事を思い出した。

「そういえば、先ほどジタン達と会ったと聞きましたが、彼は元気そうでしたか?」

「はい、トレノのカードゲーム大会へ行くと張り切っていましたよ」

「そう、それは良かった……ジタン、様子がおかしかったから…」

 ガーネット姫は、ジタンの事が好きなのだろうか。なんとなく、そう感じた。しかし、彼女は一国の女王となる身、そして彼は。

「そうだわ、リンドブルムの街はどうなりましたの?」

「はい、お蔭様で以前の活気を取り戻しました、人々はガーネット様の新女王即位、とても楽しみにしておりますよ」

「立派な女王に…なれるのかしら…」

「ガーネット様ならば」

 母のような民に愛される女王になれるか、彼女は不安な様子だ。しかし、彼女ならば立派な女王になるだろう、なんとなく、そう確信していた。

 新女王を迎える前夜、アレクサンドリアにまさかの悲劇が襲い掛かる。突然召喚獣や魔獣が城下町にあらわれ、人々を襲い始めたのだ。もしかして、と思い名前は慌てて鎧を身に着け、ガーネット姫の元にやってきた。混乱の中、スタイナーは彼の部下であるプルート隊に魔物の撃退、そして人々を安全に誘導するよう命令を下した。

「名前殿、姫様の事、お頼み申す…!」

「お任せ下さい、この命に代えても、ガーネット様をお守り致します」

 そして彼もまた、ベアトリクスと共にこの国の人々とガーネット姫を守るため戦いへ出ていく。どうしてこのようなことに。ガーネット姫は悲痛の表情を浮かべる。よりによって、人々が寝静まった夜を攻めるなんて。今回も、間違いなくクジャの仕業だろう。

「…ガーネット様、外は危険です、中へ…」

「わたくしは…どうしたら……」

「スタイナー殿も、ベアトリクス殿もこの国を、そしてガーネット様をお守りするため命を懸けて戦っております、ガーネット様が弱気になってしまってはなりません!」

「……名前、えぇ、そうよね……」

 しかし、スタイナーたちが抑えきれなかった一部の魔物がどっと城に押し寄せてきた。城を守っていた兵士たちもそろそろ体力の限界だろう。倒せど倒せど魔獣は襲い掛かってくる、この終わりのない戦い。名前はガーネット姫に念のために守りの魔法をかけ、城の門を守る兵士たちを手助けするべく駆け出す。

「ご助力、感謝いたします!」

「敵はまだ減らないのね……下がっていて…!」

 予想していた通り、兵士たちは既に疲弊しきっていた。暗黒剣を使い、霧の魔獣を倒そうとするが攻撃は効かず、体力を奪われたことでようやく敵がアンデッドタイプであることに気が付く。敵がアンデッド系だとこのブラッドソードは全く使い物にならないのが、唯一の欠点だろう。名前は仕方なく、攻撃魔法や白魔法で戦う兵士たちの後援をすることにした。相手は強かったが炎属性が弱点だと分かり、ファイガを打ち込むとあっという間に倒れていくが、何しろ数が数なので長期戦は厳しそうだ。

「―――うああ!!」

「……逃げ…!」

「退却するのよ!あれを放たれたら…!」

 しかし、霧の魔獣を倒せても召喚獣を倒すことだけはできず、名前たちは召喚獣バハムートの攻撃を受け川の方へ吹き飛ばされていく。リフレクをかけていたので重傷まではいかなかったものの、魔力を消費し続けた為に動けるまで時間がかかりそうだ。

「な…なに…これ…」

 魔力の波動を感じ、振り返ると突如城が光りだし、アレクサンドリア城が巨大な翼を生やしたゴーレムのような姿へと変わる。するとそれは、バハムートからの攻撃から城下町を守るかのようにその翼を大きく広げアレクサンドリア城下を包み込んだ。上がっていた炎も不思議と消え、体の傷が癒えていくのを感じた。

「―――まさか、これも、召喚獣では…」

 河からなんとか這い上がると、名前は城を見上げる。これから、一体何が始まろうとしているのだろうか。

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