<聖なる審判>
アレクサンドリアに突如現れた巨大なゴーレムはバハムートを倒し、アレクサンドリアを守った……かのように思われた、しかし、突然空から不気味な目が浮かび上がり、それを襲う。脳みそがぐらぐらと揺れているようだ。名前は何とか立ち上がろうとするものの、超音波のようなものがそれを遮り中々立ち上がる事が出来ない。
「これは……何なの……ッあれは…一体―――」
この中には、ガーネット様がいる。名前は残ったわずかな力を振り絞り、駆け出す。部屋にも見当たらず走り回っているとシド大公と遭遇した。如何やら飛空艇でここまで来たようで、目的は同じくガーネット姫の救助。そして、名前を探しにやってきたそうだ。
「今すぐここを脱出するブリ!」
「クジャですか…!」
「わからないブリ!」
「しかし、ガーネット様は…!」
「今ジタンが助けに向かったブリ!」
「なんだか、嫌な予感が致します…大公殿下、どうかお逃げください!」
「待つブリ!」
シド大公の制止の声を無視し、名前はジタンの向かった場所へと駆け上る。そして次の瞬間、アレクサンドリアを剣が貫く。城の一部は崩壊し、がれきが落ちてくる。と、突然誰かの悲鳴が聞こえた。
「―――きゃああああああ助けてえええ!」
「エーコ!!」
「エーコ!」
上を見上げると、ジタンに抱えられたガーネット姫が目に入る。すぐ近くには足場を失い落ちてくる少女、エーコの姿があった。このままでは彼女は間違いなく瓦礫に押しつぶされ、死んでしまうだろう。
「ジタン!ガーネット様を頼みました!」
「―――ああ!」
名前は落下するエーコの元に飛び、彼女を抱きしめる。この鎧ならば、ある程度の衝撃は受け止めることが出来るだろう。と、次の瞬間。グシャ、と足が変な方向に曲がるのを感じ、名前はそのまま意識を手放した。意識を失う寸前、誰かに名前を呼ばれたような気がした。
「……う……」
目覚めた時、なぜか自分はリンドブルムの軍用病棟にいた。全身は包帯だらけ、体を少し動かすだけで激痛が走る。腕につながれた点滴の管が揺れ、ぽたぽたと薬剤が落ちていく。
「わたしは……一体」
「目覚めたか、名前」
振り向くと、黒い軍服姿のレイルが椅子に座っていた。こうして会うのも久しぶりのような気がする。
「……レイル、どうして、トレノにいたんじゃ……」
「今回の黒幕の居所を掴んだからな」
「え……クジャの…!?痛あああ――――ッ!」
「バカ、そんな大けがで動くなって……!」
今回、名前はエーコを助けるため下敷きとなった為、全身複雑骨折をしてしまったのだ。魔法の力で何とか骨はくっつけることが出来たが痛みが完全に消えたというわけではない。全身を強く打ち付けたため、一時は死にかけたそうだ。
「ガーネット様は…」
「ガーネット様ならご無事だ、それにお前が守ったエーコっていう女の子もな」
「よかった……」
それからしばらくすると、デルタも見舞いにやってきた。名前の好物であるギザールの野菜ピクルスは匂いがきついので、病室では食べないことという約束の元持ってきてくれたようだ。
「は~…おいしい」
「……ともかく、元気そうでなによりだよ」
車いすで運ばれながら、名前は見舞いの品であるピクルスをおいしそうに頬張った。
「そういえば、お母様はどうしているの?」
「あぁ、将軍なら崩壊しちまったアレクサンドリアへ手伝いにいってるぜ」
どうやら、火傷も落ち着き無事無菌室をできることが出来たようだ。名前はそれを聞き、ほっと胸をなでおろす。
「そう……あれは何だったのかしら」
「俺たちは見てないけれども、空に巨大な目玉が浮かび上がったんだろ?」
「そうなの…」
「クジャってやつは、一体何者なんだろうな」
「わからない……世界をかき乱して、何が目的だというのかしら」
「もしかして、それが目的だったりしてな」
「どういう事?でも、何のため?」
「さぁな……」
今回アレクサンドリアの被害は甚大、被害者はブルメシアをも上回る。アレクサンドリアの悲劇は復興活動中のブルメシアにも轟いたようで、ブルメシア王からガーネット姫へ手紙が届けられたそうだ。
「そういえば、他の隊長たちは…」
「ブルメシアにいるよ、あっちも色々と大変だからな……」
「そう……」
「人手が足りてるのはうちの国だけだからな、何しろ」
「そうよね……頑張らなくちゃ」
「おいおい待てって、お前はまだ安静にしてろ」
車いすから立ち上がろうとしたが、肩を抑えられてしまう。
「あぁ、っと、ちょっと待った、お前をここから出すわけにはいかないんだよ」
「どうして」
「将軍からのご命令さ」
「……お母様の」
「お前、絶対についていくなよ、今年で何回死にかけてると思ってるんだ」
「―――」
「心配していたぜ、将軍」
「……」
「瀕死のお前が運ばれた時の将軍は今にも倒れそうな顔をしていたぜ、だけど、今回エーコっていう少女がお前にずっと回復魔法をかけ続けてくれていたお蔭で一命をとりとめたそうだ」
「あの少女が―――…」
これは、お礼を言わなくては。確かにあの日、終わりの見えない戦いに肉体も随分と疲弊していたのを覚えている。
「命を粗末にするもんじゃない」
「……でも、ただ黙ってみていられない…」
「なら、早く身体を治すことだね」
「……そうね、暫く退屈しそう」
「そりゃあ、最近ずっと任務の為に他国にいたからな、退屈も必要さ」
「……せっかく時間が出来たのだから、お墓参りでもしようかしら…」
「それもいいかもな」
今年に入り、もう何人も仲間を失った。今年で、すべて決着が着ければいいのだが。名前は目を閉じ、死んでいった仲間たちの事を思い出す。