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生きる/15

<カエルの王様>

「おお、無事だったケロか!」

「―――シド大公殿下……なのですか?」

「うむ、わしケロ!」

「………」

 一体、何がどうなっているやら。体調が落ち着いたのでシド大公に挨拶へ向おうと謁見の間まで来たまではよかったが、王座にいるカエルを見て思わず言葉を失う。すると、控えめな声で隣に立つオベルダが事情を説明してくれた。どうやらリンドブルムに伝わる例の薬を試したらしい。しかし薬の効果は期待したものとは大違いで、カエルの姿になってしまったそうだ。

「やはり、ヒルダが必要ケロ……」

「そ、そのようですね……」

「ヒルダ、どこにいるケロ……」

「……」

 未だにヒルダ大公妃が見つからないのも変な話だ。国が危機に陥っていたというのに、姿を現さないなんて。夫婦喧嘩にしても、流石にこれはどこか怪しい。もしかしたら、夫婦げんかだけではない、何かがヒルダ大公妃を閉じ込めているのかもしれない。

「まさか、クジャが?」

「……わしも、色々と考えていたケロ……今回、姫たちについていこうと思うケロ」

「ご同行いたします」

「駄目ケロ、名前はここに残りもしもの事態に備えるケロ」

「な、何故ですか…!」

「暫く安静にしているケロ、名前は今まで十分働いてきたもらったケロ、たまには休むことも必要だケロ」

「……」

「不満、ケロ?」

「い、いえ、そのようなことは……」

 やはり、デルタたちの言っていた通りだった。ほぼ強制的に休みを取らされた名前は仕方なく、ブルーナシスに乗って国を出るジタン達の見送りにやってきた。

「名前お姉ちゃん、元気になってよかった」

「ありがとう……」

「本当によかった、エーコを助けてくれて、本当にありがとう!」

「どういたしまして」

 泣きじゃくりながら抱き付いてくるエーコとビビをそっと抱きしめ、小さく微笑む。

「どうか、無事に戻ってきてくださいね」

「うん」

「お土産話、たくさん持ってくるわ!」

「…ジタン、ガーネット様たちを、頼みましたよ……もしもの事があったら、許しませんからね」

「お…おう、任せろ!」

「殿下、どうか、お気をつけてくださいませ」

「うむ、こやつらがいるから問題ないケロ、さて、出発するケロ!」

「ガーネット様も、どうか」

「―――」

 今まで悲しい出来事が立て続けに起こったために、ガーネット姫は言葉を話すことができなくなってしまったのだ。口をぱくぱく、とさせ頷く姫を見て名前は胸を痛める。これだけの悲劇が積み重なり、尚も戦い続けるなんて。自分だったらとっくに自害しているかもしれない、それぐらい今回の事はガーネット姫の心に深い傷を負わせた。自分の力で国や民が殺される、想像しただけでゾッとしてしまう。

「スタイナー殿、フライヤ殿、サラマンダー殿…そして……えーっと」

 船に乗っているク族は、ジタンたちの仲間なのだろうが、恐らく今回が初対面。言葉に困っているとジタンが彼の事を紹介してくれた。

「あぁ、こいつはクイナっていうんだ、で、今回船を操縦するのはブランク」

「よろしくアルよ」

「ども」

「お二人も、どうかお気をつけて」

 ブランクという名はガーネット姫の口から一度聞いたことがあった。確か、魔の森で窮地を救ってくれた人物だと。

「ブランク殿、魔の森ではガーネット様たちを救ってくださり、ありがとうございました」

「い、いや別にそんな…」

「何だブランク~照れてんのか?」

「うるせぇよ!」

「ルビィが聞いたら怒るだろうな~」

「っちょ、なんでそうなるんだよ!」

 彼らの会話はよくわからない。賑やかな一行を見送り、名前は城内へと戻っていく。一方、ブルーナシスではこんな会話がされていたとか。

「かわいいだろ、あの子」

「あぁ、あれぐらいあいつもしおらしければなぁ」

「あの子はしおらしい、というよりは人見知りケロ」

「ん~シド大公随分と詳しいじゃん」

「当たり前ケロ、あの子の事は赤ん坊の時から知っているケロ!ヒルダも、あの子の事は我が子のようにかわいがっていたケロ……あの子は立派ケロ、普通の女の子として生きる道を選ばず、両親と同じく国を守る道を選んだケロ、ここだけの話、あの子には何度か縁談が持ち掛けられたケロよ、でも、あの子は断ったケロ」

「へぇ……」

「ご立派ですなぁ、名前殿」

「結構逞しいのね、名前は」

「うむ、我が国の誇る軍人ケロ、これもあの子の母、シェスカの影響も強いケロね」

「あぁ、あのすげー美人だけど物凄い怖そうな将軍かぁ」

「失礼であるぞジタン!」

「いてっ、殴る事ないじゃないかおっさん!」

 ジタンの失言にスタイナーは勢いよく彼を殴りつける。

「確かに見た目は冷徹そうに見えるケロ……わしも、一度はあの目で睨まれたいケロ、きっと、ドキドキする事間違いなしケロ」

「――――」

 一生カエルの姿でいろ。この時、女性陣は同じことを考えていたとか。

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