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生きる/18

<決戦に向けて>

 ヒルダガルデ3号から、珍しく通信があった。通信内容はこうだ。ジタン達はイプセンの古城にてテラへのカギを見つけたそうだ。テラへの入口を封印している4つの祠にそれらを収め、彼らは輝く島からテラへ突入したらしい。その通信からしばらくして、ヒルダガルデ3号はリンドブルムに帰還した。

「エリン、お疲れ様」

「あ、ややぁ名前ちゃん……」

 メンテナンスの為、ヒルダガルデ3号は一番ドックに収められた。名前は昔から近所づきあいのある船乗りのエリンが今回これの操縦をしているのを知っているので、早速出迎えにやってきた。エリンと名前、レイルとデルタの4人は家が近いので幼い頃何度か遊んだことがある。エリンの方が5つ上なので、彼らにとっては兄のような存在だ。

「ジタンたちは、無事テラへたどり着けたのね」

「う、うん、そ、そうだと思うよ」

「じゃあ、メンテナンスがんばってね」

「う、うん―――」

「クックック……」

「レイル、何笑ってるの?」

「いや、なんでも……じゃあな、エリン」

「レイル、き、君は全く…わ、笑わないでく、くれよ!」

「悪い悪い、でもさ、エリンのそれ、面白すぎ……」

 彼は知っている。エリンが名前に思いを寄せていることを。だから笑っているのだ。しかし、そういうことに関して全く興味のない名前は、彼がどうして挙動不審になっているのか知る由もなかった。

 それから1週間後、事態は急展開へと転がる。ジタン達のお蔭で霧が殆どなくなり見通しのよかった世界が、ある日を境に再び深い霧に包まれてしまった。霧が無くなったお蔭で魔物の数も急激に減り、霧の大陸に平和が訪れた…はずだったのに。リンドブルムの外には強い魔物が出るようになり、人々には暫く外出を禁じるよう命令が下された。

「大公殿下、これは一体どういう事でしょうか」

「うむ……テラで、何かがあったようだ、この霧の発生源は、外側の大陸……あのエーコという少女が、イーファの樹と呼んでいた場所に間違いない」

「イーファの樹……」

「そこから強力な魔力の波動を感じる……気になっているのは、あれから姫たちから何の知らせもないことじゃ、もしかして姫は……自分たちだけで、あれを何とかしようとしているのかもしれない」

「クジャと、戦う、という事でしょうか」

「うむ……恐らくは、テラで何かあったに違いないブリ……ゴホン、バグーを呼ぶのじゃ」

「―――御意」

 相変わらず、ブリ虫時代の名残を引きずっている様子だ。名前はシド大公に命令された通り、盗賊頭のバグーを謁見の間まで連れてきた。

「バグー、何かを知っているな」

「……あぁ、知っているぜ、ジタン達のことだろ」

「あいつらは、無事ガイアに戻ってきたな?」

「あぁ、風の噂でそう聞いてるぜ……どうせ、もう調べはついているんだろ?」

「うむ」

「あいつらは、戦闘準備を整えてあそこに向かったそうだ」

「……やはり、か」

 あそこ、とは勿論イーファの樹の事だ。しかし、あそこの霧はどこよりも濃く、発生源である為魔物との戦いも命がけになるだろう。

「恐らく、クジャはあそこで待ち構えておる、そして、ジタン達を阻むじゃろう」

「……行くんだろ、俺ぁそのつもりで来たんだが」

「姫たちはわしらに気を使って何も言わずにいるのだろう、しかし、すべての重荷を彼らだけに背負わせるわけにはいかない、この世界の命運がかかっているのだからな―――わしらも、立ち向かうぞ!」

 シド大公の命にり、各地に散らばっていた隊はリンドブルムに集結、そしてヒルダガルデ3号を中心とした飛空艦隊が組まれることとなった。シド大公の乗るヒルダガルデ3号にはプリヴィア親子が束ねる隊、戦空挺ヴィルトガンスにはレイルやデルタたちの束ねる隊がそれぞれ乗船する事となった。

「話は聞いた、シドよ」

「―――これは、ブルメシア王、これは一体……」

 出陣日の朝、ブルメシアよりブルメシア王と竜騎士たちがやってきた。多くのドラゴンを従えやってきたブルメシア王は、ただ黙ってシドに手を差し伸べる。

「―――これは」

「友の、手を差し伸べに参った」

「――――――なんと、ありがたい事か…」

 ブルメシアは竜と竜騎士たちを引き連れ、ともに戦ってくれるようだ。ブルメシア王はあの時の恩を返しに来た、そうつぶやいて。そうこうしているうちに、アレクサンドリアのベアトリクスから出陣したとの連絡が入る。それらを遠くから見つめ、名前は胸が打ち震えるのを感じた。かつてバラバラだったこの3ヵ国が、一つの事をきっかけに再び固いきずなで結ばれ、こうしてともに世界を守るため手を差し伸べる。なんと素晴らしい世界だろうか。この素晴らしい世界を、テラだかわけのわからない世界に奪われるなんて、まっぴらごめんだ。

「名前・プリヴィア、この度、貴殿を副将軍に任命する」

「―――死力を尽くし、戦います」

 出発する直前、名前はシド大公から新たな剣を授かった。周りから拍手が沸き起こり、その中にはブルメシア王の姿もあった。授けられたのは、知られざる国宝、カムイの剣だ。受け取る様子をシェスカはほほえましく見つめる。我が子が、こんなに大きくなるなんて。亡き夫も今頃天国で喜んでいるだろう。

「すごいな、知られざる国宝なんかを授かるなんてさ」

「うん、ちょっと驚いちゃった」

「それに副将軍だなんて、すごいじゃないか!」

「えへへ……」

 これが、恐らく最後の戦いになるだろう。通信機で仲間のデルタ達と会話をしながら、名前は来るべき時が来るまで待った。

「そういえば、結婚式延期になっちゃったね」

「そりゃ仕方ないさ」

「この戦いが終わったら、だな」

「スピーチは読んでやるから、安心しろよ!」

「うるさいレイル」

 暫く飛行していると、霧が濃くなったため空を飛ぶ魔物の数が増えてきた。それらの魔物は主にブルメシアの竜騎士たちが片付け、片付けきれなかったものをアレクサンドリア、そしてリンドブルムの兵たちが倒して進む。霧の奥に、不気味な紫色の光が見えてきたところで、ジタンたちの乗っているインビジブルという飛空艇が目に入った。大量のドラゴンがインビジブルを襲うが、それらを大砲などで蹴散らしていく。ブルメシアの竜騎士たちも負けてはいないようで、次々とドラゴンたちを倒していった。流石は竜騎士、といったところだろう。

「我々も負けていられないな!」

「―――はい!」

 シェスカたちも負けじと、強力な魔法を放ち、ドラゴンたちを蹴散らしていく。彼らの進む道を阻むものは、誰とて許さない。シド大公たちは、心を一つに希望の光を守り抜く。ガイアの人々にとって、彼らは希望の光なのだから。

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